おうちをシアトリカルな空間に! いま、自宅で鑑賞できる演劇・ミュージカル・ダンス・クラシック音楽の映像作品の中から、エンタメ界隈に棲息する人々が激オシする「My Favorite」3選。(SPICE編集部)

ホーム・シアトリカル・ホーム〜自宅カンゲキ1-2-3  [vol.18] <宝塚編>
5月の「TAKARAZUKA SKY STAGE」お勧め3作品
by 藤本真由(舞台評論家)​

【1】『チェ・ゲバラ』(’19年 月組 シアター・ドラマシティ)​
【2】『ANOTHER WORLD』『Killer Rouge』(’18年 星組 宝塚大劇場)
【3】『All for One〜ダルタニアンと太陽王〜』(’17年 月組 宝塚大劇場)​
 

宝塚歌劇専門チャンネル「TAKARAZUKA SKY STAGE」の5月放送のラインアップより、見逃せない3作品の見どころをご紹介!

【1】『チェ・ゲバラ』(’19年 月組 シアター・ドラマシティ)​

ミュージカル『チェ・ゲバラ』  ©宝塚歌劇団 ©宝塚クリエイティブアーツ

ミュージカル『チェ・ゲバラ』  ©宝塚歌劇団 ©宝塚クリエイティブアーツ

ヒゲが似合う男役、轟悠。これまでのキャリアの中で、『エリザベート』ルキーニ、『風と共に去りぬ』レット・バトラーなど、ヒゲをつけて演じた役柄で数々の当たり役を連発してきた彼女のヒゲ役最新作が、昨年、日本青年館ホールとシアター・ドラマシティで上演された『チェ・ゲバラ』である。アルゼンチン生まれのキューバのゲリラ指導者、チェ・ゲバラ。立派なヒゲをたくわえたその肖像は、Tシャツにプリントであしらわれていたりして、強烈なビジュアル・イメージを見る者に与える。そんな20世紀の政治家・革命家に、入団35年目の円熟味で轟が挑んでいる。作・演出を手がけたのは、今年、東京二期会『椿姫』の演出でオペラ界にも進出した原田諒。原田といえば、『For the people−リンカーン 自由を求めた男−』のリンカーン役、『ドクトル・ジバゴ』(5月に放送あり)のユーリ役でも轟にヒゲ役を振ってきている。

かつて1977年の『風と共に去りぬ』初演の際、レット・バトラーを演じた榛名由梨が、宝塚の歴史において、主役の二枚目スターとして初めてヒゲにチャレンジ。“ヒゲが箱根を越えるか”(宝塚大劇場公演だけではなく、東京宝塚劇場公演でもヒゲ付きで上演されるか)との賛否両論を巻き起こしたが、好評のうちに受け入れられるようになったというエピソードが。つまり、このとき、宝塚の男役は、“二枚目でもヒゲをつける”という新たな地平を獲得したわけである。それから40年あまり。ヒゲが似合うも男役道の一つ、今では、男役スターのヒゲ姿に大いに胸をときめかせる私たちがいる。『チェ・ゲバラ』では、轟悠演じる主人公のヒゲが、次第にあのおなじみの姿へと増えていく段階を見ることができるのも楽しい。フィデル・カストロを演じた風間柚乃ら、多くの男役もヒゲ姿で登場しているから、ヒゲを通じてそれぞれが男役道を追求している様を、映像でとくとご覧いただきたい。

★タカラヅカ・スカイ・ステージにて5月(5月17日、21日、24日、27日)放送 ※6月も放送あり/そのほか Quatre Rêves ONLINEにて購入可能


【2】『ANOTHER WORLD』『Killer Rouge』(’18年 星組 宝塚大劇場)

