リーガ・エスパニョーラをヘタフェが席巻している。第23節終了現在で3位。首位レアル・マドリード、2位バルセロナに食らいつき、アトレティコ・マドリード(4位)を見下ろす。称賛すべき快挙と言えるだろう。

 直近の第23節バレンシア戦では、息を呑む強さを見せた。本拠地の声援を受けたヘタフェは、局地戦の強度で完全に勝って、カウンターでは鋭く敵陣に殺到。その精強さで試合を牛耳って、ボールを渡さない。58分に先制点を奪った時間も、彼らがパスを回していた。ホルヘ・モリーナがくさびで受け、ハイメ・マタが裏に走ってシュート。GKがはじいたボールをモリーナが押し込んだ。


前節バレンシア戦では2得点したホルヘ・モリ―ナ(ヘタフェ)

“蒼いグラディエーター”と言われる選手たちは、雄壮だった。2点目を奪った後、ラフプレーに逃げた相手を退場で10人にし、ダメ押しの3点目を決め、凱歌をあげた。

 ヘタフェは首都マドリード郊外のクラブだが、規模は小さく、本拠地アルフォンソ・ペレスの収容人数も1万7000人と多くはない。必然的に、その戦力は限られている。(クラブの収入に応じてリーガ・エスパニョーラが使用可能額の限度を設定する)サラリーキャップは昨年から飛躍的に上がったが、それでも5800万ユーロ(約69億円)。これはリーガ12番目で、1位バルセロナの6億7100万ユーロ(約800億円)と比べると、10分の1以下という数字である。

 なぜ、ヘタフェは強さを誇っているのか?

 2000年代前半まで、ヘタフェは2部を主戦場にしていた。2003−04シーズンに1部昇格を果たしたものの、目標は常に残留だった。そして2015−16シーズン、とうとうフアン・エスナイデル監督のもとで2部に転落した。

 しかし、これを境に彼らは生まれ変わる。

 2016−17シーズン、エスナイデルに代わって(第8節から)指揮をとったホセ・ボルダラス監督が、チームを急旋回。手堅い守備を植え付け、カウンターを組み入れ、一気にチームを好転させた。しぶとくプレーオフを勝ち抜き、1部に復帰。そして2017−18シーズンは8位、2018−19シーズンは5位と、確実に順位を上げてきた。

 今シーズンの台頭もフロックではない。ヨーロッパリーグでも決勝トーナメントに勝ち上がっている。

 ヘタフェを劇的に変えたのは、ボルダラス監督だ。

「ボルダラスは時代の先を行っている。サッカーはテクニックと戦術だが、まずはフィジカルとメンタル。その後者において、彼は最高の指導者。別のチームに変えることができる」(ヘタフェのフィジカルコーチ、ハビエル・ビダル)

 ヘタフェを率いて4年目のボルダラスは、戦いの強度を徹底的に上げてきた。たとえば、(欧州カップ戦などがない週の)水曜日には3時間の猛特訓。走る量も多く、通常練習や週2回の試合をこなしながら、毎週40km近くを走るのがノルマだ。

 猛練習によって、ヘタフェのスタイルができた。選手は目を血走らせ、球際を戦う。なりふり構わずに守り、相手の裏に蹴って、ボールを追う。敵が怯んだら、ゴール前に殺到し、ねじ込む。

「戦闘力」

 それがヘタフェの代名詞になった。

 一方、ファウルが多いチームと言われ、批判も浴びた。当初は縦にボールを蹴り込むのが基本で、ポゼッションも否定したことにより、「アンチ・フットボール」とやり玉にあげられた。

 しかし、今や多くのクラブがヘタフェの戦い方から学んでいる。

 トレーニングの練度の高さは、賞賛の的。「ヘタフェの選手は練習中も歩かない」と言われるが、それほど練習での集中力が高い。そのディテールが、試合で出ているのだ。

 ボルダラスは選手起用も抜きん出ている。たとえば、FWはモリーナ、マタ、アンヘル・ロドリゲスの3人を見事に使い分けている。モリーナ、マタは献身的な動きで、守備で貢献し、ポストで体を張り、裏抜けを繰り返すことができる。一方、アンヘルは抜群の技術で、けた違いの決定力を見せる。リーガでの9得点中、7点が途中出場から。ベンチにジョーカーを隠しているようなものだ。

 選手のスカウティングにも、ボルダラスは違いを見せる。バルサでトップ昇格の道が閉ざされたマルク・ククレジャを、左サイドアタッカーとして開花させた。ほかにもMFのマウロ・アランバリ、ネマンヤ・マクシモビッチのように、以前は不遇をかこっていた選手が多い。

「ボルダラスは選手の才能を魔法のように引き出せる」

 ヘタフェのアンヘル・トーレス会長は賛辞を贈る。

 ボルダラスは苦労人である。現役時代は下部リーグを渡り歩いた挙句、ひざのケガで20代の終わりにスパイクを脱いでいる。29歳で監督としてのキャリアを県リーグ(6部)のクラブからスタートしたが、順風満帆ではなかった。監督生活25年、下部リーグで10チーム以上を指揮し、実績を積んできたのだ。

「人生は簡単ではない。しかし、努力を重ねることで得られることを私は学んできた。努力だけは取り引きできない」

 ボルダラスは言うが、その硬骨さがヘタフェの戦い方に伝播している。

 2月15日の第24節。ヘタフェは10倍以上の資金力=戦力を誇るバルセロナと、敵地カンプノウで相まみえる。

著者:小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki