東京五輪まで、残り4カ月あまり——。正式種目となったリオデジャネイロ五輪で4位に入賞した「セブンズ」こと7人制ラグビー男子日本代表は現在、30名ほどの代表候補が最終メンバー12名の枠を争っている。


東京オリンピック出場を目指す松井千士(左)と藤田慶和(右)

 その代表候補のなかで中軸としてチームを引っ張っているのは、4年前のリオ五輪時は観客席から試合を見つめ、悔しい思いをしたふたりだ。

 26歳の藤田慶和(パナソニック ワイルドナイツ)と、25歳の松井千士(ちひと/サントリーサンゴリアス)。今シーズン、ともにトップリーグには出場することなく、セブンズに専念している。

 東京五輪に向けて、ふたりはこう意気込む。

「刻一刻と近づいているが、ひとつひとつ目の前のことをクリアして、階段を登るイメージでオリンピックまで突き進んでいきたい」(藤田)

「目標はメダルを獲ることです。セブンズでラグビーを盛り上げられるようにがんばりたい」(松井)

 ふたりはともに「快足ランナー」として、高校時代からスタジアムを沸かせてきた。イケメンとしても知られ、ラグビーファンにはすっかりお馴染みの選手である。


 藤田は東福岡時代、花園3連覇に貢献した「怪物」だった。高校3年生で7人制日本代表デビューを果たし、18歳の早稲田大1年時にエディー・ジャパンにも選出。現在でも15人制ラグビーの最年少キャップ記録保持者である。

 一方、松井も常翔学園時代に花園を制している高校のスター選手。同志社大3年時の4月には、20歳で15人制ラグビー日本代表として初キャップを得ている。

 攻撃的なランが武器のふたりはリオ五輪時、セブンズ日本代表候補として最終メンバーの座を争った。しかし、寸前のところで12人に入れず、バックアップメンバーとして帯同することになる。結局、最終メンバーにケガ人は出ることなく、ふたりがリオのピッチで自慢のランを見せることはなかった。

 当時のことを、ふたりはこう振り返る。

「あと一歩のところまで行ったにもかかわらず、お客さんと一緒の立場で試合を観ることになって悔しかった。鮮明に覚えています。大学生の時は、勝てなかったり、自信がなかったり、メンタルが追いついてなかった。メディアにもたくさん取り上げてもらい、浮き足立っているところもあった」(松井)


「悔しさは今も、心の中にあります。オリンピックは観に行くものではない。出場してメダルを獲らないと意味がない。(チームが)4位になっても、100%、心の底から応援できなかった。先ばっかり見て失敗した自分がいました」(藤田)

 リオ五輪が終わったあと、ふたりは再び15人制ラグビーに専念した。しかし、藤田はパナソニックやサンウルブズ、そしてジェイミー・ジャパンでもプレーしたものの、福岡堅樹(パナソニック)やレメキ ロマノ ラヴァ(ホンダヒート)、松島幸太朗(サントリー)らとのポジション争いに勝つことはできなかった。

 松井は同志社大を卒業したあと、強豪サントリーに入団。1年目から活躍したが、シーズン途中で大ケガを負い、2年目も肉離れを繰り返すなど、なかなか思うように結果を残すことができなかった。

 それでも、男子セブンズ日本代表を率いる岩渕健輔HC(ヘッドコーチ)は、ふたりの能力を高く買っていた。オリンピックまで残り1年となった昨シーズン終盤、世界を転戦する「ワールドシリーズ」にふたりを招集した。


 藤田は「昨年の2月頃は最初、走れなくて使い物にならなかった」と言うが、体重を3kgほど落として90kgほどに絞り込み、セブンズでの豊富な経験を生かしてゲームコントローラーとして活躍した。「目標としていたワールドカップに出場できなかったことは残念でしたが、オリンピックにチャレンジする機会をいただき、岩渕HCには感謝しています」。今は笑顔でそう語る。

 昨年度、最後の2大会でエース級の活躍を見せた松井は言う。

「僕は15人制ラグビーの代表を目指していたわけではないが、岩渕HCが期待してくれているし、チームとして求められていることがあったので、セブンズを真摯にやりたいと思った」

 迎えた今シーズン、男子セブンズ日本代表は「ワールドシリーズ」のコアチーム(優先的に前大会に出場できる15チーム)から降格してしまった。

 それでも、再昇格に向けて南米で行なわれた2大会では、見事に総合優勝を果たした。優勝したウルグアイ大会決勝での延長戦、キャプテンの松井は勝負を決めるトライを挙げ、一方の藤田は見事に大会MVPに輝いた。


「大学時代より足が速くなったわけではないが、フィジカルを鍛えたことで世界と戦える自信がつき、自分のスピードを100%出せるようになった」(松井)

 世界のトップレベルの選手は、瞬間最高時速40kmくらいのスピードで走るという。松井も時速37kmほど記録しているが、プロの陸上の専門家のもとでさらなるスピードアップを図っている。

 下部チームの中では優勝できても、招待されたワールドシリーズ5大会ではすべて16チーム中14位以下と、いまだ結果を残せていない。メンバーの多くを国際大会に出場させて機会を与えているとはいえ、このままでは東京五輪でのメダル獲得は難しいのが現状だ。

 ただ、セブンズは番狂わせが多く、何が起きるかわからないのも大きな魅力である。昨年11月のオセアニアセブンズでは、ワールドシリーズ首位のニュージーランド代表や実力国のサモア代表にも勝利して3位入賞を果たした。リオ五輪でも周囲の予想を覆して4位に輝いている。


 果たして東京五輪で、ふたりはどんなプレーを見せてくれるのか。

「日本代表の武器はアタックだと思うので、どれだけキックオフでボールを確保するかが勝利につながってくる。もっと精度を上げて、オリンピックまでに仕上げたい。(個人としては)ゲームメイクしていきたいし、自分の強みであるランを見せたいですね」(藤田)

「4年前からメンタルは成長したと思っています。チームとしては世界との差はまだまだあるが、そこまで差があるとは思っていない。アタックを修正すれば通用する。東京オリンピックでセブンズのジャージーの価値を高めたい」(松井)

 4年前、スタンドから試合を観ていたふたりが、今度は東京スタジアムのピッチに立ち、再びラグビーで日本中を盛り上げる。

著者:斉藤健仁●取材・文・撮影 text & photo by Saito Kenji