止まらないトリニータ旋風。「片野坂流」は愚直でブレない

止まらないトリニータ旋風。「片野坂流」は愚直でブレない

 あまりにも劇的な結末に、記者席で思わず手を叩いてしまった。観客席に座っていたら、スタンディングオベーションをしていたに違いない。それほどまでに見事な、大分トリニータの”サヨナラゴール”だった。


後藤優介の劇的な決勝ゴールで勝利した大分トリニータ

 金曜の夜に埼玉スタジアムで行なわれた一戦。0−0で迎えた終了間際、浦和レッズはホームの声援の後押しを受け、なりふり構わず最後の猛攻を仕掛けていた。ファブリシオがカウンターで抜け出し、エベルトンが強烈な一撃を見舞う。GKの高木駿を中心に何とか耐えしのいでいた大分の守備は、いつ決壊してもおかしくはなかった。

 ところが後半アディショナルタイム、大分は一瞬の隙を逃さなかった。

 相手のシュートを身体を張って食い止めると、すぐさま切り替えてカウンターを発動する。最初の縦パスは相手に止められたものの、こぼれ球を拾って再び縦に供給。ボールが左サイドを駆け上がった田中達也に到達すると、さらにその大外からCBの三竿雄斗が一気に飛び出していく。

 虚を突かれた浦和の選手たちが必死に自陣に戻るも、大分の走力がそれを凌駕する。田中のパスを受けた三竿の放った絶妙なクロスがファーサイドに到達し、長い距離を走り込んだ後藤優介が鮮やかなヘディングシュートを叩き込んだのだ。

 まさに、電光石火の一撃である。呆然とする浦和の選手たちを尻目に、大分サポーターの目の前で白いユニフォームの歓喜の輪が生まれた――。

 今季J1に昇格した大分の躍進は、シーズン終盤になってもなお続いている。開幕戦で鹿島アントラーズを撃破するサプライズを生み出すと、その後も勝ち点を積み重ね、上位争いを演じている。夏場以降にやや失速したものの、この試合を迎える前は8位につけ、10位の浦和よりも上に立っていた。浦和の低迷も想定外とはいえ、開幕前にこの状況を予想できたのは、おそらく大分ファンをのぞけば皆無だったに違いない。

 躍進を牽引するのは、片野坂知宏監督。2016年に当時J3だった大分の監督に就任すると、いきなり優勝を果たしてJ2昇格を成し遂げる。J2での1年目は9位に終わったものの、昨季は2位と結果を出し、就任からわずか2年で”2段階昇進”を実現したのだ。

 片野坂監督が求めるのは、最終ラインからボールをつなぐポゼッションスタイルだ。プレッシャーから逃げることなく、しっかりとボールをつないで相手の隙を探っていく。そしてスペースを見出すや否や、一気に攻撃を加速させ、サイドチェンジやロングフィードでその隙を突いていく。サンフレッチェ広島時代にコーチとして師事したミハイロ・ペトロヴィッチ監督の影響を感じさせるサッカーである。

 もっとも、チームや選手が異なる以上、戦術的にも戦略的にも「片野坂流」はしっかりと主張されている。なかでもオリジナリティあふれるのは、その立ち振る舞いである。

 試合中、大分のベンチ前では、常に動き回る監督の姿を見ることができる。「ここに出せ」「ここを埋めろ」とばかりに、テクニカルエリアを右往左往しながら、大きなジェスチャーで選手に訴える。まるで自らがピッチ上で戦っているかのようである。そのキレのある動きはサイドバックとして活躍した現役時代を彷彿させるもので、この日も決勝点が決まった瞬間、真っ先に後藤のもとに走り込んだのは、他でもない片野坂監督だった。

「ブレない監督ですね」

 そう話すのは守護神の高木だ。

「本当にこだわり抜いてやっていると思います。だから、僕たちも監督のやりたいことを理解できるし、求められることをしっかりやれる選手しかいないと思います」

 確固たるスタイルを持っているからこそ、選手たちは疑うことなく、信じてついていく。夏場以降に勝てなくなった時期でも、これまでのやり方を貫き通すことで、復調の道を探った。

「これまでに積み上げてきたものが、しっかりと自分たちのものになっている。結果が出ない時期にも大きく変える必要はないし、やっていることが悪いわけじゃないと思っていた。監督がブレないので、選手もブレないんです」(高木)

 浦和戦でも、前半こそ主導権を握る戦いを実現できていたが、後半に入ると前からのプレスを強めてきた浦和に対しボール保持がままならず、押し込まれる時間帯が続いた。それでも大分は、やり方を変えようとはしなかった。はたから見ていると、他のやり方――たとえばロングボールを蹴り込む手段――もあってもいいのではと感じていたが、愚直にやり続けることで、劇的なフィナーレを生み出したのだ。

 ずば抜けた選手がいるわけではない。開幕からゴールを量産した藤本憲明はシーズン途中にヴィッセル神戸に引き抜かれた。得点源のオナイウ阿道は浦和からのレンタル中なため、この試合には出場できなかった。それでも、代わってピッチに立った選手たちが遜色ないプレーを見せて勝利に貢献できるのは、片野坂監督が植えつけた確固たるスタイルがあるからにほかならない。

「内容的にも勝ち点1で終わるか、やられてしまうような展開だったが、選手たちが最後まで粘り強く戦ってくれたご褒美をいただけたのではないかと思います」

 ピッチの脇で叫びすぎたのだろう。枯らした声で、片野坂監督は劇的な試合を謙虚に振り返った。

 ブレずにやり続けることこそが、このチームの強みである。今季も残り5試合、信じた道を突き進む大分の旋風は、まだ止みそうもない。

著者:原山裕平●取材・文 text by Harayama Yuhei


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