2007年のデビューから、作詞家や声優ユニットNOW ON AIRのサウンドプロデュースと活動の幅を広げる結城アイラ。そんな彼女が約7年ぶりにリリースするオリジナルミニアルバムのコンセプトは「ジャズ」だという。彼女のルーツや心境の変化も含めて、1枚のアルバムに込めた想いを語ってもらった。

『Leading role』ジャケット

『Leading role』ジャケット

若いファンは歌手としての結城アイラを知らない

――TVアニメ『sola』のオープニングテーマ「colorless wind」でデビューしてから、もう13年近くになりますね。

そうですね……ずっといろいろなアニメやゲームの主題歌を歌わせていただいて、本当にいろいろやらせていただきました。10周年のベストアルバムを3年前に出させていただいて、今回は久しぶりのアルバムという感じになります。

――しかも「オリジナルミニアルバム」ということで、アニメやゲーム作品と少し距離を取ったものになっていますよね。

はい、こんなに自分が作詞をしたり作曲をしたりということはこれまでなかったので、本当に「オリジナル」という名がふさわしいアルバムになりました。今は作詞家としても活動しているんですけど、デビュー当時は作詞家・作曲家の方々に提供していただいて、「歌手・結城アイラ」としてずっと活動してきたので、本当に自分のなかでは挑戦というか。

――ベストアルバムを別にすると約7年ぶりと、かなり間が空いてのリリースになります。その間もTVアニメ『妹さえいればいい。』のエンディング主題歌「どんな星空よりも、どんな思い出よりも」など音源は発表していましたが、今回のCD制作はどういった経緯で始まったんですか?

 「どんな星空よりも〜」を出してから、「アルバムにするならもうちょっと曲がないと出せないね」という話しをしながら何年か経っていくなかで、去年ご縁があってアニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の挿入歌だった「Violet Snow」を弾き語りさせていただく機会がありまして。ほかにも、去年は自分が昔関わっていた『機動戦士ガンダムAGE』ですとか『アイドルマスター XENOGLOSSIA』の曲を、アニメイベントやフェスに出させていただいて歌うことがあったんですね。そうしたら、若い人たちから「歌も歌ってたんだ?」みたいな声をいただいたりすることがあって(笑)。作詞家として知ってくれていても、歌手としての結城アイラを知らないと。

――OVA『機動戦士ガンダムAGE MEMORY OF EDEN』のエンディングテーマ「未来の模様」と『アイドルマスター XENOGLOSSIA』オープニングテーマ「残酷よ希望となれ」ですね。2013年と2007年の楽曲ですから、若い方だと知らなくても仕方ない部分もありますね。
それで、アルバムを出すんだったら今がちょうどいいタイミングだろうと。「Violet Snow」のピアノ弾き語りがすごく好評をいただいていたので、アルバムに入れたらどうかというお話をランティスさんからいただいて、そこから始まりました。

――ジャズがコンセプトになっているのは、「Violet Snow」が出発点だったからという部分も大きいのでしょうか。

というより、もともと私がジャズを好きで。ジャズや歌謡曲、70年代とかの洋楽がルーツになっていたりもしているんですね。結城アイラとしてデビューする前に、シンガーソングライターとして活動していた時期にジャズのカバーアルバムを出させていただいたこともありました。なので、せっかくオリジナルミニアルバムを出せるのだったら、自分のルーツやパーソナルの部分も打ち出して知っていただくのがいいんじゃないのかなと。

撮影:大塚正明

撮影:大塚正明

――あ、そのあたりのお話もお聞きして大丈夫なんですね。

はい(笑)。実は、デビュー当時からジャズをやりたいですというお話はしていたんですけど、当時はアニメの音楽とジャズというものがかけ離れて考えられていたので「ちょっと難しいかもしれない」というお話をされて。でも、だんだんそういう垣根みたいなものがなくなっていくなかで、今回挑戦しようかなと思いました。やりたかったことをやっとできるぞ、というくらいの気持ちですね。

――ジャズにハマったきっかけは何だったんですか?

もともと松田聖子さんとか山口百恵さんとか、その時代のアイドルがけっこう好きだったんです。あとはユーミンとか竹内まりやさんといったシンガーソングライターの方も大好きで。結城アイラとしてデビューする前に、そういう楽曲をジャズアレンジにしてCDを出しませんかというお話をいただいて、そのときに「かとうあすか」名義で一度(ジャズを)歌っているんですね。キャロル・キングとかミッシェル・ポルナレフとか、ギルバート・オサリバンとか、そういう有名どころの邦楽・洋楽を歌ったときにジャズってすごく楽しいなと。そういう出会いがありまして、そこから好きになりました。

――結城アイラとしてデビューする流れはどういったものでしたか?

