バルセロナの不安定な魅力3

 スペイン、ブラジル、ドイツ、フランス、ポルトガル、オランダ、クロアチア、チリ、アルゼンチン、ウルグアイ、デンマーク……。現在、バルセロナはこれだけの国の代表選手を抱えており、多国籍軍と言える。外国人選手がどのようにバルサのスタイルに適応し、プレーを革新させられるか――。そこにクラブの命運はかかっている。

 なかでもオランダの選手はバルサと相性がいいと言われる。今シーズンも、アヤックスからオランダ代表MFフレンキー・デ・ヨングが7500万ユーロ(約90億円)の移籍金で入団。そもそもヨハン・クライフがアヤックスのモデルを持ち込んでいるだけに、親和性が高い。

 しかし、”オランダ化”したバルサは愛されなかった。


バルセロナに移籍したデ・ブール兄弟とルイス・ファン・ハール監督

 1997年から2000年にかけて、オランダ人監督ルイス・ファン・ハールは3シーズンにわたってバルサを率い、リーガ・エスパニョーラ2連覇を果たしている。クライフに引けを取らない成績だろう。しかし、ファン・ハールは最後まで”嫌われ者”だった。

 ファン・ハールはバルサに、アヤックスで欧州王者になった時のオランダ人選手たちをごっそり連れてきた。パトリック・クライファート、フィリップ・コクー、フランク・デ・ブール、ロナルト・デ・ブール、ミハエル・ライツィハー、ボウデヴィン・ゼンデン、ウィンストン・ボハルデ……。さらにアヤックスからはフィンランド代表ヤリ・リトマネンまで呼び寄せている。

 バルサを愛する人々は、眉をひそめた。

 強さも、スペクタクルも、このクラブでは正義にならない。カタルーニャ人の誇りを満たす必要がある。それによってカンプノウで熱狂に包まれ、想像を超えたエネルギーが生まれるのだ。

 しかし、ファン・ハールはその感情を無視した。”オランダ人が正しく、バルサは従え”。驕った態度を隠さなかった。悪意はなくとも、人を見下すところがあったのだ。

 カタルーニャ人は、悪夢のようなフランコ独裁政権を経験している。傲岸不遜に振る舞うリーダーを生理的に毛嫌いする性質を持つ。ファン・ハールは格好の標的だった。

 一方でファン・ハールは、シャビ・エルナンデス、カルレス・プジョル、ガブリなど、ラ・マシアの若手を次々に登用している。とりわけプジョルはカンプノウで衝撃を与えた。2000年のクラシコで、レアル・マドリードに移籍して”裏切り者”として戻ってきたルイス・フィーゴを完全なマンマークで封じ込めたのだ。

 オランダ人指揮官には、選手の能力を見抜く力があった。戦術論を戦わせたら、誰もかなわない。選手を適材適所で起用することもできた。最後のシーズンは無冠だったものの、チャンピオンズリーグは準決勝進出、リーガは2位。若手を使いながら、相応の成果は挙げていたのだ。

 ただ、ファン・ハールの論理的思考は、カタルーニャ人の感情には受け入れられなかった。

 結局、指揮官が去ると、バルサは多くのオランダ人選手を持て余した。彼らがひとり、ふたりと去り、チームは改編を迫られる。しかし3年間、オランダ化を進めたことで、転換には時間がかかった。

 クラブはオランダ色を薄めるように、ほかの国の選手たちを獲得している。アルゼンチンからハビエル・サビオラ、ブラジルからファビオ・ロッケンバック、ジェオヴァンニを次々に補強したが、チームに適応させられなかった。ロッケンバックなどは無理に打つロングシュートが代名詞となり、サッカーをする子供が的外れなシュートを打つと、「ロッケンバック!」と揶揄されたものだ。

 2000−01シーズンはロレンソ・セラ・フェレールが指揮するが、4位。2001−02シーズンも、カタルーニャ人監督のカルレス・レシャックが率いたが、やはり4位と低迷した。”バルサの暗黒時代”だ。ファン・ハールはその戦犯と言われる。

 にもかかわらず、2002−03シーズン、ファン・ハールは再度招聘されている。軋轢のあったブラジル代表のリバウドを追い出し、アルゼンチン代表のフアン・ロマン・リケルメを獲得した。しかし自分のシステムに選手を当てはめることに固執し、ファンタジスタとは折り合いをつけることができなかった。カンプノウでの成績は極端に悪く、2003年1月にセルタに敗れて13位になると、解任された(シーズン最終順位は6位)。

「このままでは、バルサが2部に降格するのでは?」という声も聞かれるようになった。

 しかし、ラ・マシアからトップチームに入ったシャビ、プジョルが着実に経験を積んでいた。さらに、GKビクトル・バルデス、DFオレゲル・プレサス、そしてMFアンドレス・イニエスタなどが台頭。図らずも、弱体化したことによって若手にチャンスが巡っていたのだ。

 そして2003−04シーズン、オランダ人監督フランク・ライカールトが着任。クライフが蒔いた種が芽吹き、大収穫を迎えることになる。
(つづく)

著者:小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki