8枠最強説が宝塚記念のみである理由とは

レース上がり36秒3。20年宝塚記念も梅雨時の天候不順に左右されるタフなレースとなった。2着キセキに6馬身差をつけ圧勝したクロノジェネシスは上がり600mタイムで次位キセキ(37秒2)に0秒9差、出走中唯一の36秒台(36秒3)だから文句なし。悪路に強い自身のストロングポイントを北村友一騎手が見事に利用したレースだった。

クロノジェネシスの勝因は20年宝塚記念を勝つためのあらゆる適性を自身が備えていたからである。枠順がよかったという一点で勝てるレースではないし、6馬身差圧勝は枠順の優位だけでは説明しようがない。この点をはっきりさせた上で、クロノジェネシスのレース内容から宝塚記念8枠最強説をひも解きたい。

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先週月曜日に公開した『【宝塚記念】1番人気の複勝率70%もクセが強い!解明する6つのデータとは』で、8枠は19年までの過去10年で【7-0-2-13】と紹介した。

中山や新潟ダート1200mなんぞ比にならないほど8枠の勝率が高い。だが条件を問わず阪神芝2200m、過去10年枠番別成績では8枠【14-16-10-171】勝率6.6%、7/8位(1位は2枠【18-11-13-100】勝率12.7%)とむしろよくない。8枠最強説は宝塚記念のみに適用される特殊なデータである。

その要因のひとつは馬場だろう。当日は10レース前に短時間だが雨が降り、良に回復した芝は再度やや重に悪化した。今年は例年以上に雨が多い6月、開幕4週目でも馬場はかなり痛んだ。7月まで続く開催ゆえBコースへのコース替わりも直前の雨で相殺された。

パトロールビデオには正面直線部分と向正面直線部分で激しく土塊が飛び交うシーンが映る。多頭数で極端に飛ばす馬は不在、古馬中距離戦線の超一流馬が集うレースは縦長になりにくい。横4列になるような密集地帯、わずかなポジションの奪い合いは自然と馬にストレスを与える。そこに飛んでくる芝や土塊。調教では決して体験できない極限下に置かれてしまう。クロノジェネシスは8枠16番から終始、馬群には一切入らなかった。

無論、こうなれば前に馬を置けずに折り合いを欠くという新たな不安がある。2着キセキは武豊騎手がそれを意識してかなり馬群から離して追走していた。クロノジェネシスは昨年のクラシック戦線で距離をのばすにつれ折り合い面の不安を払拭していた。北村友一騎手、折り合いに絶対的な自信があった。

明暗を分けた宝塚記念特有のラップ構成

2020年宝塚記念結果インフォグラフィックⒸSPAIA


外を回ることでストレスは回避できるが、当然ながら距離ロス、タイムロスが生まれる。10秒台突入もありうる古馬中距離GⅠ、コンマ数秒でも削り出せるインコースは自然とアドバンテージを生む。

実際、大阪杯では大外枠から同じ競馬をしたクロノジェネシスはインを立ち回ったラッキーライラックに上がり600mで0秒1差劣り、クビ差敗退。大阪杯は最後の600m11秒3−11秒2−11秒7、外を回るロスが響いた。一方、宝塚記念は12秒4−11秒9−12秒1。同レースは12秒平均の上がり600m36秒というラップになりやすい。

19年良馬場35秒3、18年やや重36秒3、17年良馬場35秒7、キセキの2年連続2着は武豊騎手が同馬の気性と適性を最大限に考慮した騎乗もあるが、宝塚記念特有のレースラップによるところも大きい。極限のタイムレースにならず、スタミナ重視の宝塚記念はコンマ数秒でも削り出さねば勝てないという距離ロス、タイムロスが生じにくい。これが8枠最強説の正体だろう。

キセキが動いたことで早めにペースアップした展開は馬場状態も加わり、よりスタミナ寄りにシフト、外目追走のストレスフリーなクロノジェネシスはライバルが4角手前からステッキが入るなかで馬なり先頭、直線に入ってから追い出す余裕まであった。8枠だから勝ったわけではなく、8枠が加わったことでの圧勝劇だった。

2着キセキからさらに離された3着モズベッロは12番人気。日経新春杯、日経賞の好走はいずれも最後に極端なペースアップをしない宝塚記念向きのラップでのもの。ギアチェンジに不器用なところがあり、そこが弱点にもなり得るが、中距離で一定ラップの競馬となれば出番はある。

まだ4歳馬、来年の宝塚記念で忘れないでおきたい。5着が単勝万馬券メイショウテンゲンだったように道悪適性とスタミナ寄りの競馬、4着サートゥルナーリアにとって長所を出せないレースとなってしまった。かといって瞬発力勝負でも分が悪く、やや走れる条件が限定されつつある点は気になるところだ。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』にて記事を執筆。YouTubeチャンネル『ザ・グレート・カツキの競馬大好きチャンネル』にその化身が出演している。