サザンオールスターズがデビュー記念日の6月25日に行った初の無観客配信ライブ。2時間で22曲を披露したライブを見て、感じたことは「いかに普段通りのライブができるか」だった。

 配信開始時に写し出されたのは、無観客の客席だった。「寂しいな」と思ったファンは多くいたことだろう。だがその後、開演前の「影アナウンス」によって、早くもライブ感が伝わってきた。

 通常のライブの影アナでは、録音や録画の禁止、周囲の客に迷惑をかけないことなど注意事項が述べられる。この日もスクリーンショットなどを控えるように注意があったが、その後は「扇子を頭に乗せても良い」「ごはんを食べながら、お酒を飲みながら見ていただいても構いません」などと配信ライブを盛り上げるような内容で、思わずクスっと笑ってしまった。そもそも、この影アナそのものが、頻繁にライブに通う音楽ファンには懐かしかったはずだ。

 メンバーもファンがいることを意識していた。観客席に手を振りながらステージに登場したメンバーもいた。ボーカル桑田佳祐(64)はトーク中に「スタンド〜!アリーナ〜!」と普段通りのマイクパフォーマンスで沸かせた。こうしたコール&レスポンスは観客がいないと成立しない。だが、配信映像には過去のライブのファンの歓声が入っていて、違和感はなかった。カメラもこれに合わせて客席を写しており、シュールな映像ではあったが、普段のライブ映像となんら変わらないカメラワークだった。歓声は1曲ごとにしっかり入り、無観客であることはまったく気にならなかった。

 ステージに上ったバンドメンバーは、サポートメンバー、ダンサーも含めてフル態勢。スタッフも400人。ライブグッズも制作し、オンラインで販売。ギリギリのラインでサザン特有の“おふざけ”もあった。最大限の「今できること」だったように思う。

 「当たり前の生活が当たり前ではなくなった」。コロナ禍で誰もが感じたことだろう。当たり前だったライブも、もはや当たり前ではない。その中で、いかに当たり前のことをやるか。決して手を抜かない、そこに観客がいても何ら恥ずかしくない、そして自信を持って届けることができるライブを、サザンは実行した。ドームやアリーナクラスの公演がいつ再開できるかはまだ分からない。ただ、国民的バンドであるサザンが、無観客ライブで多くのファンを笑顔にさせた。この事実は、音楽、ライブ、エンタメに携わる人々を勇気づけたことだろう。

 主催者側の発表では、税込み3600円のチケット(視聴権)の購入者は約18万人。テレビやタブレットで複数人が見られるため、視聴したのは約50万人と推計した。今回のライブは収益の一部が医療機関に役立てられるチャリティーなので、「これだけの利益が出た」と言うべきではない。ただ純粋にチケット収入だけを見ると、ドーム公演1回分に匹敵する額になる。「withコロナ」の暮らしが長く続くことが予想される中、こうした有料配信ライブはアーティストやスタッフの収入面にも有効であることも示した。

 さまざまな善意から無料で配信されるコンテンツもある。ただ、音楽やライブは決して無料ではない。そこに携わる多くの人がいて成り立っている。たくさんのスタッフが身を粉にして働いている。仕事の対価は受け取ることができるべきだ。

 サザンのライブに支払った3600円は、純粋にその価値があったと思う。(記者コラム)