ちょうどジャズカバーとかをしていた時期にオーディションがあってデビューが決まりました。その前に本名で活動していたので、名前を変えましょうということが瞬く間に決まりまして。何の準備もできていないまま結城アイラとしてデビューすることになったんですけど、始めてみたらアニメの世界も楽しいなという気持ちが出てきて。ここで真剣にやっていこうと思って……という流れでした。

――ジャズとアニソンではあまり共通点がない楽曲も多かったと思いますが、どのあたりに面白さを感じていましたか?

シンガーソングライターとしての活動につまずいていた時期もあったんですけど、いい曲を提供していただいて歌手として表現できるというすごく幸せな場所でもあったので、挑戦してみたいと純粋に思っていました。あとは、小室哲哉世代でもあったので、ロボット系のアニメの曲には小室サウンドに近いものを感じていたというか(笑)。

――それから13年、活躍し続けていたからこそ『Leading role』が生まれたわけですね。

いやいやいやいや(笑)。でも、たぶん2007年のころにジャズを歌わせてもらっていたら、ちょっと説得力が薄くなってしまったかもしれないなと思っていて。自分もすごく大人になりましたし、今回のアルバム全体が私のちょっとした歴史みたいになっているので、今だからこそ歌える世界観みたいなものが作れたんじゃないかなと思います。

撮影:大塚正明

撮影:大塚正明

デビュー前から現在までの音楽人生を表現した収録曲

――デビューから今までの経験を踏まえた深み、どのあたりに強く込めたのでしょうか。

デビューからというより、デビュー前からって言ったほうがいいかもしれません。6曲目に「夕焼け」という曲があるんですけど、「作曲:かとうあすか」って私の本名なんですよ(笑)。結城アイラとしてデビューする前に、毎週、千葉駅の前で路上ライブをやっていたときによく歌っていた思い出の曲でもあるんですね。

――そんなエピソードが……。

このアルバムを作るにあたって何曲か書き下ろして提出したんですけど、そのなかに「夕焼け」もこそっとまぎれこませたところ、「この曲がいいんじゃないか」という話になって。路上ライブ時代の話もしたら、「思い出の曲だったらより今回のコンセプトにすごく合うし、入れたほうがいいんじゃないの?」とおっしゃっていただきました。

――「どんな星空より〜」のクレジットが作曲:結城アイラなのに「夕焼け」は名義が違っているので、何か意味があるんだろうとは思っていたのですが、そういう理由だったんですね。

もう18年前、二十歳くらいの頃に作った曲なので。18年寝かせて今回入れさせていただいた形ですね。

――「LOVE&GAME」と「Paradeが生まれる」は、アプリゲーム『アイドリッシュセブン』と5次元アイドル応援プロジェクト『ドリフェス!R』に歌詞を提供した楽曲のセルフカバーです。

実は『アイドリッシュセブン』が私にとっての作詞家デビュー作になるんです。この作品の作詞コンペ(オーディションのようなもの)に出させていただいてから作詞家をやらせていただくことになったという、きっかけのコンテンツでもあるので『アイドリッシュセブン』の曲は入れたいなと。『ドリフェス!』は終了してしまったコンテンツではあるんですけど、立ち上げ当初から関わらせていただいて、たくさんの楽曲を書かせていただいたので、入れるんだったらいまのタイミングかなと、セルフカバーさせていただきました。

――この2曲を選んだのは、曲調がジャズアレンジに合いそうというイメージからでしょうか。

そうですね。「Paradeが生まれる」だったらボサノバ調が合いそうだなとか、「LOVE&GAME」だったらすごくライブ感のある楽曲にしたら素敵になりそうだなとか、そういった思惑もあって選びました。

――原曲と聴き比べると、男声と違う柔らかい歌声ならではの良さが出ますよね。

 「LOVE&GAME」とかはギラギラしている楽曲ですからね(笑)。今回は作家さんとかも私がいろいろなところで関わらせていただいた方で、ジャズというコンセプトに合った方にお願いしました。アレンジの方向性もディレクターと一緒にこういうのがいいんじゃないかと相談しながら決めました。

――「Flower Gears」は、作詞・作曲ともに結城さんではありませんね。

2007年から今まで歌手として歌わせていただいてきたので、1曲は歌手・結城アイラとしての楽曲を入れたいなと思いまして、お願いして作っていただきました。

――なるほど……。クレジットも含めて、結城さんの歴史をあらわしているというのはすごいですね。

結城アイラの音楽人生が、「夕焼け」という楽曲で始まって、歌手として歌ってきたものが「Flower Gears」にあって。作詞をするようになってからの楽曲が「Parade〜」と「LOVE&GAME」。「どんな星空よりも〜」は初めて作詞作曲でアニメに提供させていただいた楽曲なんですね。私はこれから作詞作曲をいっぱいしていくぞという決意もありつつ、そこからの「Leading role」。主役という意味なんですけど、私の人生の主役は私だよという楽曲を作らせていただいて。最後はこのアルバムが作られるきっかけになった「Violet Snow」で締めるというドラマティックな流れにさせていただきました。

