「けっこう恥ずかしい」雄平語録。コロコロ変わる打撃の形は探求心の証

「けっこう恥ずかしい」雄平語録。コロコロ変わる打撃の形は探求心の証

 プロ17年目、打者に転向して10年。ヤクルトの雄平は、シーズンが開幕してから”ひとり早出ティーバッティング”を習慣としてきた。喜怒哀楽が詰まった練習風景は見ていて飽きることなく、石井琢朗打撃コーチの言葉に、雄平の本質が表れていた。

「おい雄平、おまえは継続する力があるから大丈夫だよ。でも、毎日バッティング練習してあきない? オレはあきる(笑)」

 昨シーズン、雄平はキャリアハイとなる打率.318を記録したが、今年は8月を迎えるまで打率は2割6〜7分を行ったり来たりしていた。「打てないなぁ」という言葉が、早出前のあいさつのようになっていたが、スイングはいつだって力強く、雄平が放つ言葉にはユーモアがあふれていた。


打者に転向して10年目のシーズンを迎えた雄平

「(昨日は)謙虚にレフト方向に打っていれば……。欲に負けてはいけない。右の壁を崩さないように。ガマン、ガマン」(5月8日)

「全然打てない。右のオーソドックスな投手も打てない。ストライクを見逃して、ボール球を振っちゃう。いい風が吹いているけど、僕の出番はないだろうなあ」(5月26日)

「打てないなぁ。チャンスで打てない。昨日も最後は……あそこは四球をもらってもよかった。打つことしか考えていないからダメですね」(6月19日)

「うまくいかないなぁ。昨日も悪くはなかったんだけど……。でも、きっといいことはある。そのために(フォームを)変えないで続ける」(6月21日)

「試合出られますかね? 代打かなぁ。でも昨日はヒットに四球も選べたのでよかった。早く3割にしたい。そうすれば先発で使ってくれる。ようやく、いろいろやってきたことが、ひとつの線になろうとしている」(6月24日)

 今回、この”雄平語録”を本人に伝えると、「そんなこと言っていましたか……けっこう恥ずかしいなぁ」と苦笑いして、この時期の心境について語ってくれた。

「7月までは打てそうで打てなかったですね。打席での感覚が、もうひとつしっくりきてくれない。原因はわかっていても、うまくいかないもどかしさ……ずっと模索していました。それができれば調子の波を小さくすることができるのですが、そこが難しい。結果的に、ひとつの線には全然つながっていませんでした。それを感じたのは8月ぐらいですね」

—— 「きっといいことはある」という言葉が印象的でした。

「根拠はなかったんですけど、模索するってことは、いいことが起こるために必要なことですから。模索し続けていけば、今年の僕のバッティングの形が見えてくると思っていたので……。結果、フォームは変えたんですけど、それでよかったです(笑)」

 そして8月、雄平は打率.351、6本塁打の大爆発を見せた。ひとり早出でも頼もしい言葉が多くなっていった。

「ボールは目で見るんじゃなくて、体で見るんだよ。それも体の芯で見る。わかんないけど(笑)。まぁ、僕は言うことがコロコロ変わるから」(8月2日)

「バッティングは意識なんだよ。今は背中を意識して打席に入っている」(8月4日)

「新しい発見があった。体の軸が動いていた。だから、左足のこのあたりに力が乗っからない。ヒット1本も2本も、タコ(無安打)も紙一重」(8月6日)

 8月13日には「直すところがない」と宣言し、「左の山田哲人」と言ってバットを振り始めた。驚くことに、バットの構え方、足の上げ方、表情まで山田にそっくりだった。

「僕の打席でも、哲人の応援歌をやってくれないかな。あっ、哲人が来た! 僕の練習、見てくれているかな」

「(中日の左腕・ロメロについて)」メジャーの時の映像を見たら、100マイル出ていて、これは打てない。ただ、左打者には(被打率)2割6分ぐらいなので、甘いボールがきていると思う。そこを見逃さない。甘い球がこなければハードラック(不運)。割り切りも大事。あっ、哲人が来た! 僕のこと見ていますよね」(8月14日)

「昨日は左の脇が開いていたから、そこをちょっと修正する。じゃないと、バットのヘッドが回らない。哲人来た! 見てる? 見てる?」(8月17日)

 好調だった8月、雄平は「バットの軌道やタイミングのイメージがすごく沸いてきたんです」と言った。”左の山田哲人”については、山田のすごさがよくわかる答えをくれた。ちなみに、雄平は坂本勇人(巨人)や柳田悠岐(ソフトバンク)のフォームを取り入れたティーをしていたこともあった。

「坂本とギータ(柳田)もやっていましたね、恥ずかしいなぁ(笑)。哲人のは完全にマネです。こういう打ち方をしたいと思っていたところ、哲人の打ち方に当てはまることに気づいたんです。ならば、マネをすればいいんじゃないかと。哲人はスイングスピードも速いけど、バットを鞭(むち)のように使いますよね。これは慎也さん(宮本ヘッドコーチ)から言われていたことで、柔らかく握ってスイングすることでバットがしなる。だから哲人は、細身だけど強いボールを打てるんです」

 雄平の”ひとり早出”は、ほかの選手が球場に姿を見せる頃に始まり、その姿を見れば誰もが声をかけずにはいられなくなる。

「雄平、朝からティーバッティングをやりすぎじゃねえのか(笑)」(小川淳司監督)

