◇第69期大阪王将杯王将戦 7番勝負第7局第2日(2020年3月26日 新潟県佐渡市・佐渡グリーンホテルきらく)

 渡辺明王将(35)が熱闘を制して防衛に成功、シリーズ4勝3敗として2期連続4度目の王将位を獲得した。自らの大駒2枚を挑戦者・広瀬章人八段(33)に差し出すピンチに追い込まれながら底知れない地力の強さを発揮。最後は粘る広瀬を振り切ってゴールにたどり着いた。王将位通算4期は谷川浩司、久保利明両九段に並ぶ4位となった。

 上気してほんのりと赤色に染まった渡辺の表情が激戦を物語っていた。勝利の第一声を発するまでに数秒の間が空く。「まあ大変な将棋で…。だいぶ後ろの方(最終盤)まで分からなかった将棋でした…」。疲労感を隠すことなく盤面に視線を落とした。

 危機感に襲われたのはこの日の午前中。第1日から角損を選択し、さらに飛車まで放出した。昼食休憩後の69手目▲2二歩(第1図)。なんと盤面には大駒4枚が広瀬側に構えている。うち2枚は成り駒だ。「しょうがないとは思っていたが、基本的には自信がなかった。あのへんは千日手絡みを考えていた」と当時の心境を明かす。

 千日手とは同じ手を繰り返すことにより勝負を不成立にするルール。基本的には敗勢に立った棋士が採用する捨て身の戦術だ。

 弱気を悟られまいと必死の反撃を開始する。2筋に配置した銀を活用させ、まず飛車の奪還に成功。さらに角まで取り返し、駒割の回復を強引に実現させた。こうなると強気の攻めがよみがえる。気がつけば広瀬王を左右から挟み撃ちの状態に。145手目の▲5二桂成で金取りに成功し勝利を確信したという。

 劣勢からの復活が目立った今シリーズだ。第3局は敗勢から豪快にうっちゃり勝ち。2勝3敗と後がない第6局も失冠間近の大苦境から力業でひっくり返した。「カド番に追い込まれた時は正直苦しかった」と遠い目で話す。とんでもない剛腕を、いやというほど見せつけた。

 中学時代からプロ野球・ヤクルトの大ファン。「90年代で黄金時代だったので」。当時の野村克也監督は、10年ほど前に自身の特集テレビ番組にゲスト出演してもらった縁でサイン色紙を手にしている。その憧れのスターがこの2月に急逝した。「あのサインは、今も自宅に飾ってあるんですよ」。常勝軍団総帥の魂を受け継ぐような連覇達成だ。

 4月からは名人戦初挑戦(対豊島将之名人)も待っている。「少し休んでから、次を考えます」と、赤みの残った丸顔をきりりと引き締めた。

 ◆渡辺 明(わたなべ・あきら)1984年(昭59)4月23日生まれ、東京都出身の35歳。2000年に四段昇段を果たし、史上4人目の中学生棋士に。04年に竜王の初タイトルを獲得以降、王将戦4期を含む25期の戴冠を誇る。現在は王将のほか棋王、棋聖も保持。