ELLEGARDENの高田雄一(Ba)、元BEAT CRUSADERSのマシータ(Dr)らからも高い評価を集めているシンガーソングライター、sachi.。

sachi.

sachi.

8月12日(水)には人気テレビ番組『今夜くらべてみました』(日本テレビ系)に出演が決定。同番組は全国ネットということもあり、注目度の上昇はもちろんのこと、Twitterのトレンド入りも期待されている。

音楽業界だけではなく、テレビ関係者も注視する、23歳の新星。今回は、「sachi.とはいったい何者なのか」をテーマに彼女の魅力を考察していきたい。

●孤独を感じて生きていた少女時代●

まず、sachi.のプロフィールを簡単に紹介しよう。出身地は東京都練馬区。1997年に生まれ、小学5年生時に父親が組んでいるバンドのボーカリストとして初ステージに立つ。高校2年生の頃から本格的にミュージシャンとして活動。四谷天窓など東京都内のライブハウスを拠点とし、自主企画などを精力的に開催。ソールドアウトを連発し、2017年8月、尾崎豊がかつて所属していたマザーエンタープライズと契約したことを発表。2018年11月にはTSUTAYA O-nestでバンド編成のワンマンライブを成功させた。

生い立ちを反映させたような楽曲が多いなか、「不登校」という背景は、彼女について触れるうえで重要なキーワードだろう。

sachi.はこれまで、「不登校だったこと」を明かしながら、その理由については詳しく語ってこなかったという。しかし2020年3月14日に投稿されたnoteで、「小学校5年生ごろに 起立性調節障害という自律神経の病気になり体調を崩し 不登校になりました」と記述。

起立性調節障害とは自律神経失調症のひとつ。夜になると行動が活発化し、逆に朝、昼は眠気や体調不良で動けなくなってしまう症状だ。sachi.の小学生当時はその症状の解明が現在ほど進んでおらず、周囲からの理解が得られなかったそうだ。

朝は起きることができず、また立ちくらみ、めまい、動悸といった体調不良がひどかったことから、学校は休みがちになった。そんなとき周囲は「ずる休み」「だらしがない」という心ない言葉を浴びせ、たまに学校へ行っても「給食だけ食べに来た」など皮肉られたという。

noteでは、周囲に対して「埋まらない距離感に置いてけぼりにされていく」と当時抱いていた孤独感について綴っている。

●ミュージックビデオでトイレに流す「黒いもの」の意味とは?●

2019年7月にYouTubeで配信された、楽曲「痛み」のミュージックビデオは、彼女のそういう心模様を表しているように感じとれる。同MVでは、トイレのなかで歌うsachi.の姿が映し出されている。

トイレは、学校内で居場所を失った子どもたちが駆け込むところでもある。「ぼっち飯」という言葉もあるように、ひとりになれる空間のトイレで昼ごはんを食べるという生徒もいる。これはあくまで想像だが、sachi.も、たまに登校したとき、ひと息つける場所がトイレだったのではないだろうか。

そしてMV内で、「黒いもの」をトイレに流す。この表現は様々な見方ができる。まず、そういった苦しい日々を自分の黒歴史ととらえ、すべてを流す意味だ。ただsachi.自身、自分の過去を決して否定していない。消し去ろうともしていない。小学生時代の苦しみを音楽に生かしている。彼女にとって自分の過去は黒歴史ではない。

となると、この「黒いもの」は、周囲の無理解と悪意なのではないだろうか。症状のことを信じてもらえず、嫌味を言われ、「サボり」「怠け」だと非難されること。周囲との軋轢は同級生だけではなく、先生ら大人とのあいだにも生まれたという。この世の中にあふれる、そういった「黒いもの」を全部、流して消し去ろうとしている。

「痛み」の歌詞内容も、照らし合わせてみよう。「死ね」という突然きたLINEの文面や根拠のない悪口などに対して<あんたが犯した罪です 償うための求刑を>と記し、さらに<消えてくれよ あんたなんて 生き絶えていいよ どっか行って?><こんな歌も歌われちゃって 死んだように 生きていけますように>と続ける。

歌詞に描かれた濁りのない怒り。そこには甘っちょろいものがまったくない。自分を傷つけたすべてのものを、まさに排泄的に便器へと流して捨てるのだ。これは徹底的な断罪である。そういったかつて受けた仕打ちを赤裸々に歌い、怒りをまったく隠さずにぶつけられるアーティスト(ここでのアーティストという表現は、ミュージシャンだけに限らない)はなかなかいない。

