平昌五輪でのカロリーナ・コストナーの『牧神の午後への前奏曲』の演技

 フィギュアスケートファンなら誰もがあるお気に入りのプログラム。ときにはそれが人生を変えることも――そんな素敵なプログラムを、「この人」が教えてくれた。

私が愛したプログラム(4)
宮原知子
『牧神の午後への前奏曲』カロリーナ・コストナー

 私の好きなプログラムは、カロリーナ・コストナー選手(イタリア)が2017−2018シーズンに滑ったフリー『牧神の午後への前奏曲』(振付/ローリー・ニコル)です(コストナーは2010−11シーズンにも使用している)。

 なぜお気に入りのプログラムになったのか、すごく明確な理由があるわけではなく、説明することも難しいのですが、曲と振り付けがすごく印象に残っていて、自分の心に留まったプログラムです。曲自体が難しいのに、見ていて飽きない滑りを見せてくれたのがすごいなと思いました。

 このプログラムを見ていると、楽器の細かい音色まで、すべてを表現していることが伝わってきました。ひとつひとつの音を丁寧に表現していることを大事にしているのかなと思いながら見ました。

 コストナー選手が曲に合わせて表現するところが大好きで、憧れでもあります。「私もこんな風に滑りたい」という、理想像のスケーターでもありますね。

『牧神の午後への前奏曲』のプログラムを振り付けたローリー・ニコルさんは、コストナー選手のほとんどのプログラムを振り付けており、私も振り付けてもらっている振付師さんです。演じたナンバーはすべて好きなんですけど、十八番のプログラムである2018―2019シーズンのショートプログラム(SP)『小雀に捧げる歌』は、ニコルさんが振り付けてくれたものです。

 このプログラムは曲自体がすごく好きで、振り付けももちろん好きなんですけど、自分から「これで滑りたい」と強く思ったプログラムは、この『小雀に捧げる歌』が初めてでした。とにかく、プログラムを滑ることも衣装も、全部が好きなプログラムです。

 この曲との出会いは自分でも忘れてしまったんですけど、どこかで聴いて、すごく気に入って、「いいな」と思っていたところで、ローリーさんとプログラム曲を決めることになりました。そのときにローリーさんも、同じ曲を提案してくださったんです。いくつか持ってきてくださった曲の中にこの曲があり、「あっ、この曲はついこの前、いい曲だと思ったんです」とお話して、「それなら、これにしよう」ということになりました。

 私にとってこの曲は、「自由に滑れる」「気持ちよく滑れる」曲なんです。

 毎回、プログラム曲を決めるときに、どんな曲がいいかなとか悩んでしまいます。新しい音楽を見つけるのが苦手というか、どうやって探していいかわからなくて、最初の壁にぶち当たることが多いなかで、「自分でいいと思った曲」を見つけられたことで、あのシーズンは良い一歩を踏み出せたかなと思います。

『小雀に捧げる歌』のプログラムを作ってくださったローリーさんは、すごくたくさんのジャンルから音楽を集めたうえで、いろいろな要素を集めて振り付けをして、ひとつのプログラムを作ってくれます。その知識や力量がすごいなと、いつも思っています。

 振り付けの仕方としては、音楽を聴いて、音楽から連想する動きを作り出し、特にステップシークエンスでは、レベルを取らないといけないので、ターンの数、方向を考えつつ、それを曲にはめ込んだり、振り付けをステップに合わせてつけたりしながら、音にもぴったり合わせていく感じです。

 ローリーさんが思いついたり、感じたりした動きを振り付けに落とし込みながら、レベルのことも計画的に組み立てていきます。

 最近、私もプログラム作りにも関わるようになりましたが、ローリーさんは私に「自分の演技をどう思うか」などと、すごく聞いてくださるようになりました。これまでは、振り付けをしてもらっているときに、自分の心の中で「こんなの、どうかな」と思っただけで終わってしまっていましたが、言うチャンスを作ってくれたり、「自分で考えてみて」と言ってくださったりします。

 自分も勉強しながら振り付けをしているので、どんどん振り付けの練習の難度が上がっているというか、ただ覚えるだけじゃなくて、自分でも音楽を感じて、振り付けに生かすようにしないといけなくなっています。

 振り付けにも積極的に取り組むようになったことで、ここの音では「こういう風に表現していこう」と、細かく考えるようになったところが、変わったかなと思います。

 いままでは振り付けてもらった動きをただやる、こなすというのがメインだったのですが、どういう風に動けばプログラムのテーマにそった演技になるのか、よく見えるようになるにはどうすればいいかを考えるようになりました。

 2020―2021シーズンの選曲やプログラムについては、曲も振り付けも終わっているSPに対して、フリーの曲は今回も悩みに悩んで選ぶのが難しかったですが、やっと決まったところで、振り付けもまだです。

 曲名や曲調についてはまだ詳しくお伝えできませんが、昨季は新しいことにチャレンジしたプログラムだったのに対して、来シーズンはどちらかというと自分に合った音楽になったかなと思います。振付師については、フリーがローリーさんですが、SPはまだ発表しないので、楽しみにしてください。

 私にとってプログラムとは、自分のスケートを見せるもの、自分の個性を見せられるものだと思います。ひとつの短いプログラムの中に、自分の個性や自分のスケートがすべて詰まっているので、「自分を表しているもの」かなと思います。

 新型コロナウイルスの影響で自粛生活を余儀なくされていましたが、限られた練習時間ではありますが、6月1日から氷上練習を始めています。2カ月半ぶりの氷上練習では、すごくジャンプとかが怖かったのですが、想像していたよりは簡単に跳べました。

 自粛期間中にはローラースケートとかをしていたので、感覚がおかしくなっていて、最初はまったく滑られなくてすごく焦りました(笑)。2カ月半もリンクに立てなかったのは、やっぱり辛かったです。いくら陸上で回転練習をしても、氷の上でやってはじめてスケートの練習と言えるからです。

 とにかくいま(氷上練習再開から1週間後の取材時点で)は、久しぶりに滑り始めたので、調子を戻すことしか考えていません。

宮原知子
1998年3月26日、京都府生まれ。2011、12年全日本ジュニア選手権優勝。2014年から全日本選手権4連覇。2015年、16年GPファイナル2位。2015年世界選手権2位。


著者:辛仁夏●文 text by Synn Yinha