ラ・リーガにおける歴代の日本人選手を評価するうえで、分岐点となったのが乾貴士だ。

 1990年代後半から日本人として初めてラ・リーガ1部の舞台に立った城彰二(バジャドリー)を筆頭に、西澤明訓(エスパニョール)、大久保嘉人(マジョルカ)、中村俊輔(エスパニョール)ら代表クラスの選手が次々にスペインに上陸したが、いずれも適応力、あるいは実力不足を露呈した。

 日本市場へのマーケティング効果も含めたエキゾチックな話題ばかりがクローズアップされ、2004年の1月に加入して3ゴールを挙げて残留に貢献した大久保のマジョルカ1年目を除けば、ピッチ上で残したインパクトは薄かった。むしろ福田健司や指宿洋史といった2部以下のカテゴリーでプレーした選手のパフォーマンスのほうが目立っていたほどだ。

 こうした経緯が重なり、一時ラ・リーガの各クラブは日本人選手の獲得に二の足を踏む状況が続いていた。サムライたちにとって、スペインはいわば鬼門の地だったのだ。
 
 しかしそんな中でも、日本代表はワールドカップに出場し続け、ブンデスリーガをはじめ欧州で活躍する日本人選手の数が年々増加していた。グローバル化の波も追い風に日本サッカーが確実に成長していた証であり、その流れに乗って2015年夏にブンデスリーガ経由でエイバルに入団したのが乾だった。

 入団当初こそそれまでの日本人選手と同様に守備の献身性やディシプリンといった泥臭さという部分での貢献のほうが目立っていたが、試合を重ねるにつれてチーム戦術への習熟度が進み、攻撃面でも存在感を発揮。3シーズンに渡って中心選手として活躍した。

 ベティスではノーインパクトに終わったが、昨冬に移籍したアラベスでも持ち味を見せ、サイドアタッカーとしての実力はラ・リーガでも上位の部類に入ることを証明した。日本代表でエースだった城や10番を背負った中村でさえぶつかった壁を、小柄なドリブラーが打ち破ったのである。

 出戻りとなった今シーズンは、最初の在籍に比べてパフォーマンスは落ちている。ただこれは16位という順位が示すようにチーム全体の機能性の低下とも無関係ではない。ペナルティーエリア角付近でボールを持ってドリブルから決定機を演出する、あるいは中に切れ込んでファーサイドに巻いたシュートを放つという十八番のプレーは、まだまだ通用するはずだ。
 
 今シーズン、ラ・リーガ1年目ながら、その乾をも上回る小さくないインパクトを放っているのが、レアル・マドリーからマジョルカへレンタル中の久保建英だ。幼少期にラ・マシア(バルセロナの下部組織の総称)で過ごした経験がプラスに働いているのは間違いない。ただ弱冠18歳で一線級の選手に交じってもまるで物怖じしない堂々たるプレーぶりは、日本人選手という括りを抜きにしてでも、高い評価に値する。

 最大の武器は、敏捷性と器用さを活かしてボールが足に吸い付いているかのように内からも外からも変幻自在に仕掛けるドリブルだ。フィジカルは成長段階にあるが、守備の献身性も光る。すべてを支えているのが日々貪欲に学んでいこうとするひたむきな姿勢であり、マジョルカで確実に進化を遂げている。
 
 実力があっても、プレーする環境によって大きく左右される選手がいる。柴崎岳はその典型的なケースだろう。彼もまた日本サッカーの成長を実証する選手で、鹿島アントラーズ時代のクラブワールドカップでの活躍を置き土産に2017年冬の市場で2部のテネリフェに移籍。その前評判通りに一旦レギュラーに定着するとチームの昇格プレーオフ進出に貢献と、ここまでは順風満帆だった。

 しかし同年夏のヘタフェへの移籍を境に、そのキャリアは停滞気味だ。怪我や守備を重視するホセ・ボルダラス監督が採用するチーム戦術との相性の悪さも重なり、2シーズンに渡り、ベンチ生活が続いた。巻き返しを期して、昨夏にカテゴリーを落としてまでデポルティボへの移籍に踏み切った。今度こそ活躍が期待されたが、その新天地でももがき苦しんでいる。

 ここまで19試合に出場し、そのうち18試合でスタメン出場とチーム内で与えられているのは主軸としての役割だ。とりわけクリスマスブレイク期間中のフェルナンド・バスケスの監督の就任が転機となって2ボランチの一角としてスタメンに復帰し、期待感が高まった時期もあった。しかし本職の中盤でプレーしていると言っても、その実は背後をカバーするパートナーと縦の関係を構築する場面が多く、ビルドアップの起点になるというよりも、高めのポジションを取りながら攻撃を加速させる役割に終始している。

 ポジションを常に調整しながら、ライン間で縦パスを引き出そうと幅広く動き回っているが、指揮官の求めるダイレクトなサッカーと柴崎の特徴がうまく噛み合っていないのが現状だ。図らずもチーム戦術とのアンマッチというヘタフェ時代から直面している問題をデポルティボでも引きずってしまっている。ロシアW杯でも証明したように、司令塔型のMFとしての実力は確かだが、スペインではその特別な個性を輝かせる舞台を今なお発見できずにいる。
 
 昨夏、欧州での豊富な実績を引っ提げてラ・リーガ2部に新たな挑戦を求めた両ベテラン、香川と岡崎の“両シンジ”はくっきり明暗分かれる結果となっている。期待を裏切っているのが香川だ。昨夏サラゴサに鳴り物入りで入団したが、開幕以来、輝きを放ったのは最初の数試合だけ。明らかになったのは31歳になり、2部特有のタフなサッカーについていけないフィジカルの衰えと、それに伴って周囲のサポートと一定の役割を得られないと持ち味を発揮できないプレースタイルの特殊性である。
 
 香川と言えば、ユルゲン・クロップ(現リバプール監督)時代のドルトムントでのプレーが我々スペイン人の間でも強い印象が残っているが、サラゴサでも序盤は当時と同じトップ下のポジションを与えられた。
 
 ただFWラファエル・ドゥワメナの長期の戦線離脱、その代役としての同じトップ下タイプのハビ・プアードの加入、司令塔イニゴ・エグアラスの成長、ルイス・スアレスのエースとしての一本立ち、4-3-1-2から4-2-3-1へのシステムの変更と、シーズンが進むにつれて周囲の状況が変化する中で、対応力不足が仇となり、居場所を見出すことができていない。
 
 一方の岡崎の良さは、まさにその香川に欠けている主役にも脇役にもなれる対応力の高さにある。一時スタメンから離れて途中出場が続いた時期もあったが、試合展開や相手の守備に応じてプレーと役割を変えられる戦術的柔軟性を武器に中断前の時点では再びポジションを奪取。1部復帰を目指して好調をキープしていたウエスカで出色のパフォーマンスを披露した。
 
 相手のマークを引き付け、中盤やサイドといった味方の選手にスペースを作るプレーは職人芸の域にあり、またどんな状況にも動じないメンタルタフネスと競争心の高さも特筆に値する。久保とはまた異なり、円熟味が加わった技術でチームに貢献するその姿は、我々スペイン人にも、日本人選手の相対的なレベルの向上を確かに印象付けている。
 
文●アレハンドロ・アロージョ(エコス・デル・バロン)
翻訳●下村正幸
 
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