ケガを味方にして己を高めた石川直宏。引退を発表も「まだ終わりじゃない」

ケガを味方にして己を高めた石川直宏。引退を発表も「まだ終わりじゃない」

 FC東京のMF石川直宏(36歳)が、今シーズン限りの現役引退を発表している。

 2000年に横浜F・マリノスに入団。2002年に移籍したFC東京でスピードスターとして頭角を現す。タッチラインを疾走する姿は天馬のようで、アテネ五輪に出場。日本代表にも選ばれている。
 
 一方で、ケガにつきまとわれた選手生活でもあった。3度の膝靱帯断裂を経験。膝のケガはサッカー選手の生命を脅かす。復帰まで約1年近くかかり、再発の危険を伴う。それで20年近く現役を続けられたことのほうが驚きだ。

「思っていた以上の回復ができていない」

 石川本人が明かすように、引退の理由もケガによるところが大きいだろう。しかしながら、石川はケガに負けたわけではない。むしろケガを味方にすらした。ケガによって、自らを鍛え、己を高めてきた選手だった。

「J1のピッチに戻ったとき、ひとつの作品にしよう」

 筆者は石川と昨年春、そんな約束をしていた。2010年に刊行した『アンチ・ドロップアウト』(集英社)に石川のルポを収録。ケガという運命に、少しも諦めず、勇ましく立ち向かう姿を描いた。2015年夏のドイツ遠征以来、ピッチに戻れていなかった石川と再会した際、「もう一度、描きたい」という衝動に駆られたのだ。

「自分としては、ここで終わり、というのが嫌なんです。ケガを克服して、ピッチに立って、自分らしい姿を見せたい。周りにも、そして自分にも、”復活したぞ”というのを見せつけてやりたいんです」

 そう語る石川の目は、爛々(らんらん)と輝いていた。彼は言うなれば、ケガを克服するスペシャリストである。

「俺はケガを乗り越えることで結果を出してきました」

 そう言う石川は常に自分と対峙してきた。

「ケガに関しては、起こったことを受け入れよう、と自分に言い聞かせてきました。自分の足だし、膝なわけだから、向き合う必要があるし、マイナスには捉えないように。不安はあっても、そういうことすべてを含めて自分だから。ケガはアスリートとしていいことではないかもしれないけど、自分に与えられた試練のひとつだと思っています。ケガのたびに身体のメンテナンスをしてきましたね。付近の筋肉を強化し、コンディションを整え、”修理に出した車の足回りがいい”みたいな感じになるんです。自分はケガのたび、しっくりといく動き方ができるようになりました」

 石川は衒(てら)いもなく語った。事実、ケガのたびに逞しくなっている。

 2006年に右足靱帯断裂から復帰すると、タッチラインからゴールをアシストするだけでなく、中央に入って積極的にゴールを狙うプレーに取り組むようになった。次第にプレースタイルを変化させ、2009年には得点力のあるサイドアタッカーとして覚醒。リーグ戦15得点でベストイレブンに選ばれ、岡田武史監督率いる代表にも復帰した。その絶頂期に今度は左膝靱帯を断裂したわけだが、力強く復活し、2012年にはアルベルト・ザッケローニから代表招集を受けている。

 ケガから蘇る姿は神々しくさえ映る。それはさながら不死鳥のようだった。FC東京の後輩選手たちは、石川の誠実さと忍耐強さを尊敬してやまない。しかし、復帰に励む本人は切実な心情も口にしていた。

「でも、俺はピッチでプレーしたいだけですよ」

 石川は静かな物言いに熱を込めた。

「チームでの立場を考え、黙々とトレーニングしていると、『すごいっすね』と若手には言ってもらえる。なにかが伝わっているなら嬉しいんですよ。それがチームの力になっているなら救われるし、ケガしていても何か役に立ちたい。でも、同時になんか違うなっていうのもあるんです。俺はリハビリを頑張っている姿を見せたいわけじゃないから」

 昨年、石川はJ3(FC東京U−23)で一度復帰を果たしている。だが試合後の経過は思わしくなく、患部とは違う箇所が痛み出し、再び戦列を離れることになった。以来、実戦のピッチには立っていない。J1で最後に出場したのは、2015年のままだ。

「ドロドロとした感情を爆発させたい」

 石川は心境を吐露していた。周りの選手を気遣い、チームのためにできることをする。その一方、彼はプレーしたい欲求を封じ込めてきた。それは求道者のようで、やるせない思いは胸の奥にため込まれる。ドロっとした感情を解き放つのはピッチに立つしかない。

「まだ終わりじゃないので!」

 石川から引退会見の前に、LINEでメッセージが来た。引退は発表したが、復帰を断念したわけではない。最後の賭けのつもりで、残りのシーズンにすべてを投じようとしている。それは不器用で、彼らしい生き方と言える。

「ケガをしないのがいい選手ですよ。でも、俺は試練を与えられ、限界を超えられる瞬間がたまらなく好き。プロサッカー選手として生きるか死ぬか、その最後まで自分をさらけ出しますよ!」

 最後の最後の瞬間まで、石川はサッカー選手として挑み続ける。

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