「来シーズン、久保はもう一つ上のレベルでレギュラー争いをするべきだ」

 これは誰もが思っているところだろう。彼の当面の目標は、レアル・マドリーで主力として戦うことだからね。今シーズン、確実に“久保建英”という名前をスペインのサッカーシーンに刻んだので、「久保がほしい」というクラブはたくさんあるのは当然だ。

 僕自身も直接そういう声を聞いた。

 昨年12月のクラシコ「バルセロナ×レアル・マドリー」を現地で観戦したんだけど、そのときにレバンテの監督、パコ・ロペスと同じテーブルで食事をすることになった。スペインでプレーしていたときの友人に誘われてレストランに着くと、そこにパコ・ロペスもいたんだよね。

 話を聞くと、毎週月曜日の夜にバレンシア州出身の友人10名くらいで食事会をしていて、彼もそのメンバーの一員だそう。久保のボス、マジョルカの監督ビセンテ・モレーノもそのメンバーだと言っていたけど、そのときは用事があって欠席だった。

 12月中旬の段階だったけど、パコ・ロペスは久保のことを手放しで褒めていて、「ほしい」と僕に強く言っていた。

 僕は彼がすごくいい監督だと評価していて、強豪クラブに引っ張られる可能性もあるんじゃないかと思っている。ここ数シーズン率いたレバンテは、リーガの中堅クラブながら、マドリーやバルサなど上位クラブを相手に最も勝星を挙げている。

 戦術的に分析しても、すごく優秀な監督で、ボールをしっかり後方からつなぎながらも、自分たちが不利な場合は2トップがどう守備に加わって、かつ奪ったあとにどう攻めるかまで戦術に落とし込んでいる。守り方を決めてから攻め方=槍を選ぶのではなく、槍を決めてから守り方を決められる監督はそう多くない。
 
 自分たちが「今日の試合は守れる」と判断したときは、2トップ+2サイドハーフを攻撃的にして、「4−4−2」のボランチ一枚も攻撃に比重を置いてプレーさせる。もちろん自分たちが格下だと決断したときは「4−4」の2ラインを守備的にし、その代わり2トップを2人ともスピードのある選手にしてカウンターを積極的に狙う。そのカウンターをどこから発動させるのかをきっちり戦略としてチームに落とし込み、相手によって戦術を変えられるチームづくりができる。

 そんな優秀な監督が、「久保がほしい」というんだからうれしいよね。

 今シーズンのレバンテは相手が攻めてくれてカウンターを発動させたときは力を発揮できるんだけど、後ろからボールをつなぐときはゴールにつながる回数が圧倒的に少ないのが悩みだった。パコ・ロペスは「久保がいると、カウンターを繰り出せなかったときにも攻撃の質を高められるから、ぜひうちにほしい」と熱く語っていた。

 来シーズンに「もう一つ上のレベルでレギュラー争いをする」ことは、久保自身も望んでいるはず。もう一段階上のレベルの選手たちと「誰の間合いでフットボールをするのか?」という争いをしたほうがいい。そういう状況の中で、監督も認めてくれる環境でさまざまなチャレンジができるのはすばらしい経験になる。
 
 今シーズン、久保はマジョルカで王様としてプレーできた。その経験、得た引き出しはいろいろある。その開け方、使い方を間違わなければ十分に通用するレベルにある。普通の選手はこれまで自分の武器だと思っていたモノが間合いの違うリーグ、ステージでうまく発揮できないとき、「なぜ通用しないのか?」と原因を周囲に求めてしまうことがある。けど、久保は自分の中に原因を探して解消することに集中した。

 もちろんシーズンの最初の頃は考えながらプレーしていたと思う。でも、今は間違いなく無意識にプレーしている。考えないことは判断スピードが上がるということなので、当然プレースピードも上がる。だから、相手より一歩先をいける。相手が「久保、何をするのかな?」と考えた瞬間に、彼は何も考えずに先にプレーしてしまっている状態だね。

 今シーズン、何度も見せたロングレンジのドリブルは無意識に感覚的に行なっていた。

 相手の間合いになってもクッとへその向きを変えながら自分の間合いに引き戻して優位な状況を作り出していた。無意識に体が反応している感じだった。これは訓練された「無意識」だと思う。それを正しいときに、正しいポイントで実践することができるのが久保の強み。間違いなくバルセロナで鍛えられたものだ。
 
 6月の戦術解説コラム『CL優勝を見据えるバルサが直面する「メッシ問題」。戦術をとるのか、エースをとるのか――』にも書いたけど、認知したものを無意識に判断できる選手がそろっているのがバルサで、彼もその能力を培っている。

 現在のバルサは意識してメッシを見ているから歯車がかみ合わない。でも、マジョルカは新型コロナウイルスの影響によるリーグ中断明け以降、久保の成長とチームの彼への理解が相まって歯車が噛み始めた。だから、久保は無意識状態でプレーできていた。アタッキングサードでは意識レベルのスイッチは入れているけど、「考えて、どうしよう?」というよりは意識と無意識の狭間くらいの感覚でプレーしている。

 たとえば、ゴールが見えた瞬間に、もう足が振れているとか。

「よし、打とう」と思ってから足が上がるのではなく、そう思ったときは足が上がっている。久保は今シーズンの終盤に、その領域に入っていた。スペインでは和製メッシと形容されるのではなく、“久保建英”という名前で見られるようになったし、もはやメッシと比較される領域に近づきつつある。

 来シーズンはもう一つ上のレベルで、チームの間合いを自分が掌握できるかどうかの主導権争いをしてほしいと、僕は思う。久保がどの領域の無意識を見せてくれるのか、楽しみだ!

 僕のたとえ話で申し訳ないけど、アンダー20の世界大会で自分が試合ごとにうまくなっている感覚を得たことがあった。現役時代にそういう感覚を得たのは唯一その大会だけ。ミスした後、「あー、このシーンはこれで失敗したから次はこうしよう。こう運び出したら相手をはがせるな」と瞬間的に思うと、ゲーム中にそれができてしまうことがいろいろあった。

 ボールを奪われた後は、ちょっとの間、そのプレーのことを意識して振り返るもの。その大会中は試合中に似たシチュエーションに出くわすと、練習もしていないのに無意識にそれができてしまっていた。

「オレ、うまくなってる」

 サッカー人生の中で、たった一瞬でうまくなっていると実感することができた時間だった。身体は疲れているんだけど、頭の中は整理できている。きっと久保も今シーズンは似た感覚を持っていただろうし、彼はもっと高い次元でそれを感じていただろうからもっと試合をしたいだろうし、早く来シーズンが来てほしいと思っているはず。

 移籍先にレアル・ソシエダという名前も挙がっていたけど、どうだろう? たぶん今の状態なら適応度が早いだろうけど、あそこは右のワイドでボールに触らずガマンの時間が多いから「マドリーに戻ることを前提に考えると、果たしてプラスになるのかどうか?」疑問に感じる。

 久保の成長を第一に考えると、ソシエダへの移籍はクエスチョンが付く。

 セビージャは、ちょっと早い気もするけど、あのチームは右SBにヘスス・ナバスがいるから久保とのコンビはおもしろいよね。1対1を推奨しているチームだから見てみたい気はするね。

 次のステージに行ったとき、彼個人がどんな化学反応をするのか、期待しかない。これだけワクワクする選手がでてきたことがすごいよね。
 そして、日本代表だよね。

 最初に断っておくけど、僕は代表を詳しく追っているわけではないから、あくまでもテレビ放映で目にしている範囲の話になるよ。それを前提に、代表での久保を語るのであれば、「彼をどうすれば生かせるのか?」というチーム作りをすべきだと考えている。もうそのシフトを組んでいいと思う。

 古い話になるけど、世界のサッカーにはバッジョと合わないから試合に出場できないシニョーリがいたり、マラドーナがいるから代表に呼ばれないラモン・ディアスがいたりする。

 基本、チームに王様は二人いらない!