『ANOTHER WORLD』(左)、『Killer Rouge』(右)  ©宝塚歌劇団 ©宝塚クリエイティブアーツ

『ANOTHER WORLD』(左)、『Killer Rouge』(右)  ©宝塚歌劇団 ©宝塚クリエイティブアーツ

タイトル通り、舞台は“あの世”。作品の角書(<宝塚グランドロマン『ベルサイユののばら』なら“宝塚グランドロマン”の部分)は“RAKUGO MUSICAL”なれど、<あの世MUSICAL『ANOTHER WORLD』>と、一時期間違って覚えていました…。作・演出を手がけた谷正純は、登場人物の大勢が死んでしまうことが多い作風で知られるベテラン演出家なれど、この作品では、主人公はじめ多くの登場人物が最初からすでにこの世の人ではなく。楽しい仲間を道連れに、貧乏神や桃太郎、赤鬼青鬼も登場し、冥途で繰り広げられるてんやわんやの珍道中。宝塚バウホールで『なみだ橋 えがお橋』『くらわんか』等、落語噺の宝塚化に試み、ヒットを飛ばしてきた谷が、大劇場作品として初めて落語噺を取り入れ、上方落語の「地獄八景亡者戯」「崇徳院」、江戸落語の「朝友」から構成。落語では自分の師匠を登場させるのが慣例とのことで、『ベルサイユのばら』で名高い植田紳爾の名前も作中登場させているのだけれども、それが、このネタ大丈夫ですか?! と虚を突かれてしまったほどのブラックジョーク。ぜひ放送でお確かめを。

関西弁を駆使し、主人公である大坂の両替商の若旦那を演じるのは、前星組トップスター紅ゆずる。彼女のなにわの笑いのセンスが爆発し、文句なしの当たり役。挿入歌「ありがたや、なんまいだ」は、紅が宝塚歌劇団を退団する際のサヨナラショーのラストでも楽しく歌われた曲。宝塚人生最後に発する歌詞が「♪なんまいだ〜」ってすごいな…と感じ入っていたら、その後に鳴るお鈴のチーンという音の残響がいい感じに劇場を満たし、客席大爆笑。彼女の宝塚後の人生の明るさ楽しさを暗示する一瞬となりました。「♪悩みあろうと ただ生き抜いて この世の喜び 謳歌しろ」「♪そーりゃ そりゃ そら ありがたや」と、ノリよく歌いやすい曲なので、テレビの前でぜひご唱和を。

こちらは、タカラヅカ・ワンダーステージ『Killer Rouge』との二本立てで上演された。

★タカラヅカ・スカイ・ステージにて5月(5月10日、14日、20日、25日、31日)放送 ※6月も放送あり/そのほか Quatre Rêves ONLINEにて購入可能


【3】『All for One〜ダルタニアンと太陽王〜』(’17年 月組 宝塚大劇場)​

『All for One〜ダルタニアンと太陽王〜』  ©宝塚歌劇団 ©宝塚クリエイティブアーツ

『All for One〜ダルタニアンと太陽王〜』  ©宝塚歌劇団 ©宝塚クリエイティブアーツ

フランスの太陽王ルイ14世は、実は、女の子だった?! そんな奇想天外な出発点から、銃士隊のダルタニアンが仲間と共に冒険活劇を繰り広げる『All for One』。レオナルド・ディカプリオ主演の映画『仮面の男』等、数々のクリエイターをインスパイアしてきた「鉄仮面」伝説と、ヒロインが王子として育てられているという設定の手塚治虫の名作漫画『リボンの騎士』とを掛け合わせて誕生した、宝塚歌劇ならではのコスチューム・ラブ・コメディで、作・演出を手がけるは小池修一郎。月組トップスター珠城りょうがヒーロー・ダルタニアンを、前月組トップ娘役愛希れいかが、男役からの転向組というキャリアを生かして、“ルイ14世”として育てられたヒロイン・ルイを演じる。彼女が歌う「もし私が女の子なら」は、女の子ならではのお洒落をしたい! という内なる乙女心がスパークする、とびっきりキュートな一曲。

日本が世界に誇る漫画界の巨匠、手塚治虫は、少年時代を今の宝塚市で過ごしており、宝塚の舞台を観、近所に住むタカラジェンヌと交流する機会も。その彼が、宝塚への想い、ノスタルジアをこめて描いたのが『リボンの騎士』。そのページをめくると、大人数で華やかに繰り広げるレビュー・シーンや、キャラクターたちの華麗な決めポーズ等々、宝塚の舞台の雰囲気がいっぱい。そもそも、ヒロインが王子として育てられているという設定自体、女性が男性を演じる宝塚歌劇の男役という存在と大いに重なるところがある。そして、「手塚治虫の宝塚へのオマージュ作品に対する、私からのオマージュ」と、演出家が公演プログラムで語っている今回の『All for One』が実に興味深いのは、男の王を演じている女性に対して愛をささやくヒーローが、実のところ女性である男役によって演じられているという複雑性である。たびたび出てくる“壁ドン”ネタの、最後の最後の楽しいオチにもご注目を。

★タカラヅカ・スカイ・ステージにて5月(5月9日、13日、18日、27日)放送 ※6月も放送あり/そのほか Quatre Rêves ONLINEにて購入可能

文=藤本真由(舞台評論家)