『アルヴァ・アアルト もうひとつの自然』展レポート 時代を越えて世界を魅了する建築とデザイン

『アルヴァ・アアルト もうひとつの自然』展レポート 時代を越えて世界を魅了する建築とデザイン

2019年2月16日(土)〜4月14日(日)の期間、東京ステーションギャラリーで『アルヴァ・アアルト もうひとつの自然』が開催中だ。アルヴァ・アアルトは北欧・フィンランドを代表する建築家で、木などの素材を活かした自然と調和する作品で知られている。日本で20年ぶりのアアルトの個展となる本展は、作家の生誕120年を記念し、フィンランドと日本の国交100年のタイミングで開催される意義ある展覧会だ。以下、アアルトのシンプルながら温もりあふれる世界を紹介しよう。

アルヴァ・アアルトのすべて
知られざる初期作品や巨匠の影響、国際的な成功まで

約300点もの作品を紹介する本展は、年代順の構成になっている。展示の冒頭は活動初期のスケッチやデザインで、アアルトが20代だった頃の建築ドローイングには、構想のみで実現しなかったものも含まれる。イタリア・ルネサンスの影響が見られる若かりし頃のドローイングの線は緻密で力強く、それ自体が絵画作品として成立するような美しさだ。


代表作のひとつである「パイミオのサナトリウム」は、アアルトがフィンランドで当時栄えていた都市トゥルクに事務所を構え、ヨーロッパのモダニズムに傾倒していた時期の建築だ。白いモダニズム建築の要素が強い本作はル・コルビュジエの影響が感じられ、サナトリウムの一室を再現した空間には実際に使われていた家具が置かれている。室内は明るく清潔な印象で、冷たさや無機質さは感じられない。機能的な配慮と人間味のある柔らかい雰囲気が共存しているのは、アアルトの作品全体に通底する個性といえるだろう。「パイミオのサナトリウム」の写真は、ドイツ人写真家、アルミン・リンケの手によるもの。リンケは本展のために60点ほど写真を撮り下ろしており、アアルト建築の透明感あふれる空気を伝える。



アアルトは、作品の雰囲気がフィンランドのイメージと一致しているため、主に国内で活動していた印象もあるが、実は国際的に活躍した建築家だ。彼が海外に進出するきっかけになったのは、1937年のパリ国際博覧会フィンランド館の出展で、その後1938年にMoMA(ニューヨーク近代美術館)で個展を行い、1939年にはニューヨーク国際博覧会フィンランド館の設計を手掛ける。後にアメリカに招かれて大学の客員教授を務め、多くの建築物の設計を行うなど、国境を越えて幅広く活躍した。


テクノロジーの活用とアートへの思い


アアルトと妻・アイノは、美術史家のニルス=グスタフ・カール、「マイレア邸」の依頼主であるマイレ・グリクセンと共に、インテリア会社「アルテック」を立ち上げた。アルテックはアート(芸術)とテクノロジー(技術)を融合させた造語で、1920年代のモダニズム運動の旗手であるヴァルター・グロピウス の言葉「アートとテクノロジーの統合」をキーワードにしている。


「アルテックのマニフェスト」からは、アルテックがモダンアート・工業とインテリアデザイン・啓蒙活動を柱にグローバルな活動をすることを目指していることがうかがえる。アアルトは生活をより豊かなものにするものとしてアートを支援し、ヘルシンキにギャラリーアルテックを設立。ゴーギャンやマティス、フェルナン・レジェやアレクサンダー・コールダーなど、名だたるアーティストの個展を行なった。ギャラリーアルテックの招待状は直感的でわかりやすく、文字のフォントや余白のバランスが非常にスタイリッシュで目をひく。


アアルトの生涯を追うと、アートに携わる仕事をしつつ、日常においてもアートと触れ合うことを重視していたことがうかがえる。アアルトのキャリアの中で重要な作品である「マイレア邸」の依頼主であるマイレ・グリクセンや「ルイ・カレ邸」のクライアントであるルイ・カレは、美術コレクターだった。アアルトは、依頼者の美術品コレクションを日々の生活環境に組み込み、内装を含めて総合芸術と呼べるような建築を手がけた。



アアルトの妻・アイノは、写真家・画家・バウハウスの教師といった複数の肩書きをもつ芸術家であるモホイ・ナジ=ラースローとの出会いにより写真の技術を深め、前衛的で躍動感あふれる写真を撮った。本展では映像でアイノの写真が鑑賞可能で、光と影のコントラスト、緊張感のある直線とリズミカルな曲線など、アイノの洗練されたセンスと被写体への力強いアプローチを堪能できる。恐らくアアルトとアイノは刺激し合うことで才能を磨き続けたのだろう。


“もうひとつの自然”を感じさせる建築 自然と調和し、自然を活かす作品

アアルトの作品はシンプルで優しく、緩やかに流れる水や明るい光が差し込む森を連想させる。有名な「サヴォイ・ベース」ほか、アアルトのガラス製品は流線形で有機的であり、冷たい印象になりかねないガラスという素材でありながら、食材を活かす柔らかい空気感を持つ。



アアルトは光や音を重視し、図書館や教会などを設計する時、壁や天井がどのように音を跳ね返すのか綿密にシミュレートしていたという。フィンランドのように日照時間が短い国においては、とりわけ光はありがたいものだ。アアルトの代表作には照明器具も含まれることから、恐らく天然の光の恩恵にあずかれない時は人工の光を使えるように心を砕いたのだろう。


代表作のひとつである「ヴィープリ(ヴィーボルク)の図書館」は、天窓(トップライト)や高窓(ハイサイドライト)を配し、目に負担がかからないつくりになっている。波打つ天井の形は、音の反響を配慮した結果採用されたものである。図書館の所在地は第二次大戦中からロシア領になっているが、アアルトは図書館という建築に特別な思いを抱いていたようで、ヘルシンキの国民年金局の設計を手掛けた際、建物内の図書館を「ヴィープリ(ヴィーボルク)の図書館」とほぼ同じつくりにした。過去につくった建物と同様の建築物を晩年に設計するというのは、アアルトの理念が揺らぐことがなかった証といえよう。



アアルトの家具や建築は、輸入した建材ではなく、フィンランドで手に入る材料で調達されたものだ。フィンランドの国土は3分の2が森林だが、将来を見据えた計画的な伐採のために、森林資源は破壊されずにむしろ昔よりも豊かな姿を見せているという。アアルトが活躍した時代は、サステイナブル(持続可能な)という言葉や発想が一般化するよりも前だが、まさにサステイナブルを体現する創作を行なっていたのだ。

またアアルトは、素材としては木の他にレンガも多用しており、本展は展示会場のレンガの壁面と響きあうような内容になっている。アアルトの、時代を越えて世界を魅了する創作の軌跡を、東京ステーションギャラリーという歴史ある建物で目の当たりにすることができるこの機会を、是非お見逃しなく。


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