昨夏に久保建英がマジョルカに加入してから最初の1週間、監督のビセンテ・モレーノと第2監督のダニ・ペンディンは、一抹の疑問を抱いていた。この日本人ニューフェイスが、ロッカールームにスムーズに溶け込めるかどうかという点についてだ。

 現在のマジョルカは、2部B(実質3部)時代からともにプレーしてきた選手たちが主力を占める。一方の久保は、約4年間カンテラに在籍したバルセロナを蹴ってレアル・マドリーを選んだというバックボーンに加え、そのマドリーでのプレシーズンマッチで18歳とは思えない実力を披露し、大きな注目を集めていた。

 ともにマジョルカの残留のために手を携えて戦うことになったが、久保はまるで異なる銀河から舞い降りてきたようなオーラを纏っていた。しかし、ふたりの不安は完全に杞憂に終わった。ダニ・ペンディンが述懐する。

「初めて話をした時に、われわれの不安は吹っ飛んだ。タケの受け答えは、26歳の大人のようにしっかりしていた。わたしには19歳の息子がいるんだが、タケのほうがずっと年上に感じるよ」
 
 さらにダニ・ペンディンは、Bチームの選手を比較対象にしてこう続ける。

「トップチームに選手が不足すると、Bチームから若手を呼ぶ。彼らと話をしていると、こちらをじっと見ているだけで、はたしてわたしが説明した内容を理解しているのか疑問に思うことが少なくない。

 その点、タケはまったく異なる。人の話を注意深く聞き、考え方もオープンだ。しかもしょっちゅう質問攻めをしてくるんだ。セットプレーとかポゼッションとか内容は多岐に渡る。とにかくタケは好奇心が旺盛だよ。ミスをしたくないという向上心の表われでもあるだろう」

 その熱意の甲斐もあって、久保のマジョルカにおける重要性は日増しに高まっている。この第2監督は、「いまやマジョルカに欠かすことのできない選手だ。開幕当初は後半からの途中出場が続いたが、そこでアピールして重要な存在になった」とその成長ぶりに目を細める。
 
 マジョルカのOBで、現役引退後は2011年から2015年にかけてBチームとトップチームの監督を務め、現在は有料TV局「モビスタル」のコメンテーターとして活動しているミゲル・ソレールも「久保がいるといないとでは大きく異なる。今のマジョルカにおいて創造性で彼の右に出る者はいない」と同調すると、さらにその評価はプレースタイルにも及んだ。

「テクニックと局面打開力に優れ、物怖じしないパーソナリティーも素晴らしい。ファイナルサードで違いを生み出すプレーができる選手だね。今後の課題は状況とエリアに適したプレーの選択と継続性だろう。際立った活躍を見せるには、少しでも長い時間帯で持ち味を発揮する必要がある」

 開幕以来、ビセンテ・モレーノ監督が久保の育成において特に力点を置いたのが守備面での貢献だ。ダニ・ペンディンはその点でも進化を遂げていると太鼓判を押す。

「強豪チームだと、前線の3トップが守備時にプレスバックしなくてもさして大きな問題にはならない。でもうちのようなチームでは、一人でも守備をサボるのはご法度だ。タケも最初は苦労していた様子だったけど、今ではこちらから指示を出さなくても、プレスバックして守備に奔走している。チームが降格を回避するには、守備面でも貢献しないといけないということを明確に理解できている」
 
 もちろん久保の魅力は攻撃にある。ダニ・ペンディンは久保のルーツに沿って、その異才ぶりをこう表現する。

「バルサのカンテラ出身らしい正確なパス技術と瞬時の判断力に加え、マドリーの選手特有の素早くスペースを突くドリブルを兼ね備えている」

 現在、久保はマドリーからレンタル移籍中だ。来シーズン、復帰してトップチーム入りの可能性もあるが、ミゲル・ソレールは時期尚早との見方を示す。

「マドリーには素晴らしい選手がそれこそゴロゴロいる。来シーズン、マドリーで活躍している姿は現時点では想像できない。フィジカルをさらに強化して、ボールを持っていない場面での運動量を高めることが重要だ」
 
 いま、久保はマジョルカ島で母親と一緒に暮らしている。免許を持っていないため、日々の練習場への送り迎えも彼女が車を運転して行っている。

 自粛期間中も母親と過ごしたが、その間積み重ねたトレーニングによる成果がチーム内外で評判となっており、ダニ・ペンディンも努力の効果を認める。

「充実した毎日を過ごしていたのは分かるよ。庭に小さな芝生の広場があって、遊びがてらにボールを蹴れたのも大きかったはずだ。チームには、手狭な家で、一人で過ごしていた者も少なくない。彼らは様々な不自由を強いられていた。わたしだって、かれこれ4か月間、妻と子供たちに会うことができていないんだ」

文●ロレンソ・カロンヘ(エル・パイス紙)
翻訳●下村正幸

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