「雄平、プライベートサングラスで練習するなよ(笑)」(河田雄祐外野守備・走塁コーチ)

「雄平、安心しろ。(先発メンバーに)名前入ってたぞ」(衣川篤史バッテリーコーチ)

「昨日ホームラン打ってるんだから、今日は(ティーを)やらなくていいんじゃないの。また(フォームを)改造する気でしょ(笑)」(青木宣親)

「雄平は打者に転向してからの通算打率が2割9分7厘ってすごいよな。1000本安打まであと少しというのもすごい」(石川雅規)

 なにより面白いのが、石井コーチと雄平のティーバッティング中の会話だ。

「打つ時に顔の軸がブレていることに気づきました」(雄平)
「おまえは心の軸がブレるからいけない。自分から悪い方にいってしまう」(石井コーチ)
「アーッ(笑)」(雄平)

「ほかの選手のバットも触ったけど、オレはおまえのバットが一番扱いやすい」(石井コーチ)
「この形はバランスがいいんですよね」(雄平)
「おまえは扱いづらいけどな(笑)」(石井コーチ)
「アーッ(笑)」(雄平)

 石井コーチに雄平について聞くと、こんな答えが返ってきた。

「彼を支えているのは探求心ですよね。本当に毎日毎日、あきないのかと思うぐらいバットを振る。実績で言えば、青木や山田なんでしょうけど、若い選手は雄平のバッティングへの姿勢という部分を見習ってほしい。守備とか走塁はマネしなくてもいいけど(笑)」

 8月27日には打率.297まで上昇したが、9月に入るとまた変化が起きた。

「絶不調だよ。3試合でヒット1本。内容もよくない。(中日の)三ツ間(卓也)の145キロが155キロに見えた」(9月3日)

「昨日、2本のヒットでちょっとよくなってきたかも。左足のこのあたりに力が乗らなかったから、ステップ幅を小さくしてみるよ」(9月5日)

「どうなってんだ、打てない。でも、規定打席に達したよ。選手にとって規定到達は大事だからね。うれしい」(9月6日)

「どうなってんだ。今年は左ピッチャーから3割打っていたのに、この4試合で2割7分ぐらいになっちゃった。今日は(試合に)出られないだろうなぁ。結果が出てないから仕方ないけど……石ちゃん、今日もありがとう」(9月7日)

 石ちゃんとは石田哲也打撃投手のことで 、”ひとり早出”で雄平にトスを上げている。この”雄平語録”のほとんどは、石ちゃんとの会話のやりとりである。雄平は石ちゃんに感謝する。

「石ちゃんは自分の仕事の準備を早く終わらせて手伝ってくれています。僕自身が甘えている部分はありますけど、ああでもない、こうでもないとバッティングのことを話しながら付き合ってくれる。石ちゃん、本当にありがとう」

 9月8日、神宮球場での巨人戦は台風接近により中止となった。雄平は「この中止はありがたいです」と言って、2本のバットを手に室内練習場に向かった。途中、「今日は中止ですよー」と告知しながら、ファンからのサインや記念撮影に応じていた。

「感じは悪くないのに、なぜ感覚がズレているのか。とりあえず、いま考えていることを試すことにします。今の状態であれば、足を高く上げないフォームがいいのかなと。おそらく、僕自身に疲れがあり、その状態で足を上げるのでブレているんじゃないかと。自分のイメージと実際のポイントがズレているからファウルになったり、いい当たりで終わってしまっている。哲人は若いということもありますが、疲れが出るこの時期でも足を高く上げてもブレないからすごい」

 山田に「雄平選手がフォームをマネしていることを知っていますか」と聞くと、笑顔でこう答えた。

「気づくもなにも、雄平さん、自分からそのことを言ってきますから。雄平さんはフォームをコロコロ変えるタイプなので、何も思わないです」

 そして山田に、雄平がそのフォームを続けていくと決意したことを伝えたが、「いや、絶対に変えますよ(笑)」と即答した。

 この一連のやりとりを雄平に伝えた。

「哲人は僕の性格をよくわかっている。実際、今から変える(笑)。でも、みんな、雄平がまたフォームを変えたと笑うけど、先程も話したように根拠はあるんですよ。今回は足の上げ方を変えるだけで、根本的な部分は哲人の打ち方を続けたいですね」

 そう話すと、雄平は足を低く上げるフォームで、マシン相手に打ち込んだ。

「足を低く上げた方が、今の状態にアジャストできる。この2日間の休みで元気になれば、また足を高く上げるかもしれないけど、まずはこれでいこうと思います」

 最後に「毎日バットを振って飽きないですか」と聞くと、雄平は「飽きないです」と即答し、こう答えた。

「自分としてはもっと打てる自信があるし、もっと新しいものを見つけたいという気持ちもあるので……。たとえば、バットをしならせるにしても、練習でさえ理想どおりにいかない。やることがたくさんあるんです」

 クラブハウスに戻る道で、「今日はこれから何をしようかなぁ……」と雄平がつぶやいた。早く家に帰ったところで、バッティングのことを考えるのだろうと思ってしまった。24時間、バッティングのことを考えられる男、それが雄平なのである。

著者:島村誠也●文 text by Shimamura Seiya


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