ダルビッシュ加入で試練の前田健太。もしローテを外れても恥ではない

 今シーズン、ここまで20戦に登板(先発は18度)し、10勝4敗、防御率3.69。MLBの日本人投手トップの勝ち星が示す通り、ロサンゼルス・ドジャースの前田健太の成績は立派なものに思える。

 8月8日に先発したアリゾナ・ダイヤモンドバックス戦でも、5回を投げて4安打1失点と好投した。リリーフ投手が逆転を許したために勝ち星はつかなかったが、十分に自らの役割を果たしたと言えよう。

 この登板の2日前、前田に「ドジャースが破竹の勢いで勝っていることは、逆にプレッシャーになるのでは?」と聞くと、こんな答えが返ってきた。

「野手、リリーフ陣の状態がいいというのは、プラスになっていると思う。先発ピッチャーが粘っていけば、勝利に近づくと思いながらマウンドに上がっています。変なプレッシャーはないですかね。正直、そこまで考えてないです」
 
 その言葉通り、ダイヤモンドバックス戦の前田の投球には落ち着きが感じられた。
 
 今シーズンの前田は、最初の4戦こそ19イニングで17失点と乱れたが、4月23日以降は16試合(先発は14度)で9勝2敗。防御率も2点台をキープしている。この14度先発した試合でドジャースは11勝を挙げており、前田の貢献度は大きい。

 一方、2年前の左肩手術から回復途上である韓国人左腕のリュ・ヒョンジンは、8月6日のニューヨーク・メッツ戦で7回1安打無失点と完璧なピッチングを見せた。リュも直近の6戦で34回3分の2を投げ、38奪三振、防御率2.08と好調。普通に考えれば、この左右の”日韓スターター”は、1988年以来の世界一を目指すドジャースで重要な役割を担っていきそうに思えるのだが……。

「ダルビッシュ有が加入したことで、前田とリュがプレーオフに先発することはなさそうだ」

 8月6日の『LAタイムズ』にはそんな記述があった。素晴らしい投球を続けている前田とリュが、いずれ先発ローテーションから弾き出されると予想されているのはなぜか。それは、歴史的な快進撃を続ける今季のドジャースにおいて、その屋台骨を支える先発投手陣の層が極めて厚いからだ。

 ドジャース先発陣の軸は、クレイトン・カーショウ(今季15勝2敗、防御率2.04)、アレックス・ウッド(同13勝1敗、防御率2.33)、リッチ・ヒル(同8勝4敗、防御率3.47)という3人の左腕だ。その中で、”メジャー最高の投手”と称されるカーショウは、7月23日に腰の痛みを訴えて故障者リスト入り。これで暗雲が漂うかと思えば、トレード期限を前に今夏のマーケットの目玉的な存在だったダルビッシュを獲得してしっかりと補強した。

 莫大な資産を誇る”金満チーム”の強みを活かして揃えた先発陣は、カーショウ離脱後の12試合でも、防御率1.82(69回3分の1で自責点14)、WHIP1.00、61奪三振、17四球と調子を乱すことはなかった。

 今後、本来はローテーションの一角を担うはずのブランドン・マッカーシー(同6勝4敗、防御率3.84)も故障者リストから復帰してくる。カーショウ、ダルビッシュ、ウッド、ヒル、マッカーシー、前田、リュの7人は、他のどのチームでも先発として活躍できる投手たちだ。79勝33敗(8月9日現在)という驚異的な勝率の原動力となってきた先発陣は、今後もドジャースの大きな武器であり続けるだろう。
 
「ひとつのミスも許されないポストシーズンを考えた時、相手をかわすタイプの前田の先発起用に、首脳陣が消極的になるとしても仕方がない。だが、今のドジャース先発陣から弾き出されたとしても恥ではない。先発が崩れた際、あるいはアクシデントがあった時のロングリリーフなどで、前田にも活躍の機会はあるはずだ」

 ナ・リーグのあるチームのスカウトは、ドジャースの先発陣についてこう述べた。実際に、間もなく投球練習を再開するカーショウが予定通りに戻ってくれば、4人で足りるプレーオフの先発はカーショウ、ダルビッシュ、ウッド、ヒルが選ばれる可能性が高い。残りのシーズン中も、前田はマッカーシーやリュと先発の5人目の枠を争うことになるだろうが、球数が多くなりがちで、クオリティ・スタートの数が少ない前田はどうしても不利になる。

 先発にこだわりがあるはずの前田にとっては微妙な状況だ。しかし、すべては圧倒的な強さで突っ走る強豪チームに属しているがゆえ。スカウトの言葉通り、この陣容の中でローテ落ちしたとしてもまったく恥ではない。また、ドジャース先発陣の”唯一の弱点”はケガの多さにあり、予期せぬアクシデントはいつでも起こり得る。今後もコンディションを保って好投を続ける限り、プレーオフでも前田が存在感を発揮する場面は訪れるだろう。

「このチームには優れた先発投手が多い。ローテーションに残るために全員が全力を尽くしている競争は、チームにとっていいことだ」

 8月6日の登板後にそうコメントを残したリュと共に、前田はナ・リーグ覇者の大本命であるドジャースでどう活躍していくのか。そして、来るべきプレーオフでどんな役割を担うことになるのか。前田の今後は実に読みづらいが、それゆえにスリリングで、余計に楽しみであるという言い方もできそうだ。

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