日頃から心身のコンディショニングに気を配っているサッカー選手は“おうち”でどのように過ごし、どのようなことを考えているのか。緊急事態宣言下で迎えるゴールデンウィークに合わせて、選手たちの日々の生活におけるちょっとした工夫やアイデアを紹介します。第1回は川崎フロンターレに所属する中村憲剛選手が登場。家族とのふれ合い、リハビリの取り組み方、2匹のワンちゃんなどについて語っていただきました。


取材・構成=青山知雄

写真提供=中村憲剛




◆■自由時間/家事手伝い(9:00〜10:00)



自由時間って書きましたけど、空き時間はできるだけ子供たちと家事をするようにしています。学校や幼稚園も休みですし、みんな家族の一員ですからね。洗濯、洗濯物干し、洗濯物の取り込み、食器洗い、床掃除、風呂掃除、布団干し……。料理を手伝うこともありますよ。今日の昼食は奥さんと一緒に焼きそばを作りました。といっても、混ぜただけですけど(笑)。朝は卵やベーコンを焼いたりしてます。子供たちに「おーい、お手伝いしないの? パパはやってるよ」って呼びかけていたら、少しずつやってくれるようになりました。ここは一緒に楽しみながらやるのがポイントですね。あとは息子が通っているサッカースクールのオンライントレーニングを一緒に見たり、学校の宿題プリントを教えたりしています。勉強も真剣に教えるので、長男は「先生みたいに怒られる」って言ってました(笑)。


◆■リハビリ(10:00〜12:00)



午前中は主にリハビリです。自宅でトレーニングをする機会が増えたので、新しくエアロバイクとバランスボール、それに筋トレ用のアンクルウェイトを購入しました。今は病院に行けないので、執刀医の先生やリハビリの先生がオンラインで左ひざの状態を診てくれます。また高木(祥)フィジオセラピストがリハビリメニューを毎日送ってくれるので、まずはそれに自宅で取り組んでいる感じですね。まだクラブハウスがクローズされているので、筋トレは自宅の和室を使ってやっています。足首にアンクルウェイトを巻いてのレッグカールやレッグエクステンションで太ももを鍛えたり、自重を使ったスクワットなどもやっています。チームからトレーニングアイテムも貸し出してもらっていますし、自宅でも可能な限りのリハビリをできるような準備ができていて、周囲のサポートにもすごく助けられています。トレーニングが終わったら、シャワーを浴びて昼食準備のお手伝いですね。


◆■犬の散歩(15:00〜16:00)



ブログやSNSでも紹介していましたが、実は開幕前後に犬を2匹飼い始めたんですよ。沖縄キャンプ中に妻から急に2匹の動画が日々送られてくるようになって……(苦笑)。実際に我が家へやってきたのが、ちょうどJリーグが新型コロナウイルスの影響を受け始めた頃でした。毛並みがサラサラしているほうが「ジジ」で、フワフワが「ルカ」。名前の由来は……僕のLINE BLOGで確認してみてください。ちょうど自宅でトリミングしたところなので、今は見分けがつきにくいかもしれないですが(笑)。2匹を飼うにあたって、子供たちと話をしたんですよ。家族の一員として迎え入れるからには、一緒にしっかり世話をするという約束を。午後の散歩もマスクをして周囲との距離など細心の注意を払って行きます。トイレも替えるし、ごはんやお水も気がついた人があげます。もちろん子供たちのすることなのでお世話に抜けや漏れはありますけど、親に任せっきりにしないで自分たちもしっかりやってくれています。子供たちの自立を促すという意味でも良かったかもしれないです。この大変な状況にワンちゃんが2匹来てくれたのはすごく助かるし、家族みんなが癒やされているのは間違いないですね。

――今回は「おうちウィーク」と題した企画の一環として、選手の皆さんに在宅での過ごし方をお伺いする連載を実施することになりました。現在、憲剛さんは左ひざ前十字じん帯断裂のリハビリ中で、新型コロナウイルス感染拡大の影響でチーム練習がストップしている状況です。まずは最近の一日のスケジュールから教えてもらえますか?


