新型コロナウイルス感染拡大による世界的なロックダウンや外出自粛によって、eスポーツと呼ばれる競技が脚光を浴びている。


本物と遜色ないほど美しい『F1 2019』のゲーム映像

 F1もご多分に漏れず、3月13日に開幕戦となるはずだったオーストラリアGPの中止が決まった1週間後、公式の『バーチャルGP』を開設。第2戦バーレーンGPが行なわれるはずだった時刻には、公式ゲーム『F1 2019』を使用してバーチャルのバーレーンGPを開催してみせた。

 回を追うごとに参加する現役F1ドライバーも増え、盛り上がりを見せている。シャルル・ルクレール(フェラーリ)やアレクサンダー・アルボン(レッドブル・ホンダ)ら若手のトップドライバーたちも参戦。自宅に設置したゲーム装備一式をオンラインでつなぎ、激しいバトルを繰り広げた。

 まず一見してわかるのは、グラフィックの美しさだ。本物の中継映像と遜色ないほどにマシンやサーキットが再現され、小さな画面で見ればそれとは気づかない。


 また、マシンの挙動もゲームっぽさはほとんどなく、外から見れば実車に近い動きをしているように見える。カメラワークも多岐にわたっていて、中継映像のようだ。

 ただし、最も大きな魅力は、ドライバー同士が繰り広げるバトルの質の高さだ。現役のF1ドライバーが6名ほど参加しているだけでなく、現役テストドライバー、元F1ドライバーや下位カテゴリーの若手たちも本気でしのぎを削っている。

 それも、ゲームだからと無茶な走りをするのではなく、実車と同様にお互いに敬意を持ち合って、限界ギリギリの接戦を展開。時には、実車ではリスキー過ぎて踏み込むことのできない領域まで攻め、それでも接触することなくコーナーをクリアしていく。

 ルクレールやアルボンなどは徹底的に勝利にこだわり、最後まであきらめずに全力で戦い続けていた。現実のF1とは違い、チームごとのマシン性能差がないため、より明確にドライバーたちの実力差が映し出される。


 また、タイヤの性能低下や燃料消費も実車同様に反映されており、途中でピットストップを行なって2種類のタイヤコンパウンドを履かなければならない。こちらもまさしく、実戦同様の戦略の対決が繰り広げられる。

 第3戦中国GPでアルボンは先にピットインし、新品タイヤでアンダーカットに成功。第4戦ブラジルGPでは逆にルクレールよりも4周長く引っ張ってより柔らかいミディアムタイヤを履き、そのタイヤ差を利用して勝利した。実戦さながらの戦略対決の側面もある。

 プロフェッショナルドライバーとしての技量と信念が、徹底的に、ある意味では現実のレース以上に克明に堪能することができる。それがF1公式バーチャルGPだ。

 第4戦で初優勝を挙げたアルボンは「アドレナリンで身体が震えているよ! 信じられないくらいのプレッシャーだったんだ!」と興奮した様子で喜びの声を上げた。

 F1公式バーチャルGPのみならず、フォーミュラEやインディなど国内外でこうした取組みが拡大しており、eスポーツに対する世間の注目度は格段に上がっている。


 実際、ゲーム機器やステアリングコントローラーの在庫が不足し、一部では価格高騰も見られる。筆者自身もプレイステーション4とコントローラーを購入し、『F1 2019』をはじめとしたレーシングゲームを体験している。

 ただ、ひとつ問題もある。

 正直に言えば、筆者自身もeスポーツのことは「しょせんゲームでしょ?」と軽視していた部類で、身体を動かす本来のスポーツとは一線を画すものだと考えていた。

 しかしその一方で、ゲームをプレーすることによって大会賞金や広告収入を得てマネタイズする「新たなビジネス」としては、高く評価すべきものであることもまた確かだ。プレーヤーたちはFPSや格闘ゲーム、スポーツゲームなど、あくまでゲームを巧みにプレーするプロフェッショナルとして評価される。

 だが、ことレースというジャンルのeスポーツとなると、議論の方向性が異なってくる。

 野球にせよサッカーにせよ、通常のスポーツであればアスリート自身が身体を動かすことが主体となるため、ゲームがリアルか否かが話題になることはあまりない。


 しかし、レースは「クルマという道具を使うスポーツ」であるだけに、その道具の善し悪し、つまり「リアルかリアルじゃないか」という論争が起きる。どのゲームが最もリアルなのかといった議論から、eスポーツで腕を磨いて実際のレースでキャリアを進めることができるのかといった議論にまで発展してしまいがちだ。