●「ライブが雑だね」と言われた過去●

sachi. 撮影=小川愛晃

sachi. 撮影=小川愛晃

sachi.はどういった経緯で発見され、今のこの状況に至るのか。現事務所のマネージャーは、ネット上で新人ミュージシャンを探していたとき、歌声が気になって、アポイントもとらずに彼女が出演するライブへ足を運んだのだという。そのときのライブについて、マネージャーは「バンドとバンドの谷間に(ソロミュージシャンの)sachi.が出てきたんです。ギター一本でありながら、前後のバンドが吹き飛ぶほど、きわだった個性と度胸に惹かれました」と述懐する。

そして次の渋谷でのライブ終わりにはじめてコンタクトをとる。だが、「一度限りの人生なので、よく考えさせてほしい」と即答は得られなかった。それでもマネージャーは「ライブ中とは好対照の話し方と表情の落差にも心が惹かれた」とますますのめりこみ、ライブに通い続けて、マネジメントをすることになったという。

ELLEGARDENの高田雄一も「歌もギターも本番でしか出さない領域がある」とステージ上のsachi.の特徴について語り、「油断していると飲み込まれる」とその凄みに驚く。

sachi.の大きな魅力は、マネージャーや高田雄一もいうように「圧倒的なパフォーマンス力」にあるのだろう。

J-WAVEの番組『SONAR MUSIC』の2019年9月2日オンエア回では、sachi.がよく出演していたライブハウス・四谷天窓の中田将輝店長が、彼女のことを「ゴリゴリな音にも負けない重い言葉をちゃんと使える子」と紹介。音源を聴いた同番組ナビゲーターのあっこゴリラもその音楽を「ハングリーな感じ」と称している。

sachi.は、JFN PARKでパーソナリティをつとめていた冠番組『sachi.の今日もここらで現地集合』の2018年8月28日オンエア回で、初めて四谷天窓のステージに立ったときのことを振り返っている。当時、中田店長から「まあボロクソに言われて、泣きそうだったか、泣いたかの記憶があって。ライブが雑だねと言われたんです。部分的ではなく全体的に雑だって」とかなり手厳しくやられたという。

でも、その叱咤激励が成長へと結びついた。sachi.が歌う強い言葉の数々は確かに刺激にあふれているが、でも暴力的ではない。力づくではないのだ。歌詞を見なくても何を訴えているかしっかり聴き取れるし、想いがちゃんと伝わってくる。それはもしかすると、「雑だ」という指摘を経て、自分自身で表現のやり方をあらためて模索し、そして手に入れたメッセージ性の強さと丁寧さなのかもしれない。

●音楽関係者が「心をことごとくつんざく」と絶賛●

sachi.の音楽やライブのすばらしさは、勢いまかせではなく、怒りも、悲しみも、喜びも、すべて丁寧に投げかけるところ。丁寧だからこそ、ちゃんと聴き手に届く。そして、自分がたどってきた背景をイメージさせることができる。「良い音楽」と言えるものは、音楽が出来上がるまでに作り手にどんなことが起きたのか、それを思い描かせることだと筆者は考えている。その点、sachi.の楽曲はイメージを膨らませる要素がたくさんある。

sachi.の音源リリースを手がけたユニバーサルミュージックの矢部順也氏は、彼女の歌声について「つんざく」という表現を用る。配信ライブのときも「画面を超えて、こちらの心をことごとくつんざいてくる」と気持ちが高ぶるという。しかし「ただただ刺してくるだけではない。そこに残った爪痕は、なぜかじんわりと暖かいんです」と、音楽の繊細さとそこからにじみでる人間味を感じたと話す。

8月12日(水)21時より放送される『今夜くらべてみました』でどのようなかたちでクローズアップされるのか。それはオンエアを観てのお楽しみだが、何者にもくらべられないほどの存在感の持ち主であることは間違いない。 

sachi. 撮影=小川愛晃

sachi. 撮影=小川愛晃

●広島FM『9ジラジ』DJ 大窪シゲキ コメント●
ラジオから届けたい。『sachi.』の声を初めて聴いた時の感想です。
痛みを知る人の言葉には優しさがある。「学校が嫌いだ」「生きるのが辛い」悩めるリスナーにとって彼女の曲は居場所。一人じゃないと思える存在だ。
●ex.ビートクルセイダース 山下博史(Dr)●
会うたびにビシビシ魅力が増してそれがとどまらないところ。俺みたいに父親と同じくらいのミュージシャンと鳴らしても凄く堂々としているところ。彼女が10代から20代になるとても大事な時期に関わらせてもらってる俺が言うんだから間違いない。
●ELLEGARDEN 高田雄一(Ba) コメント●
なんだかんだでもう数年サポートさせてもらっていますがライブ本番の圧。歌もギターも本番でしか出さない領域があって数日リハをしてこんな感じかなと油断していると飲み込まれます。それが楽しみでもあります。