――それはファンの方にはぜひ気づいてもらいたいところですね。

歌詞カードを見て気づいてくださる方もいてくれると思います。オリジナルアルバムを7年半も出さないで、ファンの方にはお待たせしちゃったなという気持ちでいっぱいです。

――さっきおっしゃっていた、デビュー当時に比べてアニソンが多様化したというお話ですが、TVアニメ『ACCA13区監察課』のエンディング主題歌「ペールムーンがゆれてる」みたいな楽曲もデビュー当時だとあっても劇中歌みたいなものだったように思います。

たしかに、「ペールムーン」みたいな曲をシングルで出せると思っていなかったんですよ。だけど歌っていて「やっぱこれだよなあ」としっくりきていたし、「これでいいんだ」と言っていただけたように感じた作品と楽曲だったので「こういうのやっていいんだ!?」みたいなひとつの材料になりました。

――「Violet Snow」も作品と結びついてすごく印象に残っている楽曲です。

最初は小説CM用の30秒の短い楽曲だったんですけど、作品に育てていただいて挿入歌としてフルサイズも作っていただいて。やっぱり、アニメの放送からけっこう経った時期に、こんなに歌わせていただける機会があるなんてということもありましたし。

――好きなものをずっと持ったまま十数年活動していたわけですよね。変な話、途中で諦める人も多いと思うんですが、捨てられない思いがあったということなんでしょうか。

自分から出てくるものっていうのは結局これしかないんだろうなという気がします。素直に書いたり、歌ったりしましょうとなったときに出てくるものは「Violet Snow」や「夕焼け」みたいな楽曲だったりするんだろうなと思いましたね。

撮影:大塚正明

撮影:大塚正明

「光を作るのはわたしだ」と言い切れるようになった

――アルバムのタイトルにもなっている「Leading role」についてお聞きしたいんですが、これまでのお話をうかがっているとキャリア全体をひっくるめての視点で書かれた、ご自身についての歌詞なんだなとはっきりわかりますね。

ありがとうございます。すごく小さい頃からこの仕事をやらせていただいていて。子役としてお芝居やミュージカルもやってきて、いいこともあれば挫折もいっぱい経験してきて。思い返してみるとすごく狭いところにいた時期もあったなとか。そういうことをいろいろ考えたんですけど、やってきたことは全部無駄じゃなくてすべてがつながって今を作ってくれているものなんだなと思えて。人生のうちで誰もが自分の人生の主役であるべきだなと思ってこういう歌詞になりました。

――ジャズのお話もそうですし、フェスで歌ったという「残酷よ希望となれ」も13年前の曲ですし、いろいろなものが今につながっているという話は説得力がありますね。

本当にそういう、いろいろな自分の後悔していたこととか叶わなかったようなことを全部回収していくような年でした。回収したなと思ったら「アルバム作りませんか」という話があって、「すごい、何があるんだろう?」みたいな(笑)。何のご褒美だろうと思いましたね。

――いわゆるジャズのアルバムってカフェミュージックみたいな形でBGMとして聴けるものもありますけど、このアルバムはもっとしっかり向き合って聴きたいアルバムだなと思ったんですよ。

ありがとうございます。これまで作詞家としてたくさんの歌詞を書かせてもらってきたので、自分のオリジナルの歌詞を書くとなったときにすごく迷いまして。結城アイラとして歌う曲だけど、私個人としての曲だしな……と、何を歌っていいのかと。最初から、"結城アイラ"というものをずっと作っていただいてきたように感じているところがどこかにあったので、自分が根幹になって結城アイラの曲を作っていくとなったときに悩んだんですけど、このタイミングだしこれまでの人生を書くのがいいのかなという気がしました。

――「光を作るのはわたしだ」という歌詞から力強い自信を感じます。

そうですね、私が主役だと言い切れるようになったというか。それまではあまり自信が持てない時期もあったんですけど、活動してきて良かったなと思える瞬間がいっぱいありました。

――「光を作るのはあなただ」や「誰もが」という言葉も出てきますけど、具体的に呼びかける相手のイメージはありましたか?

