氷の地殻の下に海が広がり、生命が存在することも期待されている木星の衛星エウロパや土星の衛星エンケラドゥス。これら「氷の衛星」は表面に複雑な地形が存在している可能性があり、無人探査機が移動する上での障害となるかもしれません。NASAのジェット推進研究所(JPL)では将来の探査計画に備えて、荒涼とした氷の衛星の表面をジャンプして移動する無人探査機の研究が進められています。

■現地で採掘した氷を利用する無人探査機「SPARROW」

SPARROWを描いたコンセプトイメージ。着陸機(左)から水を供給されたSPARROW(右)は、蒸気を噴射しジャンプすることで氷の衛星の表面を移動する(Credit: NASA/JPL-Caltech)

Gareth Meirion-Griffith氏(JPL)が研究している「SPARROW」(※)は険しい地形が予想される氷の衛星の表面を調べることを目的としたサッカーボール大の無人探査機で、球形のケージを取り付けたドローンのような外見をしています。地表を走行する探査車は穴やクレバスなどのさまざまな障害物に行く手を阻まれる可能性がありますが、SPARROWはこうした地形を飛び越えることで回避しつつ、あちこちに移動しながら探査を行います。

ただし、ドローンによる探査ミッション「ドラゴンフライ」が計画されている土星の衛星タイタンとは異なり、エウロパやエンケラドゥスには飛行に利用できるような大気が存在しません。そこでSPARROWでは、着陸機が採掘した氷を融かすことで得た水を充填し、加熱させて生じた蒸気を噴射することで推進力を得て、表面をジャンプするように移動します。移動先で集めたデータやサンプルを着陸機まで持ち帰ったSPARROWは、水や電力の補充を受けて別の目的地へ向かうといった手順を繰り返すことで、氷の衛星のさまざまな場所を探査する計画です。

※…Steam Propelled Autonomous Retrieval Robot for Ocean Worlds(直訳すれば「海の世界のための蒸気推進式自律探索ロボット」)の略

SPARROWはNASAが革新的かつ先進的なコンセプトに対して研究資金を提供するNIAC(NASA Innovative Advanced Concepts)プログラムにおけるフェーズIの対象として2018年に採択されており、推進システムの開発・試験や移動方法の最適化を進めることができたといいます。Meirion-Griffith氏は「小さなジャンプを繰り返すよりも、大きなジャンプ1回のほうが効率的だとわかりました」と語ります。

ジャンプによる移動がしやすい小さな重力に大気のない環境、それに現地で手に入る水を利用することで氷の衛星の探査を目指すSPARROWは、広範囲の探査や狭い範囲の集中探査を行うために複数の機体を送り込むことも構想されています。Meirion-Griffith氏は「他の探査機が足止めされてしまうような地形でも、SPARROWならその向こうへ自由に移動できます」とコメントしています。

SPARROWによる探査の流れ。左上から時計回りに:1. 着陸機が水を補充。2.水を加熱し蒸気を噴射して目的地へ移動。3.サンプルを採取。4.サンプルを着陸機まで持ち帰り水と電力の補充を受ける(Credit: G. Meirion-Griffith)

 

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Image Credit: NASA/JPL-Caltech
Source: NASA/JPL / NASA
文/松村武宏