東京五輪&パラリンピック
注目アスリート「覚醒の時」
第1回 ラグビー・福岡堅樹
2トライを挙げた日本代表vsスコットランド代表戦(2013年)

 アスリートの「覚醒の時」——。

 それはアスリート本人でも明確には認識できないものかもしれない。

 ただ、その選手に注目し、取材してきた者だからこそ「この時、持っている才能が大きく花開いた」と言える試合や場面に遭遇することがある。

 東京五輪での活躍が期待されるアスリートたちにとって、そのタイミングは果たしていつだったのか……。筆者が思う「その時」を紹介していく——。


2013年に初めてスコットランド代表と対戦した時の福岡堅樹

 2019年ラグビーワールドカップのスコットランド代表戦で2トライを挙げて勝利に大きく貢献し、日本ラグビーの歴史を変えた「韋駄天」福岡堅樹(パナソニック ワイルドナイツ)。現在は7人制ラグビーに再挑戦し、夢の東京五輪出場を目指している。

 彼を一躍スターダムにのし上げ、「ケンキ・フクオカ」の名前を世界に轟かせたのは、2013年11月9日のテストマッチだった。対戦相手はスコットランド代表。場所はラグビーの聖地のひとつ「マレーフィールド・スタジアム」。2004年に敵地で8−100の大敗を喫した伝統国との、久しぶりの対戦だった。


 日本代表を率いるエディー・ジョーンズHC(ヘッドコーチ/現イングランド代表指揮官)が”若き韋駄天”の存在に目を止めたのは、福岡が筑波大1年の時。大学選手権で筑波大を初の準優勝に導いたことも注目度を高め、2013年4月に初めて日本代表メンバーに選出された。

 同年11月に行なわれたスコットランド代表戦は、福岡にとってまだテストマッチ9試合目。海外で「ティア1」と呼ばれる世界的強豪との対戦は初めてだった。

 WTB(ウィング)のポジションを任された福岡は、11番をつけて先発。FB(フルバック)五郎丸歩、SH(スクラムハーフ)田中史朗、HO(フッカー)堀江翔太、LO(ロック)トンプソン ルーク……。錚々たるメンバーのなか、大学2年生の21歳・福岡は最年少だった。

 当時、福岡はスピードやポテンシャルこそあるものの、代表レベルのパフォーマンスを常に発揮できているとは言い難かった。だが、スコットランド代表戦の前週にニュージーランド代表と東京・秩父宮ラグビー場で初対戦し、オールブラックスのレジェンドFL(フランカー)リッチー・マコウらと肌を合わせたことで、それなりの自信を得ていた。


 ニュージーランド代表戦後、日本代表はすぐにヨーロッパに移動。スコットランドの地で3万2000人を超えるアウェーの大観衆の中、福岡はピッチに立った。

「相手が強敵のほうが燃えますし、メンタルも落ち着いていた」

 福岡は試合に集中していた。

 開始序盤、ボール持ったら積極的に仕掛ける福岡は、明らかに調子がよかった。前半、トライこそなかったが、得意のランで積極的に突破を試みる。直前まで雨が降っていた重馬場の芝生のグラウンドでも、低い姿勢から一気にスピードを爆発させる独特の走りは、スコットランド代表にも通じていた。

 日本代表は前半、身体を張ったディフェンスでスコットランド代表の攻撃をしのぎ、どうにか3−11の8点差で折り返す。

 先にトライを取れば……。そう思っていた後半2分、相手の反則から田中がクイックタップで仕掛け、主将WTB廣瀬俊朗が大きくゲインする。さらに素早く左に展開すると、ボールは五郎丸から福岡へ。最後は福岡が相手WTBを振り切り、インゴールに走り込んで10−11の1点差に迫った。


 その後、相手にトライを献上して10−18となる。だが、後半11分、再び若き韋駄天が大仕事をやってのけた。

 敵陣22メートルライン付近で、日本代表FWが相手ボールのスクラムを押し込んでターンオーバー。そのボールを左に展開し、五郎丸がビッグゲインでゴール前に迫ると、最後はボールを拾い上げた福岡がふたつ目のトライ。17−18と再び1点差とし、アウェーの観衆を驚嘆させた。

 試合は終盤にスコットランド代表が猛攻をみせて、日本代表は17−42で敗れた。それでも、スコットランドの地で最も輝いたのが、21歳の大学生であることは間違いなかった。

 そして、福岡とスコットランド代表との縁も、この試合で終わることはなかった。

 大学4年で出場した2015年ワールドカップ。のちに「世紀の番狂わせ」と呼ばれる予選プール初戦の南アフリカ代表戦はメンバー外だったものの、2戦目のスコットランド代表で福岡は「切り札」として先発起用された。


「(南アフリカ代表戦では)23人に入れなかった。その(悔しい)思いをぶつけたい」

 福岡は闘志を秘めて、自身初となるワールドカップの試合に臨んだ。

 しかし、南アフリカ代表戦から中3日ということもあり、日本代表の調子は上がらず。福岡自身もトライを挙げることができず、10−45で大敗を喫した。

 残りの2試合、福岡は再びベンチ外へ。福岡にとって初めてのワールドカップは、スコットランド代表戦のみの出場に終わった。不完全燃焼だった。

 そして迎えた2019年ワールドカップ。日本代表はまたも、スコットランド代表と同じ組となった。

 10月13日、福岡にとって3度目の対戦となった場所は神奈川・横浜国際総合競技場。予選プールの最終戦で相まみえることとなった。しかも、日本代表はスコットランド代表に勝利すれば初のベスト8進出という、まさに大一番。

 6年前は10分間で2トライ。4年前はノートライ。果たして3度目の対戦では、前半40分と後半3分にトライをゲットして再び爆発。福岡の圧倒的なスピードが、日本代表初の決勝トーナメント進出に大きく寄与した。


 ワールドカップでベスト8を決めた直後、福岡はこう語った。

「この時のためにラグビーを続けてきました。『やり切った』と笑顔が出るようなプレーをしたいと思っていました。(スコットランド代表戦は)本当に出し切った。そして、本当に歴史を変えられた!」

 福岡にとって、3度目のスコットランド代表戦は15人制ラグビーの集大成であり、日本代表になって8年にわたる思いが詰まった試合だった。

著者:斉藤健仁●取材・文・撮影 text & photo by Saito Kenji