 誰かが中心になるわけだから。久保と合わないことが理由で試合に出場できなかったり、陽の目を浴びなかったりする選手は必ず出てくる。すべてを含めて考えることができないし、そんなことを言っていたら「目標はワールドカップでベスト4」なんて達成できない。

 たとえば、南野のほうが所属クラブでシビアな争いをしているけど、僕は久保を中心にしていいと思う。彼に合う選手をまわりに集めていい。最終ラインの作り方からライン設定に至るまで久保を中心にボールが回ることを想定したチームづくりをしていい。

 具体的にどんな組み合わせがあるのかなど、そこまでは提示できないけど、チームの作り方を変えるくらいの逸材が登場したわけだから、11分の1という考えではなく、1+10という特別な考え方をして大胆なチームづくりをしても今後の日本のプラスになるのではないか、と。
 
 名前を出すのは少し忍びないけど、久保は「中島翔哉のように自分が輝くことでしか周りを輝かせられない」選手ではないから。

 つまり、自分が黒子になっても周りを輝かせられる選手なんだ。彼を基準に並べたところで、他の選手も輝くことができる。でも、中島の場合は輝かない選手が出てしまう。だからこそ久保を中心にベストのシステム、ベストの選手の配置と組み合わせを見つけるべきだ。

 たぶん中島と久保を左右の両サイドに据えても相殺してしまうと思う。言い方は乱暴になるかもしれないけど、だったら犠牲になるのは中島かなと。システムを含め、久保をどこに置き、誰と組み合わせることで最大限に輝くかを探したほうが今後の日本代表のためだと感じているので、森保監督のチームマネジメントを楽しみにしたい。

 きっと大迫や南野など現代表との組み合わせが候補に挙がるだろうけど、たとえばJリーグでの活躍を前提として鹿島の染野唯月のような若い選手を大抜擢する手もある。個人的にはおもしろいと思うし、海外の代表ではそういう手法をよくやる。

 中島は自分の間合いでしかプレーできず、しかもその間合いが限られた範囲で狭い印象がある。ハマっているときとハマっていないときの差が激しいし、ましてや代表は限られた試合数しかないから難しいんじゃないかなというのが僕の意見。まったく必要ないわけではなく、たとえばチームが膠着していて一つの起爆剤がほしいときに交代として起用するのはいいと思う。

 今シーズン前までは、森保さんの中で中島が軸になっている気がするけど、僕は久保中心の代表を見てみたい。
 
 CFタイプがいてのトップ下なのか、南野と縦関係なのか……。久保が右だったらトップで縦関係は誰と誰の組み合わせなのか、そして右SBは誰を据えるのか。攻撃を右重心に作った場合、左でバランスをとりながらパフォーマンスを発揮できるのは誰なのか。左右両法でアタックを仕掛けられるほど、現在の日本はアジアでも立ち位置が高くはないだろうから。

 正直、具体的な組み合わせを問われると勉強不足でJリーグの試合まで数多くチェックする時間がないから思い浮かばない。多少海外リーグで戦う日本人選手ならわかるけど、たとえば鎌田との組み合わせは興味がある。彼はドリブルでスーッと真ん中を抜けられて、シュート力がある。

 トップでもないし、トップ下でもない鎌田は南野との縦関係を作り、その隣で久保がいたとするとちょっとおもしろいプレーをしそう。代表チームの作り方として選手の持つ個性によって戦術が変わるように構築していったほうが時間も有効活用できる。

 どの国も代表チームは全国民がそれぞれのベストイレブンの正しさを主張しながらワイワイ観戦するものなので、僕は久保を中心に代表チームを楽しみたいと思っている。

 それくらい、久保にはただただ脱帽してる。 

分析●安永聡太郎
取材・文●木之下潤
※取材はシーズン中に行なっています。

【分析者プロフィール】
安永聡太郎(やすながそうたろう)
1976年生まれ。山口県出身。清水商業高校(現静岡市立清水桜が丘高校)で全国高校サッカー選手権大会など6度の日本一を経験し、FIFAワールドユース(現U-20W杯)にも出場。高校卒業後、横浜マリノス(現横浜F・マリノス)に加入し、1年目から主力として活躍して優勝に貢献。スペインのレリダ、清水エスパルス、横浜F・マリノス、スペインのラシン・デ・フェロール、横浜F・マリノス、柏レイソルでプレーする。2016年シーズン途中からJ3のSC相模原の監督に就任。現在はサッカー解説者として様々なメディアで活躍中。