名作映画「リトルマーメイド」や「美女と野獣」の作詞&作曲コンビ、ハワード・アシュマンとアラン・メンケンが手掛けたミュージカル『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』が、シアタークリエに初登場する。日本でも1984年に初上演され、再演を重ねた人気作だ。今回は上田一豪(『オン・ユア・フィート!』『キューティー・ブロンド』演出を担当)が翻訳・演出を行う。

主人公は、スキッド・ロウというさびれた街の花屋で働く青年シーモア。彼は気弱で冴えない青年で、花屋の店主ムシュニクに怒られてばかり。同僚のオードリーに思いを寄せるも、オードリーにはボーイフレンドがいる。そんなある日、シーモアは街で奇妙な植物を手に入れる。食虫植物のようだが、どんな図鑑にも載っていない奇妙な植物に『オードリーⅡ』と名付け、愛情をこめて育てるシーモア。そんなオードリーⅡをお店に置くと突然大繁盛する。大喜びするムシュニクたちだが、実はオードリーⅡにはある秘密があった――。


主人公シーモア役には、舞台に映像に引っ張りだこの鈴木拡樹と三浦宏規(Wキャスト)。ヒロインのオードリー役もWキャストで、元宝塚歌劇団トップ娘役の妃海風と乃木坂46の井上小百合が務める。不思議な植物オードリーⅡはデーモン閣下がヴォイスアクターとしてキャスティングされた。そのほかに岸祐二、石井一孝らミュージカルの名手たちが脇を固める。

今回は、本格的なミュージカルに初挑戦だという鈴木と、乃木坂46のメンバーとしては最後のミュージカル・舞台出演となる井上の組み合わせでのゲネプロが行われた。

ポップナンバーが目白押しの『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』、今回は第一幕の代表的なナンバーを中心にレポートする。

※以下、ネタバレを含みますのでご注意ください。

開場アナウンスは、主人公シーモア・クレルボーン役の鈴木拡樹。緞帳は上がっており、紗幕が下りた舞台上、タイトルと手書きのスキッドロウの街並みの向こうには、ダウンタウンが広がっている。楽しいオープニングトークののち、いよいよ物語の幕が上がる。

冒頭はガールズ(まりゑ、清水彩花、塚本直)による迫力あふれる「リトル・ショップ・オブ・ホラーズ(LITTLE SHOP OF HORRORS)」。スパンコールのミニドレス姿の彼女たちは、圧巻の声量で歌い上げる。


さびれた花屋、ムシュニク・フラワーショップから物語はスタートする。第一場の冒頭「ダウンタウン(スキッド・ロウ)(Skid Row)」は街の紹介も兼ねたナンバー。ムシュニク(岸祐二)とガールズが同じく演じるスキッド・ロウの少女たちが掛け合いをしながら歌いはじめ、主人公シーモアやオードリー(井上小百合)が歌を引き継ぐ。どれだけスキッド・ロウが悲しい街であるか、夢のない街であるかということが、つめこまれた歌詞だ。


シーモアは貧乏でみじめな生活を嘆き、オードリーは男なんてロクでもないと訴え、ムシュニクは店の前にたむろするガールズや浮浪者にいら立ちを隠せない。とてもパワフルで、彼らの持っているくすぶった欲望が垣間見える。

第二場からは「どこかにある緑に囲まれた場所(Somewhere That’s Green)」をピックアップ。オードリーのソロナンバーの一つ。井上演じるオードリーはあどけない印象があり、生身の女性としての悩みや葛藤が前面に押し出されている。オードリーはサディストの彼氏と交際しているものの、全く幸福そうには見えない。よくある『この人には私しかいないのよ』というタイプでもなく、自分のような人間にはシーモアのような誠実な人は釣り合わないと言うばかり。当時のアメリカでは一般的な幸せと考えられていた、けれどスキッド・ロウではあまりにも遠くのどこかにある『幸せ』へあこがれを歌い上げる。


第3場は名曲が目白押しだ。まずは「歯医者さん(Be A Dentist)」。オードリーのボーイフレンドであり、キャラクターとしてもっともアクの強いオリンのナンバー。神経ガス(麻酔用)をキメてハイになっている、オリン(石井一孝)の強烈なインパクトを残す自己紹介ソングだ。ここで行われる石井の客席との掛け合いやアドリブは見どころのひとつ。


そして、目玉は「持ってこい(Get It)」。いよいよ成長したオードリーⅡが本性をみせるナンバー。シーモアはオードリーⅡに驚き、戸惑うが、彼の要求を拒むことが出来ない。シーモア役の鈴木は、驚きから深い困惑、そして怒りと決意に変わって行く姿を見事に演じ切っている。怒りに身を任せたシーモアが踊り狂うシーンは、オードリーⅡの邪悪な囁きより恐ろしかった。


全体を通して、鈴木のシーモアは“自ら選択していく”姿が見えた。オードリーⅡの声に耳を傾け、向き合う。そして、シーモアは自分でも自覚できないほど深くしまいこんでいた欲望を引きずり出されていく。シリアスなシーンでのシーモアの葛藤は、鈴木の表現により、さらに観客に身近で、そして恐ろしく感じられるはずだ。

井上のオードリーは、等身大の女性らしさが魅力的。映画版(1986年)では、地に足のついていない不思議なお嬢さんだったオードリーを、自然と可愛いと思わせるような、そんな演じ方をしていた。仕草や振る舞いの一つひとつで、彼女がシーモアを好ましく思い、本当はオリンの支配から逃れたいと思っている心情が垣間見える。シーモアをそっと支え、応援する姿は健気そのものだ。


本作はディズニー映画でも数多くの名曲を送り出したコンビが制作したミュージカル。珠玉のナンバーが随所にちりばめられていた。鈴木と井上のシーモア・オードリーコンビは、ナンバーとナンバーの間の芝居で細やかにふたりの距離感や、ロマンスを表現していた。


また、オードリーⅡについては詳しくは語らないが、あの植物がデーモン閣下の声で話し始めた時、オードリーⅡは閣下しかいない! と実感するだろう。

本公演は東京・シアタークリエにて2020年3月20日(金)〜4月1日(水)まで上演された後、山形、愛知、静岡、大阪と全国ツアーがスタートする。

ブラックな物語を彩るたくさんの優れた音楽、オードリーⅡに振り回される面々を見て、是非くすりとしてみてはいかがだろうか。あなたの家にオードリーⅡが現れないことを祈るのみだが……。

取材・文=森 きいこ 写真提供=東宝演劇部