新型コロナウイルスの感染拡大で開幕が大幅に遅れているメジャーリーグですが、米メディアでは「6月10日からキャンプを再開する」との情報が広がっています。また、レギュラーシーズンはフロリダ州やアリゾナ州のキャンプ地ではなく、各球団の本拠地で開催を検討しているとも報じられています。


今年でヤンキースとの大型契約が満了する田中将大

 無事に開幕することができれば、ニューヨーク・ヤンキースにとっては大事なシーズンとなります。今オフ、ヤンキースはヒューストン・アストロズから「現在ナンバー1投手」の呼び声高いゲリット・コールを獲得。2009年以来の世界一となる絶好のチャンスが到来しています。

 大事なシーズンなのは、先発2番手として期待される田中将大投手にも言えることでしょう。今シーズンでヤンキースとの7年総額1億5500万ドル(約170億円)の契約が満了。今年は来年以降の契約に大きな影響を及ぼすシーズンとなるからです。

 日本人メジャーリーガーとして初の6年連続ふたケタ勝利を挙げている田中投手ですが、悲願の世界一を達成するための「成功のカギ」はふたつあると思います。それは「被本塁打の減少」と「伝家の宝刀スプリットの使い方」です。


 2014年にヤンキースに移籍して以来、田中投手は一発を浴びることが多く、2017年はア・リーグで3番目に多い35本のホームランを喫しました。また、昨年は自身2番目に多い95失点を記録し、そのうち47失点がホームランによるものです。

 不振に陥った原因のひとつは、昨年メジャーで取り沙汰された「飛ぶボール疑惑」も関係しているでしょう。

 2019年のメジャーリーグは、前年より21%も多い6776本塁打を記録しました。この数字はMLB史上、最も多いホームラン数です。

 公式球の変化について、メジャーリーグ機構は一貫して否定しています。しかし、前年に比べてボールの縫い目が低くなり、その結果、空気抵抗が減って飛びやすくなったという声は、メディアだけでなく多くの選手からも挙がっています。

 ボールの変化は、田中投手の最大の武器であるスプリットにも悪影響を及ぼしました。スプリットは東北楽天ゴールデンイーグルス時代からの決め球です。ところが昨年、スプリットによる奪三振率はわずか13.6%。ヤンキース1年目の44.6%と比べると、数値を大きく落としています。


 この大幅な下落について、昨年までヤンキースの投手コーチを務めたラリー・ロスチャイルドは「ボールの縫い目に原因があった」と発言していました。ボールの縫い目が低くなって空気抵抗が弱まった結果、スプリットの落差も小さくなったとのことです。

 昨年の7月25日、ボストン・レッドソックス戦で自己最多の12失点を喫したあと、田中投手はロスチャイルド投手コーチの勧めでボールの握り方を変えました。米メディア『ジ・アスレチック』の記事によると、「ボールの縫い目に沿う指の握りから、クロスする握り方に変えた」とのこと。

 すると、ボールの握り方を変えたことで、バッターに対してスプリットが効果的になりました。結果、スプリットを投げる割合をシーズン前半の24%から31%へと増やすと、シーズン後半は被打率.279→.234、被長打率.469→.330と著しく改善されたのです。

 さらにスプリットの球速も、昨シーズン前半の平均89.3マイル(約144キロ)から後半87.9マイル(約141キロ)へと、ほぼ理想に近いスピードに戻りました。また、ボールの回転数も1580回転から1601回転に上がりました。


 握り方を変えたことでの好影響は、防御率にも表れています。昨年7月25日までの10先発で防御率7.20だったのが、8月から9月にかけての10先発では防御率3.79。また、打球のゴロ率は50%近くに跳ね上がり、7月下旬から9月上旬までホームランは1本も打たれませんでした。

 プレーオフでは3試合に先発し、ミネソタ・ツインズとアストロズの強力打線に対して2勝1敗、防御率2.25をマーク。16イニングを投げて8安打5失点、わずか1本塁打で、被打率.148、被長打率.204というすばらしい成績を残しました。

 今シーズン、田中投手はオープン戦3試合に先発。新型コロナウイルス感染拡大によって3月13日にキャンプ打ち切りとなりましたが、8イニング3分の2を投げてわずか3安打、11奪三振と申し分ない結果でした。

 一番の収穫は、ボールの違いにあったようです。オープン戦では「完璧にいい感じ」と語っていました。ただし、「昨年も春の時点ではボールがいい感じだったのに、シーズンに入ったら感触が変わった。だから、今年も開幕しないとわからない」と油断できない様子です。


 そのためか、キャンプではカットボールの習得に取り組んでいました。キャンプで臨時コーチを務めた往年の大投手アンディ・ペティットから、彼の決め球であるカットボールの投げ方を学んだようです。

 オープン戦で投げたカットボールに、田中投手も手応えを感じたようでした。シーズンに入ってもボールの感触が変わらなければ、従来どおりスプリットを多用するでしょうし、感触が変わるような事態となったら、カットボールでピッチングを補うのだと思います。

 今シーズンはいかにして”伝家の宝刀”スプリットを生かし、被本塁打数を減らしていくのかが課題となるでしょう。まだ先の見えない状況は続きますが、シーズン開幕が待ち遠しいです。

著者:福島良一●解説 analysis by Fukushima Yoshikazu