男子マラソン世界歴代10傑を2国で独占

2020年の東京オリンピックが迫り、日本の代表選手が決まりつつある。陸上のマラソン競技では、先日の名古屋ウィメンズマラソンで一山麻緒選手が代表権を獲得したことは記憶に新しい。

日本のマラソン競技といえば、高橋尚子が2000年のシドニーで、野口みずきが2004年のアテネで金メダルを獲得して以降、男女ともにオリンピックや世界選手権など世界レベルの大会での金メダルから遠のいている。

近年、マラソン競技を始め陸上の長距離でメダルを独占しているのがケニアとエチオピアだ。2016年のリオデジャネイロオリンピックでは、男子の1位はケニアのキプチョゲ、2位はエチオピアのフェイサ・リレサ、女子では1位がケニアのジェミマ・スムゴング、3位にエチオピアのマレ・ディババが表彰台に立っている。さらに、マラソン競技男子の世界歴代10位までの記録はケニア・エチオピア勢が独占している。

男子マラソン世界歴代10傑

女子マラソン世界歴代10傑

なぜ、ここまでケニア人とエチオピア人選手はマラソンで結果を残すことができるのだろうか。彼らが、マラソン競技が強い理由を探るために多くの研究チームが彼らの環境的特徴・精神的特徴・身体的特徴に着目して研究を進めている。

①マラソンが強くなる環境的特徴

マラソン競技が強い環境的な要素としては、実はオリンピックなどでメダルを獲得する選手の大半は同じ地域の出身者なのである。

彼らの生活する地域は標高2000mを超える場所に位置にしており、海抜0mの地域と比べると20%以上も薄い酸素濃度の中で生活をしている。

日頃から低酸素の土地でトレーニングを積んでいるため、高山トレーニング効果を得ることができ最大酸素摂取量や走行能力の両方を強化することができる。また、試合時は十分に酸素がある地域で走ることができ、他の国の選手よりも有利な状態でマラソンを走ることができる。

高度と酸素濃度

また、標高のみならず彼らの送る日常生活も持久力向上に大きな影響を与えている。往復2時間はかかる学校へ走って通い、学校が終わって家に帰った後も水くみや羊の世話で走り回るという日常を送っている。

日常的にも走ることが当たり前な環境で暮らしているのである。

②マラソンが強くなる精神的特徴

さらに、ケニア・エチオピアが世界的に見て貧困国家である点もマラソンが強い要因といえる。彼らの国の多くの人々は本当に貧しく電気もガスもなく、水も自分たちでくみに行くような環境で生活を送っている。

マラソンなどの陸上長距離大会でメダルを取るなどができれば、スポンサー契約や賞金、メディア出演などで多額の収入を得ることができ、貧困生活から抜け出すことができる。

つまり彼らにとって勝つことは、貧困からの脱出と人生を変えるチャンスなのである。大量消費の中で暮らす先進国の選手が、ハングリー精神で彼らに勝ることができるはずがない。

③ケニア・エチオピア人の身体的特徴

加えて、筑波大学の研究チームは彼らの身体的特徴にも着目している。彼らの血液は赤血球が小さく、酸素の供給に必要なヘモグロビンの量が多い。また、血液の粘着性が低いことも明らかにしている。

これらのことは、彼らの体は多くの酸素を取り入れることができ、血液の粘着性が低い分、血液が流れやすく全身に酸素を運びやすいことを意味する。

骨格面に関しても、日本人やその他の国の選手との違いがある。彼らの脚は非常に長く身長に比べて足が小さい特徴がみられる。解剖学的な観点から彼らの下半身の構造は脚の振りを速く行え、ストライドを伸ばしやすく、エネルギー消費が少ないマラソンに適した身体なのである。

これらのマラソンに適した身体的な特徴は、彼らの祖先が何千年ものあいだ山を駆け回る生活をおくって来た進化の過程で作られ、DNAに刻み込まれた特徴ともいえる。

マラソンを行うこれ以上ない環境にいる彼らに日本代表がどこまで食いさがることができるのか、オリンピックが楽しみで仕方がない。

《ライタープロフィール》
近藤広貴
高校時代にボクシングを始め、全国高校総体3位、東農大時代に全日本選手権3位などの成績を残す。競技引退後は早稲田大学大学院にてスポーツ科学を学ぶ。現在は母校の教員としてボクシング部の指導やスポーツに関する研究を行う傍ら、執筆活動を行っている。