私みたいな人ですかね。いっぱいいると思うんですよ、自信が持てない人とか、前に進めなくなってしまう人とか。でも、諦めずに続けよう、やっていればいいことあるよということが言いたくて。そういう意味での広い「あなた」なんですけど。

――過去の自分に対して歌っているようなところも。

うん、過去の自分もありますね。「大丈夫だよ」って言ってあげたいみたいな。

――なんというか、楽曲からもお話からも、全体的に結城さんの優しさが伝わってきます。話は変わりますが、長いキャリアのなかで生活に変化はありますか?昨年angelaのKATSUさんとご結婚もされましたし。

そうですね(笑)最近の変化というわけではないんですが、やっぱり作家業を始めてからは生活のリズムは変わりましたね。締め切り前で眠れないとか(笑)。今は慣れてきましたけど、始めた当初は徹夜してるのに書けないこともけっこうあったりしました。そういう創作の時間の感覚とかを誰かに理解してもらうのって難しいものだったりすると思うのですが、KATSUさんは同じクリエイターということもあり、変わらず創作に集中させてもらえるのは本当にありがたいことです。

――資料の読み込みとかも大変そうです。

最初は大変でした。でも、だんだんと慣れてきますし、スピードも早くなりますね。オーダー表を見たときに、これはたぶんこういうことが求められているんだなとか、最初のうちは理解できていなかったことがだんだんわかるようになってきたというか。

――声優ユニットNOW ON AIRのサウンドプロデューサーもされていますよね。

最初は作詞をさせていただいて、それから「サウンドプロデュースをやってみたらどうですか」とお話をいただいたんですけど、その数年前に今後やってみたいことは何ですかと聞かれて「プロデュースとかやってみたいです」なんて話をパンって言ったことがあったんですよ。やっぱり言ってみるもんだなって(笑)。「ライブをどんどんやりたい」とか、言霊じゃないですけど言っていると実現していくことってあるんだなと思いましたね。

――歌手や作詞家としての活動と違った、サウンドプロデュースという立場ならではの難しさ、面白さはどういったところに感じますか?

作詞した楽曲を歌ってもらえるとすごく嬉しいし、自分が以前ディレクターにしていただいていたように歌を録ったり、「こういう楽曲を作りたいです」と意見を出して細かく関われることはすごく勉強になりますね。

――違うスイッチが入る感じですか?

自分の好みがどうかというよりも、その子たちがどういうふうに観られるかとか、そういう目線になるというか。自分もやっていただいていたように「この子たちの世界観はこう」というものを作っていくということが大事なのかなと思っています。冷静に遠くから、違う私が見ている感じはありますね。

――5月には初のアニメタイアップになるTVアニメ『啄木鳥探偵處』エンディング主題歌「ゴンドラの唄」が発売されます。

そうですね。これはカバー曲になるので、私が関わらせていただいたのはディレクションとアレンジの方向性とかそういうところなんですけど。「こんな展開になるんだ!?」という楽曲になっているので、「ゴンドラの唄って昔の人の歌でしょ?」という感じではなく聴いてもらえると思います。

――春以降にやりたいことというと、何がありますか?

そうですねえ、まずはNOW ON AIRちゃんのことですかね(笑)。

――自分のことよりもNOW ON AIRが先なんですね。

親心じゃないですけど。私はこんなに素敵な感じにアルバムを出させていただけるので。あとはファンの方に喜んでいただけるように自分のライブをやっていくということですね。

撮影:大塚正明

撮影:大塚正明

――ライブの予定も決まっているんですか?

 「いろんな人に会いたい」と言っていたら、このアルバムのリリースイベントでショッピングモールツアーみたいな形で回らせていただけることになりました。無料でみんなに観ていただけるので、ぜひ歌を聴きにきていただけたらと思います。

――ショッピングモールツアーってアニソンシンガーでは珍しいですよね。

そうなんですよね。去年は悲しいこともたくさんあって。今日は元気にしていても明日会えなくなってしまうことってあるんだなと思ったときに、なるべくいろんな方と会いたいと思ってしまったんですね。ライブだとハードルが高く感じてしまう方もいらっしゃるかもしれないので、もっと気軽に第一歩として無料で観られるライブがあったらいろんな人にも会えるなと。感謝も伝えられるし、「がんばろうね」って言いあえるなと思って、イベントを組んでいただきました。その集大成として、この『Leading role』をジャズの箱でお届けできるようなライブも用意しています。

――それはいいですね。身近なところでのイベントもあり、すこし背伸びして行けるところのライブもありと。

そうです。ジャズって馴染みがないと行きづらい気持ちになっちゃいますからね。もっと気軽なものだよということを言えたらいいなという感じです。

――今年のやりたいことは「会いに行く」と。

そうですね。これはもう言霊じゃなくて決まっていることですけど。あとは、とにかくこのアルバムを売らないと。そうしないと次に進めないですからね。実演販売していきたいと思います(笑)。

――「結城アイラが実演販売!」はヤバイですね(笑)。

はい、ショッピングモールで実演販売します!

取材・文:藤村修二 撮影:大塚正明