◆政府が行った対策への満足度は世界一

 新型コロナウイルスの影響で中断していたベトナムプロサッカー1部Vリーグが、6月5日に再開した。世界に先駆けて観客をスタジアムに迎え入れての再開は、国際的な注目を浴びた。これに先立ちカップ戦が5月末に開幕しているが、こちらも大勢の観客がスタジアムに足を運び、各国メディアは「コロナ後の驚異的な観客動員」と報じた。中断前のリーグ戦が無観客であったため、ファンにとってはこれが本当の意味でのシーズン到来となった。


 リーグ戦の“再開幕”にあたる第3節では、観客の検温と手洗いが義務づけられ、入場制限も設けられた。それでも、会場によっては1万人を超える動員を記録。第4節では、今季から1部に昇格したホンリン・ハティンのホームゲームにスタジアム収容人数を上回る2万2000人が押し寄せ、入り切らなかった数千人の観客がピッチサイドに乱入。この騒動で試合が中断し、前半のアディショナルタイムが22分になるという珍事が発生した。ベトナム北部はもともとサッカー熱が高いが、そのホームゲームは現在、コロナ禍のソーシャルディスタンスなど完全に忘れたかのような超“密”状態になっている。


 ある男性サポーターは、「我々にはサッカーを愛する血が流れている。コロナが恐ければ、スタジアムには来ない。それぞれが予防意識を持って、安全だと思えるからここにいるんだ」と話す。


 この男性のように、「もはやコロナは恐るるに足らず」と考える人は多く、国の対策が効果的に感染症を封じ込めたことに満足感を示す国民は多い。イギリスの調査会社の統計によると、国の対策への満足度は93パーセントと世界一だった。


◆助け合いの精神で死者をゼロに

「コロナ対策の優等生」。ベトナムがそう言われ始めたのは、社会的隔離措置が終了した5月初め辺りからであろうか。ベトナムはこの間に生活必需品の販売などを除くほとんどの経済活動がストップし、不要不急の外出や集団行動も制限された。


 国内で最初の感染者が見つかったのは1月中旬のこと。中国人親子の感染が確認され、その後も中国からの入国者に相次いで感染が見つかった。これを受けたベトナム政府はすぐに中国人の観光ビザ発給を停止し、中国国境での商取引も制限。感染者がわずか8人しかいなかった2月初めの時点で、首相は流行宣言を発令した。


 2月中旬に感染者が集中した村を封鎖した時は、国民の間から「やりすぎでは?」と指摘する声も上がったが、早期の封じ込めを狙う政府は以降も外国人の入国を原則禁止にしたり、濃厚接触の疑いがある者が見つかったマンションを丸ごと封鎖するなど、強権的な対策を敢行していく。首相はメディアに対して、再三「経済より国民の命を優先する」と発言。国民もこれに呼応する形で、社会的隔離措置に従った。


 こうしてベトナムが水際対策に力を入れた背景には、国内医療の脆弱さがある。本格的なパンデミックを起こした場合、医療崩壊を招く可能性が高いため、感染症を水際で食い止めるしかなかったのだ。


 社会主義国であることが強調されがちだが、今回の新型コロナウイルス対策に限って言えば、政府が無理強いしたという雰囲気はなく、むしろ国民のほうから積極的に協力し、民間企業は貧困層に食糧や必需品を無償配給するなど、助け合いの精神を発揮した。国内の感染者で最も重症化したベトナム航空のイギリス人パイロットが生死の境をさまよっていた時には、「移植手術で自分の肺の一部を使ってほしい」と申し出るベトナム人まで現れた。


 ベトナムは、政府の素早い対応で新型コロナウイルスの封じ込めに成功した。累計感染者は6月20日時点で349人、このうちすでに95パーセントが回復し、死者はゼロ。徹底した水際対策が奏功して、市中感染はもう2カ月以上確認されていない。


 一足早く再開したVリーグを皮切りに、フットサル、自転車競技、バレーボールなどサッカー以外の選手権も続々と開幕した。ベトナム政府は現在、コロナ禍で加速する中国からの生産拠点移転の動きをとらえるべく誘致を促進するとともに、大打撃を被った観光業界に外国人観光客を呼び戻す計画を進めている。


 大勢の観客で埋め尽くされたサッカースタジアムの光景は、経済活動再開による国内の熱気や、コロナとの“疫戦”に勝利した「安全なベトナム」を世界に広く印象づけることにつながる。サッカーが政府の景気回復策にも一役買ったと言えそうだ。


文=宇佐美淳