中村憲剛(以下、中村) まず朝9時までにクラブに自分の体温と家族の体調、前日の大まかな行動履歴を連絡します。これはJリーグで統一して実施している基本プロトコルです。クラブとしては、外出も外食も原則禁止。家に誰かを招待することもしてはいけません。つまり家族以外の人間に会わないということです。今は感染拡大を防止するために家にいることが何より重要なので、とにかく家族5人と2匹で過ごしています。家には子供が3人、犬が2匹いるので、彼らのうしろを追いかけて、それにプラスしてリハビリと散歩をしていたら夕食の時間に……。子どもたちの勉強、遊び、家事、リハビリに犬の散歩。日々こういう流れです。犬の散歩もちゃんとクラブに報告していますよ。


――なるほど(笑)。世間では“密”を避ける行動変容が求められていますが、一方で家族とは“密”な時間が過ごせている感じなんですね。


中村 そうですね。僕はもともと家族と過ごす時間が長いタイプだと思いますけど、今まで以上に子供たち3人にしっかり向き合えているし、普段からコミュニケーションを取れている妻とも、いつも以上に話をしています。まあ、騒がしくもありますが、そういった部分では家庭内のコミュニケーションは円滑かもしれないですね。ただ、ケンカもしたりするので、そういうときは怒っていますけど……。普段だったら学校や習いごとがあるので、ここまで話し合える時間はないですから。それに親としては、犬のお世話をする部分だけじゃなく、子供の自立を促す時間にもしたいと思っていて。


――それは?


中村 それぞれが家族の一員なので、まずは家での生活において自分のことは自分でやる。それに加えて、家事の手伝いをしてもらいたいと思ったんです。彼らが学校や習いごとに行ってる裏側で、家族のみんなが過ごしやすくするために母親が日々やってくれている家事の大切さ、ありがたさを理解することができると思って。毎日の炊事、洗濯、掃除等、母親が家族のためにやってくれていることは挙げればキリがないくらい多岐にわたります。子供たちは母親がそれをやることが当たり前だと思ってるところはありますからね。家族が長い時間、一緒にいられる状況だからこそ、母親のありがたみを感じることができる機会になると思っています。感謝の気持ちを持つことが子供たちの成長を促しますし、それが社会に出たときの自立にもつながるはず。周りへの気配りもできる人間になるきっかけになるとも思っています。自分がやることでみんなが助かるということを少しずつでも理解してもらえたらいいなと。


――それで憲剛さんも自分から率先して動いているんですね。


中村 子供たちは親の背中を見て育つものだと思っています。彼らもいつもより親を見ているはずだし、自分が普段以上に率先してやれば子供たちも動いてくれると思って。


――おうち時間の充実方法、活用方法として、家族とのコミュニケーションを深めているわけですね。


中村 今は本当にいまだかつてない状況下に置かれていると思いますし、時間の使い方も人それぞれですけど、何をするかが問われると思う一方で、そこまで力を入れて問わなくてもいいのかなとも思っています。僕の場合は、こういう状況だからこそ家族のつながりを大事にする時間にしたいと思っただけで。コロナ禍の影響とはいえ、普通だったらこれだけ一緒に過ごせないですからね。もちろん子供の習いごとを見に行けないのは寂しいですけど、長男の入っているサッカースクールがオンライントレーニングをしてくれていて、それを間近で見たり、一緒にやったりできる。午前午後でやってくれる日もあるので、家族の生活リズムにもメリハリができています。


――お子さんの話が出ましたが、JFA TVで配信していた昔の日本代表戦を一緒に見たそうですね。


中村 開始10分くらい観たところで、長男に「パパ、ミスが多いなー」って突っ込まれました。確かに自分でもビックリするくらいミスが多かったですね(苦笑)。自分でも「もっとしっかり丁寧にプレーしてくれよ」と思って見てました(笑)。


――やっぱり今のほうがうまいですか?(笑)


中村 それはもう。今のほうがプレーも頭の中も洗練されていると思います。オシムさん、あんなプレーでもよく使ってくれたなと(笑)。


――中村憲剛という選手には、逆境をポジティブに捉えて前に進んでいこうとするイメージがあるんですけど、家族との時間以外で今の状況を有効活用できていることは?


中村 実はC級指導者ライセンスを取得しようと思って、勉強を始めたんですよ。時間をムダにしちゃいけないという気持ちもあって、まずは教本を取り寄せました。そういうインプットはしています。


――ついにライセンス取得に動くんですね。この流れでここからはサッカー選手としての中断期間の過ごし方についてお伺いしていきます。まずリハビリやトレーニングではどんなことを心掛けていますか?


