宮崎 駿監督の不朽の名作、映画『風の谷のナウシカ』で、一際、印象的だったのが「ナウシカ・レクイエム」。「ラン、ランララ、ランランラン」という少女の歌声は、世界を虜にした。この歌を歌ったのが、当時4歳だった麻衣(まい)。近年では、映画『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』で、オープニングで流れる劇中歌「リリーのテーマ」を歌うなど、歌姫として世界的に活躍中である。

麻衣は、来たる2月22日(土)、東京・中野の梅若能楽学院会館にて、歌と能とをフィージョンしたコンサート『麻衣と舞 vol.2 MUSIC by Phillip Grass「MISHIMA」』を行う。今回、テーマとして取り上げられたのが1985年に日米合作として製作された、三島由紀夫と彼の文学を題材にした映画『MISHIMA: A Life In Four Chapters』(日本未公開)。そのサウンドトラックを手掛け、60年代に登場したミニマル・ミュージックの先駆者としても名高い現代音楽の巨匠フィリップ・グラスの作品を、能楽師の梅若 紀彰(うめわか きしょう)とピアニストの滑川 真希(なめかわ まき)をゲストに迎えて異色コラボレーションで聞かせる。麻衣と梅若は、これまでにも共演を重ねてきた。コンサートでは、「ナウシカ・レクイエム」や「Stand Alone」といった麻衣の十八番も聞かせる。歌×能×三島という異色の組合せで、どんな世界が展開されるのだろうか。コンサートについて、麻衣に訊いた。

緻密で知的なグラスの音楽に惹かれて

――今回のコンサートでは、映画『MISHIMA: A Life In Four Chapters』に焦点を当てますが、何故、このテーマを選ばれたのでしょう?

ポール・シュレイダー監督の映画『MISHIMA』は、1985年、アメリカやヨーロッパで公開されました。フランシス・フォード・コッポラやジョージ・ルーカスが製作に携わり、出演者も豪華。そして、サントラを手掛けたのがフィリップ・グラスさん。10年以上前のことですが、すみだトリフォニーホールで彼のコンサートがあり、今回共演するピアニストの滑川真希さんや父(久石 譲)も演奏しました。グラスさんとは、その際にお会いしたのがきっかけで仲良くなりました。今では、ニューヨークで一緒に朝食を食べたりするくらいです(笑)。

麻衣

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――フィリップ・グラスさんとの親交が今回のコンサートに繋がっているんですね。

グラスさんは、『MISHIMA』が日本で公開されなかったことをとても残念に思っていて、その時に手掛けた作品をピアノ曲に編曲し、滑川さんの演奏によるCDを、去年、リリースしました。そのCDを聴いて、「すごい!これはもったいない!」と思ったのがきっかけです。グラスさんのサントラは美しく、日本でも受け入れられると思い、今回のテーマに選びました。三島由紀夫については賛否両論あるとは思いますが、芸術面での想いに焦点を当てたいと思っています。

――三島由紀夫は、海外でも高く評価されていますね。

ええ。三島作品に限らず、日本文学は、近年、海外の舞台で非常に注目されていると感じます。ハリー・ポッターを始めとした多くの映画音楽を手がけてきたオスカー作曲家のアレクサンドル・デスプラも、川端康成の短編小説『無言』を基にした新作オペラ『サイレンス』を書きました。実は、明日、その公演を観に行きます。アレクサンドルさんとも親交があって、3年ほど前に原作である日本語の『無言』を送ったんですよ。

また、デイヴィッド・ラングさんというピューリッツアー賞受賞作曲家も、芥川龍之介の文学を題材にオペラを作曲するようです。日本の文学が、海外で「来ているな」という波を感じています。ですから、日本人として私も日本文学を取り上げてみたいと感じていました。

麻衣

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――ところで、どのようなところにフィリップ・グラスの音楽の魅力を感じますか?

