弱音や本音はいってもいい

NHKマイルCといえば、年に一度だけ流れるNHK交響楽団、いわゆるN響のファンファーレ。自衛隊や消防音楽隊が奏でる音色とは、どこか異なる優雅さがその調べにはある。しかし、当然ながら今年はN響の伸びやかなGⅠファンファーレはなく、残念。

集まることすらできない緊急事態下で贅沢は言えないが、勝ったラウダシオンに乗ったミルコ・デムーロが「ガッツポーズをしなかった。さびしい」とコメントしたように、思わず本音が漏れることはあってもいいだろう。

強がるばかりが人間ではない。長引くコロナ禍のさなか、心にはかなりの負担がかかる。弱音や本音をどこかにぽつんと置いてみてもいい。ウイルスとの共存は長き日々となるだろう。さびしいときはさびしいと言ってほしい。

デムーロのクレバーさ

無観客競馬になってから、レースはGⅠ2勝目となったデムーロ騎手のクレバーさやスマートさが目立った一戦だった。決め打ち系ジョッキーらしく、スタートする前からレシステンシア1頭に絞っていたようだ。

マイル実績がないラウダシオン。「距離面に不安がある」ことにとらわれず、迷わずにレシステンシアの外につけた。相手はルメール騎手が乗るレシステンシアだ。絶対にオーバーペースにはならない。また、早々に下がって早めに抜け出すようなことにもならないだろう。この確信こそがデムーロの勝因であり、ルメールへの信頼の勝利だった。

実際、レシステンシアに乗るルメールはスタートから押しもせず、馬なりの自然流で飛ばす気は一切なかった。前半800m46秒0は、レシステンシアのスピードや東京の馬場を考えるとちょっと遅いぐらいのペース。ついていかない方が不思議なレースではあった。最後の直線もデムーロの読み通りレシステンシアは再加速し、後続の追い上げる組は脚を使えども前との差を詰めることができなかった。

ラウダシオンがレシステンシアを交わせるかどうか、それはすべて自分次第といわんばかりの競馬で見事に交わし切った。後半800m46秒5では、後続は45秒台で駆けなければ太刀打ちできない。勝ち時計1分32秒5は、昨年のアドマイヤマーズと0秒1差。近年の記録を考慮すれば、NHKマイルCの標準クラスだった。

父リアルインパクトは初年度からGⅠ馬を輩出。夏のスタートダッシュ以降目立った活躍がなかったが、父が3歳で安田記念を制したようにラウダシオンも3歳春に大きくパフォーマンスをあげた。

昨年暮れの朝日杯FSは1分34秒0。年明け2戦は左回り1400m戦を1分21秒台で1、2着だから、9番人気は仕方ない。一気にこれだけ時計を詰めてくるとは予想しにくかった。父は早熟とみられながら、6歳暮れから7歳春にGⅡ、GⅠ連勝。息長い活躍を見せただけあって、ラウダシオンも今後に期待したいところだ。

春は無冠に終わったレシステンシアの迷い

2着レシステンシアは、またもGⅠ2着。阪神JFを圧勝した当時を考えれば、この春無冠は予想外の結果だった。スローで逃げたチューリップ賞、控えた桜花賞、自然な逃げを打ったNHKマイルCと戦法にブレがあり、迷いを感じざるを得ない。

ルメールを乗せた時点で相手の脚を削るようなレースはないと読めたが、番手にいたラウダシオンに捕らえられたという事実を考慮すれば、やはりラウダシオンの脚が溜まらないような競馬でもよかったのではないだろうか。

3、4着馬はいずれも好位のイン、GⅠとしては速くない流れで引っかかる馬が多かったことからベストなポジションだったが、どの馬も最後まで脚を使える流れになったことで進路を見つけるのも難しかった。

同位置にいたタイセイビジョンを抑えた3着ギルデッドミラーは、活躍が多いオルフェーヴル牝馬。今後の成長力にも期待したい。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』にて記事を執筆。YouTubeチャンネル『ザ・グレート・カツキの競馬大好きチャンネル』にその化身が出演している。

2020年NHKマイルC位置取りインフォグラフィックⒸSPAIA