「久保建英は、サンティ・カソルラになれるか?」

 それが今回、編集部から受けた原稿依頼のテーマである。

 35歳になるカソルラは、スペインを代表するMFの一人と言える。EURO2008、EURO2012では、シャビ、アンドレス・イニエスタらとともに欧州連覇に貢献。両足を使えて、小柄だが俊敏で、ゲームを作るだけでなく、得点力にも長ける。スペイン代表は軽妙なパス回しから“ティキ・タカ”と称されたが、その主役の一人だった。

 単なるファンタジスタではない。2年近い治療とリハビリを経て、復活。不屈の男でもある。1年に8度も足にメスを入れたが、原因は不明のまま、結局はアキレス腱をバクテリアに食べられ、骨まで溶けている状態だった。先行きの見えない苦闘を乗り越え、昨年は3年半ぶりに代表に復活し、得点まで決めているのだ。

 カソルラは、トータルで9シーズンを過ごしたビジャレアルで“生きる伝説”である。そのプレーだけでなく、生き方も含めて愛されてきた。シャビ監督のアル・サッドに移籍することを決めたが、209シーズンも二桁得点を記録しているのだ。

 19歳の久保が、その代役を目指す必要などない。不必要に重き荷を背負うことになるからだ。

 久保は、久保自身のプレーに専念すべきだろう。

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 なにより、新監督に就任したウナイ・エメリはスペインを代表する戦術家で、様々なフォーメーションを変幻に用い、いろいろな役目を選手に与える。柔軟なプレーを要求。相手次第、時間帯によっても、目まぐるしく適応を求める監督である。

 久保がまず見据えるべきは、そのエメリ監督の要求に応えることだろう。右サイドの攻撃的位置から中央に切り込み、決定的プレーをするのは、得意とする形ではある。しかし、それだけではスタメンは確約されない。システムは様々に変わるはずで、トップ下、左サイド、インサイドハーフ、あるいはゼロトップのようなポジションで指名されても適応できるか――。

 逆説的だが、久保はカソルラのようなプレーヤーであることが求められるかもしれない。

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 カソルラは、どのゾーンにいても、やるべきことを心得ていた。ゲームメイクができるし、コンビネーションを作るのに長け、俊敏にサイドを崩すこともでき、中に入っての得点力も備え、おまけにセットプレーのキッカーとしても異彩を放った。攻撃のリーダーだ。

 その点、久保はカソルラとよく似ている。違うのは、左利きという点だろうか。

「ビジャレアル戦はボールを追う形になって、疲れたよ。今度は、僕がその選手たちと一緒に戦えるんだ」

 入団会見で、久保はそう語っている。マジョルカ時代とは比較にならないほど、高い質の選手たちとの“競演”。それは熾烈な競争だが、大きな刺激にもなるだろう。

 カソルラが伝説になったビジャレアルというチームが、久保の成長の触媒になるのだ。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月には『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たした。