中村 家族との時間も同じなんですけど、熱を帯びすぎてなんでもしっかり自分の計画した通りにやろうとすると逆効果だと思うんですよ。自分も最初はキッチリやろうとしすぎてしまって、うまくことが運ばなくてイライラすることもあって。だから今は自然体で、やるべきことを消化していく感じです。


――リハビリに関して振り返っていくと、中断期間中にいろいろ状況が変わってきましたよね。マシントレーニングを再開したり、加速走の負荷を大きくしていったり、ひざの曲げ延ばし制限もなくなったり。


中村 ただ、この期間が始まった最初の頃、新型コロナウイルスの影響で精神的に落ち込んでしまって、リハビリをする気が起きなくて手にもつかず、やらなかった日も何日かあったんです。高校サッカー部の大先輩でもある志村けんさんが亡くなったり、立て続けに選手に感染者が出ていた時期で、ウイルスに関する情報を自分なりに入れるようにしましたけど、自分が感染してはいけないし、周りにも感染させてはいけないという不安感が強くて。大きく変わってしまった日常にアジャストするには少し時間が必要でした。でも、少しずつこの“非日常”との距離感がつかめてきて、「よし、しっかりやろう」と思って、またリハビリを再開しました。


――そうだったんですね。リハビリ自体はすごく順調に見えたんですが、実際の状況はいかがですか?


中村 実は少しリバウンドがあったんですよね。これも順調だったからこそだったのかもしれないですけど、今はちゃんと左ひざの声を聞くことができている感じがあります。ひざと向き合える期間という言い方かな。


――ファンの皆さんも回復状況が気になっているところだと思うんです。ドクターにもトレーナーにも直接診てもらえない時期だと思いますし。


中村 それは本当に不安なところではあります。でも、ありがたいことに執刀医の先生が気を遣ってくれて、定期的にビデオ電話でひざを診てくれています。確かに直接診察してもらえない不安はありますけど、ドクターやリハビリの先生と個別にコミュニケーションを取りながら進めている感じです。それを踏まえて高木フィジオセラピストが毎日メニューを作って送ってくれるので、その負荷がどうだったかを連絡しながら、毎日のリハビリの内容を決めていく流れですね。


――自宅で懸命にリハビリしている姿を子供たちにも見せているわけですね。


中村 実は長男にもリハビリを手伝ってもらっているんですよ。先生とのビデオ電話でフォームを見るときも、息子に携帯で撮ってもらって動きをチェックしてもらったり、基礎練習の時にボールを投げてもらうこともあります。対面パスもそうですね。止めて蹴るのところを教えながら一緒にやってもらってます。さっきは頭のトレーニングってことで、サッカーゲームで対戦してました(笑)。リハビリの良きパートナーですね。


――最後に、中村憲剛的おうちウィークのポイントを挙げていただけますか?


中村 何事も完璧を求めないことかなと。何かをしなきゃいけないというストレスをいかに減らせるか。それは家族だけではなく、自分もですが。日本のみならず、世界的に大変な状況なので、せめて家の中だけはピリピリした状況を極力作らないようにしたいと。明るいニュースが多くないので、少しでも笑顔のある和やかな空気が流れるように、みんなで協力することが大事なのかなとも思います。あとはとにかく今この瞬間の家族や子供たちとの時間を大切にしてもらえたら。うちは毎日のように、おじいちゃん、おばあちゃんに電話しています。これだけ一緒に過ごせる時間はもう来ないかもしれないですし、本当に必要なものが見えてくるとも思っています。


――やっぱり命、家族より大切なものはないですからね。


中村 そうですね。あとはとにかく自分が感染しないこと、周りに感染させないことを最優先に考えるべきだと思います。今は医療従事者の皆さんへの負担を少しでも軽くしていくことが重要ですから。それに医療従事者の方々だけでなく、物流や窓口業務など社会を回すために、僕らが生活するために頑張ってくれている皆さんへ、心からの感謝をこの場を借りて伝えさせてください。本当にありがとうございます。僕はこの難しい日々の中で、自分の行動が周りの人の運命を変えてしまう可能性があることを強く意識していますし、このインタビューを読んでくれた皆さんにもそう考えてもらいたいと願っています。毎日試行錯誤しながらではありますけど、大切な人たちのためにも、一日でも早く日常生活を取り戻すためにも、今はとにかくStay Home。どうしても先が見えなくて不安になると思いますけど、不要不急の外出を控えて、おうちで過ごすことが、自分たちの未来を作ることにつながっていくと信じています。