6月開催予定のW杯は、玉井にとって初の世界との戦いとなる


 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、4月21日から東京アクアティクスセンターで開催が予定されていた、FINA飛込ワールドカップ2020が延期になった。6月に開催される見込みだが、当初からこの大会は大きな関心を集めていた。
 
 それは高飛込の玉井陸斗(JSS宝塚)に、日本男子史上最年少での五輪出場が、かかっていた大会だったからだ。ちなみに現在の最年少記録は、1932年ロサンゼルス五輪競泳の北村久寿雄の14歳10カ月。東京五輪が通常どおり今夏に開催されていれば、玉井は13歳10カ月で大会を迎えていたはずだ。それでも現中学1年として五輪の最終選考に残ったのは快挙と言えるだろう。

 玉井は小学1年で飛込を始め、昨年4月の日本室内選手権では12歳7カ月ながら474.25点で史上最年少優勝を果たした。同年8月の世界選手権は年齢制限のため出場できなかったが、9月の日本選手権では世界選手権4位相当の498.50点を出して優勝。今年2月の国際大会派遣選手選考会でも458.05点で優勝し、ワールドカップ出場権を獲得した。

 そんな玉井の可能性を、女子高飛込で2008年北京五輪と12年ロンドン五輪に出場した中川真依さんが語ってくれた。



「W杯を大きな糧にしてほしい」と中川さんは玉井に期待を寄せる


「日本飛込界にとって、玉井君の登場はかなり大きいと思います。彼を指導する馬淵崇英コーチの指導力によるところも大きいですが、本人の意識もかなり高い。13歳であのアスリート思考は、考えられません。尊敬してしまうくらいすごいものを持っています。

 持って生まれた才能もありますが、努力ができる才能もある。いい結果を出してもうぬぼれることなく、世界の壁はもっともっと厚いという意識でやっている。もてはやされてしまうと気持ち的に舞いあがる部分も出てきますが、それが全然ないのはほかの選手たちと比べると次元が違う感じです。

 身長はまだ147㎝と低いんですが、技術的にも身体能力的にも高く、ダイナミックな演技ができています。プラットホームから跳びあがる高さ、回転力の速さがあって見栄えがします。

 これまでの審判の評価の傾向は、入水時の水切れがすごく重要視されていましたが、全体のレベルが上がったために、それだけでは点数差がつかなくなってきました。つまり、水切れだけではダメで、本当にトータルで能力のある選手が残っていく。空中の演技や姿勢もしっかり見られるようになっていて、そこがいい選手はこれから強くなっていくと思います。

 その点、玉井君は優れた資質を持った選手です。たとえば、中国選手の強さの秘けつは、ナショナルチームでしっかり鍛える練習量の豊富さだと言われていますが、玉井君の場合はそれを自主的にできていると思いますし、あそこまで難易度を上げられるのは本当に才能がないとできないことです。


 ただ、これから成長期に入っていく時に、どこまで自分をコントロールできるか、また、それに伴った筋力を強化できるかで変わってくると思います。そのあたりについては、馬淵コーチが指導しているので大丈夫かと思いますが、あとはケガにも注意しなくてはいけないです。高さ10mのプラットホームから飛び込む高飛込は、入水時の衝撃が大きく絶対にケガをしないということはありえません。そのリスクをどこまで抑えられるか、万が一ケガをしてもうまく付き合っていけるかが、今後、彼にとって重要になると思います。

 現時点での彼のベストは498点台ですが、昨年の世界選手権では3位が541.05点だったように500点を大きく超えなければ、世界大会での表彰台は無理です。彼はまだ不安定な部分もあるので、まだまだこれからです。

 2月の派遣選手選考会では、レベルを落とした207C(後宙返り3回半抱え型)で失敗していましたが、ワールドカップでは昨年の日本選手権でやっていた207B(後宙返り3回半エビ型)に変えてくるのか、207Cのままで完成度を上げてくるのかはわかりませんが、世界で戦うためには難易率が0.3点高い207Bにするしかないと思います。

 選考会での207Cの失敗は回りすぎでした。元々彼の場合は後ろ入水(※1)の種目を少し苦手にしている面があり、抱え型(※2)の場合は入水に備えて体を伸ばす位置がたくさんあるので、それが失敗につながったのかなとも思います。そこがうまくコントロールできればいいですが、エビ型(※3)にしたほうが安定するのではないかなとも思います。
※1 後宙返りで、背中をプール側に向けた状態で入水すること/※2 ヒザを曲げて両手で抱える形/※3 ヒザを伸ばして上体を前に倒す形


 今の彼にとっては経験を積むことが一番大事。今後の大会で、東京五輪出場を果たすことが最もうれしいことですが、彼にとって初の世界との戦いになるワールドカップを、大きな糧にしてもらいたいと思います」

 元オリンピアンである中川さんは終始、少年とも言える13歳の選手を一人のアスリートと捉え、その才能を高く評価していた。日本飛込界の宝である玉井陸斗が、6月開催予定のワールドカップ、そしてその先にある東京五輪に向けてどんな成長曲線を描いていくのか、今から楽しみだ。

Profile
玉井陸斗
たまい・りくと 2006年9月11日生まれ、兵庫県出身。6歳より飛込を始め、中学生になった19年4月の日本室内選手権に初出場。高飛込474.25点で2位に大差をつけ、史上最年少(12歳7カ月)で優勝した。同年9月の日本選手権にも出場し、こちらも史上最年少(13歳0カ月)で優勝を果たした

中川真依
なかがわ・まい 1987年生まれ、石川県出身。小学1年より飛込を始め、中学3年で世界ジュニア選手権に出場。高校2年から日本選手権で連覇を達成する。08年北京五輪、12年ロンドン五輪出場を果たす。16年に現役を引退した

著者:折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi