レアル・マドリーの首脳陣は、常々アシュラフ・ハキミの課題はSBとしての守備面にあると考えていた。2年前にレンタル修行先にボルシア・ドルトムントを選定したのも、そうした思惑が背景にあった。しかし時に若者は想像を大きく超える成長を見せる。ハキミはドイツの地でサイドアタッカーとしての資質が開眼。今シーズン、45試合に出場し、9得点・10アシストの数字を残した。

 そしてこの活躍が決め手となって、この度、ハキミは移籍金4000万ユーロ(約50億円)+ボーナス500万ユーロ(約6億円)でインテル・ミラノへ移籍することが決定した。マドリーにとってはダニエル・カルバハルの後継者と目されていた期待のホープの想定外の流出である。

 インテルがハキミに着目したのは、今シーズンのチャンピオンズ・リーグ(CL)グループステージ第4節のドルトムントとの直接対決だった。試合は2点ビハインドで前半を折り返したドルトムントが後半、ハキミの2発を含む3得点で逆転勝利を収めた。そしてこのパフォーマンスが敵将のアントニオ・コンテの脳裏に強く印象付ける結果となった。

 ハキミが次の移籍先にインテルを選択した重要なファクターの一つがその指揮官が採用する戦術だ。メインシステムは3−5−2で、サイドはウイングバックが攻守に一手に引き受ける。オープンスペースに侵入するプレーが持ち味のハキミ向きの戦術であり、逆にマドリーが軸とする4バックは守備の課題を露呈しやすい。
 
 このモロッコ代表の21歳は、2006年に7歳でラ・ファブリカ(マドリーのカンテラの愛称)に入団した。当初はFWだったが、カテゴリーが上がるにつれ右ウイング、サイドバックとポジションを下げていった。もっとも持ち場に関係なく持ち前の攻撃力を発揮し続け、それは後にカンテラ時代にしのぎを削り合ったボルハ・マジョラル(現在はレバンテにレンタル中)が「僕からポジションを奪う実力はあったよ」と冗談交じりに語ったほどだ。

 攻撃好きについては本人も自覚しており「僕はストライカーのマインドを持ったサイドバックだ」と公言している。しかしマドリーの首脳陣は、あくまでサイドバックとして育てる方針を見直すことはなく、そこで障壁となるのが不動のレギュラーのカルバハルの存在だった。「現状ではカルバハルを押しのけてプレーするのは難しい。しかもハキミは常時出場できる環境を求めていた」と、クラブ関係者もこう証言する。
 振り返れば、2年前にドルトムントにレンタル移籍した時も、ライバルの存在がハキミの決断を後押しした。当時から不動のレギュラーだったカルバハルに加え、同年夏3000万ユーロ(約37億5000万円)の移籍金でアルバロ・オドリオソラ(今年1月にバイエルン・ミュンヘンに半年間の期限付き移籍)がレアル・ソシエダから加入。「ちょうど可能性を探っていたところだった。あれでもう出て行くしかないと確信に変わったよ」と本人もその事実を認めている。

 マドリーとしても、カルバハルがバリバリ働ける中、伸び盛りのハキミを無理に引き留める理由はなかった。武者修行先で成長したタイミングで復帰させるという当初の青写真とは異なる展開にはなったが、その分、高額の移籍金が懐に入り、さらには来シーズン、バイエルン・ミュンヘンからオドリオソラがレンタルバックし、飽和状態になる恐れがあった右サイドバックの人員整理を図ることができた。

 インテルと交わした契約には、将来環境を変えることになった場合、優先的に再獲得できる条項が盛り込まれている。インテル、マドリー、ハキミと3者ともにウィンウィンのオペレーションだったと言えそうだ。

文●ダビド・アルバレス(エル・パイス紙マドリー番)
翻訳●下村正幸

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