ニューヨークでもグラスさんの作品を取り上げたコンサートに行ったことがありますが、聴き終わった後、「すごいな、また聴きたいな」と思うんです。

また、彼の楽譜は全く単純じゃない。緻密に、知的に書かれています。ミニマル・ミュージックなので、音型が時間と共に徐々に変化していきますが、例えば、4拍子なのに3拍子に聞こえるといったトリックが随所にある。それでいて、難解さを感じさせない音楽的な美しさも持ち合わせているところが、大きな魅力です。今回歌ってみて、初めて、反復の中にも拾っていくとメロディラインが見つかることを発見しました。そして、そのメロディがまた綺麗。「ミニマル」というと無機質だと思われがちですが、実は、感情に満ちた音楽です。

――先程のお話にもありましたが、共演者の滑川真希さんは、フィリップ・グラスの作品を長年にわたって演奏されてきた方ですね。

真希さんはフィリップ・グラス・アンサンブルのピアニストを務め、グラスさんからの信頼も篤い。何より、ミニマルな音型を反復する技術が本当にすごいんです。去年、グラスさんは、真希さんのためにソナタを作曲し、ドイツ初演が行われました。

真希さんの言うことは的確で、「現代もの」の弾き方が自身の音になっているところも、すごいなと感じます。真希さんの旦那様は、指揮者として著名なデニス・ラッセル・デイヴィスさんという方で、リンツのブルーノ交響楽団で常任指揮者を務められています。実は、デニスさんもグラスさんと仲が良く、グラス全集をレコーディングしています。

麻衣

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コラボレーションが生み出す作品の新たな価値

――今回は、『麻衣と舞』の第二弾ということで、梅若紀彰さんとも共演しますね。梅若さんとのコラボレーションの経緯も教えてください。

人間国宝の梅若六郎さんのお嬢さんと友達になったのが始まりです。お能を見せていただきましたが、その時に感銘を受け、紀彰先生を紹介していただきました。紀彰先生とお話した際にコラボレーションを打診し、快諾していただいたというわけです。紀彰先生は舞も型も美しく、見とれてしまいます。

10年ほど、紀彰先生とコラボレーションをしてきました。長野のお寺を始め、色々な場所で共演してきました。「こうじゃない?」と「ああじゃない?」などやり取りしながら作品を作り上げていくのは、実は得意ではないのですが、紀章先生とはコミュニケーションがとてもスムーズに出来るので、とてもやり易く感じます。

――紀彰さんは、お能以外のジャンルとのコラボレーションも積極的にされていますね。

紀彰先生はとても柔軟な方で、先日は公演でパリに行ったと聞いています。私には、コラボレーションする場合、全てのアーティストがイーヴンで(等しく)ないといけないという哲学があります。私一人が歌って成り立つところに、別のアーティストが「ポン」と入ってくる必要はないですから。足りないところを別の方に埋めて頂いて、初めて100になるというのが、理想です。紀彰先生も同じような意見をもっています。

麻衣

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――印象に残っているエピソードはありますか?

沢山あります。例えば、私が4、5歳の時に歌っていた「ナウシカ・レクイエム」に、紀彰先生が舞を付けてくださいました。少年をイメージした舞です。コンサートで披露する前に、何人かの方に見ていただいたのですが、好評で自信が生まれました。中でもすごいのが、先生が爪先立ちするところ。バレリーナでもないのに、本当にすごい技です。是非、観ていただきたいですね。

――能楽師とのコラボレーションと聞くと、おなじみの曲にも新しいイメージが湧きそうですね。

そうです。全然違うものになりますよね。実は、そういった意外性こそが、一番面白いところだと思っています。今回は、他の曲にも舞をつけていただくのですが、「Dreamland」というテクノっぽい曲でも、私の歌に合わせて舞っていただきます。それも、凄くいいんです。

麻衣

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――歌×能に、今回は三島というテーマが加わるわけですが、この三つのコラボについてはどのようにお考えですか。

紀彰先生と一緒に作品を作ってきた中で、日本文学をモチーフとした歌にお能を合わせるのが合うと感じてきました。以前、坂口安吾の短編小説『桜の森の満開の下』をモチーフに、父が作曲した「さくらが咲いたよ」という曲でコラボレーションした際にも、しっくりいった感じをもちました。演目を選ぶにあたって、日本文学に関係した音楽を探していたら三島由紀夫を見つけて、「あ、これだ!」という感じだったんです。一曲一曲が単発で終わるのではなく、能に適した、物語を感じさせる音楽が欲しいと思っていました。まさにぴったりだったというわけです。

――最後に、今回のコンサートを楽しみにされているお客様に、一言、お願いします。

出会ったことがない、観たことがない三島ワールドを表現していきますので、そこを楽しみに来ていただけたら、とても嬉しいですね!

取材・文=大野 はな恵 撮影=iwa