 しかし、これは明らかに飛躍しすぎで、いくら”シミュレーター”と標榜してリアルにプログラミングを組み上げたところで、ゲームはゲームでしかない。

 クルマの挙動をいかにリアルに物理計算したところで、自分の身体は超高速で移動はしないし、前後左右の激しいGもなければ、マシンの動きを感じ取りながらコントロールするといったこともできないからだ。そして、リスクもなければ、恐怖心もない。

 もちろん、ステアリングコントローラーによって、いくらかそのリアルさを補うことはできる。ステアリングの軸にモーターを内蔵し、それによってステアリングが重くなったり軽くなったり振動したりと、ドライバーたちが実車で感じるタイヤとステアリングからのグリップ感のフィーリングを再現するのだ。


 市販のコントローラーは、3万円程度のものから30万円程度のものまでピンキリである。だが、F1チームがファクトリーに構築するシミュレーターは数千万円から数億円をかけたもので、このステアリングの再現度に比べれば、市販品は「大衆向け」でしかないと経験ドライバーたちは言う。

 F1公式バーチャルGPでは、公式パートナーであるFANATEC社の30万円前後のコントローラー装置が使われている。ただ、ランド・ノリスなど本格的なシミュレーターを自宅に構築しているドライバーたちは、「SIMUCUBE2」という100万円前後する装置を使っている。ソフトウェアも大衆向けの『F1 2019』や『グランツーリスモ』などではなく、『rFactor2』や『iRacing』といった本格的なものを好んで使う。

 F1ドライバーのなかでも、こうした分野の先駆者と言えるノリスはこう語る。

「実際のマシンとはまったく違うからね。iRacingはもう少し実車に似ている。本格的なレーサーにはF1ゲームよりiRacingまたはrFactorを勧めるよ。


 iRacingはシミュレーションプログラムに似ているから、ステアリングを介してよりよいフィードバックが得られ、よりリアルに感じられる。ステアリングを介したフィーリングや、セットアップ変更などといった点でシミュレーターに似ているんだ。

『F1 2019』と『グランツーリスモ』は実車とは全然違うフィーリングだし、とにかくどこにでもスライドするからつまらない。だから(プロドライバーは)誰もやらないんだ」

 ゲームであるがゆえに、実車のセオリーでは考えられないようなドライビング方法で走ったほうが速いということもある。『グランツーリスモ』などではとくにその傾向が強いと言われ、プロドライバーが挑戦してもプロのeスポーツ選手には勝てなかったりする。

 バーチャルGP第2戦から加わったルクレールは、もちろんフェラーリのシミュレーターでこの手の装置には慣れ親しんでいる。だが、”大衆的”な『F1 2019』とFANATECのコントローラーに慣れるために、1日5時間、2週間にわたってとことん追求したという。


「もちろん、リアルのドライビングとまったく同じということはあり得ないし、実際にこれは異なるものだ。でも、こういう状況で僕らが体験することのできるもののなかでは、最も現実に近いものだとも言える」

 そして、普段から仲のいい同世代のアルボンやノリス、ジョージ・ラッセルたちとオンラインで交流しながらレースができることを楽しんでいる。

「こういう状況だから、普段よりサーキットで話す機会は少なくなってしまっているけど、こうして仲間たちとつながって自分たちの好きなレースが楽しめ、ファンのみんなにも楽しんでもらえるのはとてもいいことだ」

 インディカーシリーズではiRacingを使用し、現役ドライバーが多数参加。テレビ局やスポンサーも全面的に参画して普段同様の中継を行ない、レース前の国歌斉唱や「Start your engines」のアナウンスもプログラムに組み込むなど、F1以上にしっかりとエンターテイメント性の高いコンテンツとした。


 だからこそ、最終戦のフィニッシュ直前に「しょせんゲームだから」と意図的に他車にぶつけるような行為をしたごく一部のドライバーたちには、ファンの間から極めて厳しい批判の声が上がった。ファンもプロフェッショナルなレースと認め、それを期待して観戦していたからだ。

 実際にプレーするドライバーたちがリアルと感じるかどうかは、実はそれほど重要なことではない。

 プロフェッショナルなF1ドライバーたちが妙技と本気の走りを見せてくれる場所として、F1公式バーチャルGPは上質なエンターテインメントたり得ている。我々はそれを見る側として堪能し、さらには同じ機材を使って、それがいかに高度なことであるかを体験することもできる。

 実際のシーズンが始まったとしても、eスポーツによるシリーズは十分に見応えのあるエンターテインメントとして成立し続けるだけのポテンシャルを持っていると言えるだろう。

※F1バーチャルGP「第5戦スペインGP」は5月10日26時(日本時間)に開催予定。

著者:米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki