「マジョルカは地獄に近づいた」

 マジョルカの地元紙である『ディアリオ・デ・マジョルカ』は、アスレティック・ビルバオ戦に敗れた地元チームについて、現実的かつ痛烈な見出しを躍らせている。

 6月27日、リーガ・エスパニョーラ第32節。アスレティックの本拠地サン・マメスに乗り込んだマジョルカは、1−3とあえなく敗れている。コロナ禍から再開後、1分け4敗。バルセロナ、レアル・マドリードとの対戦があって分が悪かったとはいえ、言い訳はできない。


アスレティック・ビルバオ戦にフル出場した久保建英(マジョルカ)

 アスレティックはバルサ、マドリードと並んで、歴史上、一度も2部に落ちたことのないバスクの古豪である。バスク人純血主義のチームで、全員が頑健な体躯を持ち、強さ、高さ、速さ、激しさで敵を凌駕する。戦術的にも整備され、4−2−3−1で構えた時の守備の強固さは、リーグ3位の少ない失点という数字にも出ていた。

 2年前まで2部B(実質3部)にいたマジョルカは、チームとしての厚みの差を思い知らされたと言えるだろう。1点を返すのがせいぜいだった。降格圏の18位で足踏みし、1試合未消化の17位(残留圏)エイバルとの勝ち点差は6に広がった。

 ではマジョルカのエース、久保建英のプレーはどうだったのか?

「アスレティック戦、タケ・クボはまたしてもチームを牽引して見せた」

『ディアリオ・デ・マジョルカ』紙は、久保を、「ラ・カラ」というコインの表を意味するベストプレーヤーに選出している(毎試合、選んでいる。ちなみに「ラ・クルス」はコインの裏でワーストプレーヤー)。

「最後の数メートルのところでズレが出たが、タケは何度となく仕掛け、可能な限り、ディフェンスに挑んでいた。その若さにもかかわらず、ピッチの上でリーダーとして振る舞っている。前半はシャドーでプレーし、ボールを受けに中盤に落ちざるを得ず、制約があったが、後半はシステム変更で攻撃面の自由を得ていた。(得点となった)PKも久保のパスが起点だった。ドリブル、パスでスペースを突き、危険を作り出すが、チームそのもののレベルが高くなかった」

 久保はアスレティックに敢然と挑み、互角に戦っている。前半は5−4−1(3−4−2−1)の右シャドーに入り、右アウトサイドのアレハンドロ・ポゾの攻撃を引き出し、守備ではサイドバックを封じ、戦術的役割も果たしていた。11分には、短いパス交換からスペースを作り出し、ラインを破る形でダニ・ロドリゲスにパスを通し、きわどいシーンを作った。

 しかし、中盤の強度で劣り、最終ラインも強固とは言えないマジョルカは、PK、CKから2失点し、序盤にして追い込まれた。

 唯一の希望になったのは、久保だろう。彼がボールを触るたび、マジョルカは得点の匂いをさせていた。

 29分には、左サイドでラゴ・ジュニオールとワンツーパス、このこぼれ球からダニ・ロドリゲスが右足で強烈な一発を狙う。システム変更で、久保は4−4−2の右サイドへ入った46分には、右サイドでボールを受けると、動かすことでスペースを作り、アンテ・ブディミルにスルーパスを通した。69分には、相手と対峙しながらボールを持ち運び、エリア内に入っていたアレクサンドル・トライコフスキに速いパスを入れ、これがPKにつながった。

 78分にも、久保は右サイドから中央へボールを動かし、ラインの前を横切って脅威を与える。リオネル・メッシも得意とするプレーだが、横移動で相手の視線をずらし、スペースを作り、突破やパスやシュートを狙う。ファウルまがいのタックルを受けてこぼれたボールを、ダニ・ロドリゲスが見舞った一撃は、わずかに左へ逸れた。

「久保はボールを受け、運び、タイミングを取ることができる。同時に周囲も彼が作ったスペースを使える」

 15年以上、バスク代表監督を務めたミケル・エチャリは、久保のプレーについて非常に高い評価を与えている。

「相手の裏を取れる技術と速さがあって、『高い技術をトップスピードで使えるアタッカー』と言える。個人技が目立って抜きん出ているが、コンビネーションでもダメージを与えられる。ボールスキルだけでなく、タクティクスのレベルも高く、常に相手ディフェンスの”隙間”にポジションを取れる。プレービジョンに優れ、対応力も高い」

 この日、久保は直接的な貢献は見せられなかった。しかし、プレーの質の高さはあらためて示している。ラインの間に入ってボールを受け、つなげる。援護がないなら1対2の場面でもCKに持ち込む。プレーの細部まで、高い水準を見せたのだ。

 しかし、チームはまたも敗れた。残り6試合。次節は6月30日、本拠地ソン・モイスで16位のセルタと戦う。

 アスレティック戦の久保は90分間プレーし、最後まで得点を狙っていた。その体力、気力は、成熟の証だろう。彼が奇跡を起こすしか、このチームに活路はない。



著者:小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki