日本文学の先達への憧れとリスペクトを込めた北村想の新作戯曲を、寺十吾の演出で上演するシス・カンパニーの人気シリーズ「日本文学シアター」。2013年にスタートし、今回で第6弾となる『風博士』が2019年11月30日、世田谷パブリックシアターで開幕した(東京公演:2019年11月30日〜12月28日、大阪公演2020年1月8日〜1月13日)。

本作は題名の通り、坂口安吾の短編「風博士」や「白痴」等を創作のインスピレーションとし、安吾へのリスペクトに溢れているが、単なる原作の舞台化とは全く意味合いが異なり、時にはミステリアスで、時にはユーモラスな100%オリジナルの物語が展開する。また、今回は、音楽劇やミュージカルとは銘打ってはいないものの、出演者全員が、その心情を歌で紡ぐ趣向となっている。

―INTRODUCTION―
戦況が厳しくなったある大陸。果てしなく広がる青空の下、とある商売を営むフーさんという男がいた。風を読み、風を知り、風を歌い、はるかな大陸をただ生きるこの男……。どうやら、もともとは風船爆弾を研究する科学者だったらしい。そのためか、「風博士」と呼ばれるフーさんの周りには、不思議な人々が集まり、心を通わせながら、彼らもまた生き抜いていた。日々のささやかな喜びも苦しみも悲しみも、すべては吹き抜ける風まかせ……。そして、戦況は悪化の一途をたどり、果たして彼らの運命は…?

 

『風博士』 (撮影:宮川舞子)

『風博士』 (撮影:宮川舞子)

初日を終えたキャスト陣4名のコメントが届いたので紹介する。

中井貴一(なかい・きいち)
稽古に入ってから、こんなに泣ける芝居だったのか、、、と驚かされました。戦時中の話ですが、反戦を声高にうたっているのではなく、必死にその時代をただ生き抜く人たちが描かれています。つくづく、北村想さんは文学をエンターテイメントにするさじ加減をよくご存じの方だなあ、と思いました。戯曲の捉え方は人それぞれでしょうが、お客様がさまざまに想像できる余韻を残せたら、と思っています。

段田安則(だんた・やすのり)
過去に出演したシリーズ3作も、原作とは違う世界が広がって楽しかったんですが、今回も、原作とは全く別モノで戦時中のお話です。戦争は兵隊だけでなく、その周りの人も悲惨な目に遭わせます。そんな時代に、どんな人がいて、どう生きてきたのか……。皆様には、北村想さん独特の「それ無茶苦茶では?」という破天荒な展開を楽しんでいただきつつ、心に響く何かを感じ取っていただきたいと思っています。

吉田 羊(よしだ・よう)
北村想さんの戯曲は言葉遊びに満ち魅力的で、寺十さんの遊び心に溢れた演出で、キャラクターたちが生き生きとしてくるのには目を見張りました。死と隣り合わせの環境の中、それでも全力で生き抜く人たちを明るく軽やかなタッチで描いていますが、その明るさが逆に悲しくもある…。お客様には、笑いながらも、その背中合わせにある悲しみや怒りといった感情を汲み取っていただけたら嬉しいですね。

渡辺えり(わたなべ・えり)
北村想さんは同世代の演劇人ですが、その作品を役者として演じるのには、いつも難しさを感じて、今回も悩みながらの稽古でした。最初に、この台本を読んだときに反戦への思いを強く感じました。私が演じる梅花のように、実際に大陸に渡った女性たちの真情を思うと切なくなります。彼女たちの存在を「なかったこと」にしないためにも、当時の女性たちのリアルさを出せるようにしたいと思っています。

『風博士』 (撮影:宮川舞子)

『風博士』 (撮影:宮川舞子)