「つぶれるぞ、外に逃げろ!」。誰かの声が聞こえた。そこから先の十数秒は、はっきりと覚えていない。気がついたら横浜(現DeNA)、ヤクルトの選手、関係者らでごった返すグラウンドに立っていた。首が痛い。避難した際に後ろから誰かに強く押されたのだろう。足は震えていた。

 2011年3月11日。記者は横浜スタジアムでオープン戦を取材していた。そして試合中だった午後2時46分に東日本大震災が発生。津波や大規模停電など東北地方は甚大な被害を受けたが、関東地方も激しい揺れに襲われた。

 あれから9年。昨年限りで現場での取材生活を終えて会社で新聞を編集する立場となったが、何の巡り合わせか3月11日だけは横浜スタジアムでオープン戦(DeNAVS広島)を取材することになった。あの日と同じ青空の下で午後1時にプレーボール。だが大きく状況は違う。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で無観客だった。DeNAで主将と4番を兼務する佐野が2本塁打を放っても、ドラフト3位の伊勢(明大)が1軍デビューのマウンドで152キロを記録しても、歓声やどよめきが起こることはない。数キロ離れた横浜港に停泊している船の汽笛も聞こえてきた。球場とは思えないほどの静けさ…。試合後、ラミレス監督は「開幕に向けてベストを尽くして準備するだけ」と神妙な表情で語った。

 すでにプロ野球は当初の予定だった3月20日のシーズン開幕を延期した。開幕延期は東日本大震災が発生した11年以来、9年ぶり。今月23日には4月24日の開幕を目指すことを発表し、同中旬まで組まれていた一部の練習試合の中止を発表した。だが26日深夜には阪神・藤浪ら3選手の同ウイルス感染が判明。プロ野球は団体競技で長距離移動を伴うだけに、今後も状況が変われば白紙となる可能性も十分にある。

 今年は同ウイルスの影響もあり、3・11関連のイベントも延期や中止が相次いだ。球場からはファンの歓声、そして球音までも消えた。やり切れない思いを抱えながら、新聞を編集する日々が続いている。(記者コラム・山田忠範)