4カ月ぶりの再開である。待ち遠しくもあり、どこか不安でもあった。

 たかだか4カ月かもしれない。それでも、日韓ワールドカップが開催された2002年にサッカーメディアの世界に飛び込んで以来、これほど長い間試合を観られないことはなかった。ほぼ毎週末どこかの会場に足を運び、選手のプレーや声を届ける仕事をこなしてきた。それが普通のことだった。


無観客のフクダ電子アリーナで千葉vs大宮が行なわれた

 シーズンオフだって、長くても3カ月程度だから、4カ月もスタジアムから遠ざかることは初めての経験だ。禁断症状が出てしまうほどでもなかったが、物足りなさというか、しっくりこない感覚はあった。

 だが、時は感覚を麻痺させる。そんな状況にも次第に慣れていき、週末にはウーバーイーツを頼んで、ネットフリックスでも眺めていればよくなった。サッカーがない生活が日常となったのだ。

 だから、取材人数の制限があった今回の再開試合にダメもとで申請し、それが承認された時には、うれしさよりも不安が上回った。


 それは、久しく行っていない場所に足を踏み入れる時の感覚だ。日常だったものが、そうではなくなったのだ。非日常を味わう時には、いつだって不安がつきまとうものである。

 6月27日、J1リーグに先駆けて、J2とJ3が再開・開幕した。一時は今季の開催が困難とさえ思われていたなか、「よくぞ、ここまで」という想いが強い。

 フクダ電子アリーナでは、ジェフユナイテッド千葉と大宮アルディージャのカードが組まれた。

 ユン・ジョンファン監督を招聘して低迷からの脱却を狙う前者と、昨季あと一歩のところで昇格を逃した後者。そのネームバリューを考えれば、この日の最注目カードと言えた。

 もっとも、無観客で行なわれた試合は、知っているものではなかった。

 当然ながらスタンドに人はおらず、寂寥感が漂った。スタジアムの音響から声援が流れるという「リモートチアラー」なるシステムによって、静寂は回避されたものの、展開によって左右される抑揚や臨場感には欠けた。


 ピッチ上でも新しい様式が見られた。

 戦闘開始の緊迫感が漂う整然とした選手入場はなく、両サイドからバラバラと、両チームの選手が集ってくる。団結を感じさせる集合写真も、ソーシャルディスタンスが保たれていた。

「整列も入場もなく、難しい雰囲気で試合が始まった」と千葉のGK新井章太が振り返ったように、選手にとって気持ちを高めづらい状況だったのは確かだろう。

 そうした雰囲気が影響したのか、試合は立ち上がりから手堅い展開となった。

 もちろん試合勘の欠如もあっただろうし、相手の出方をうかがっていたところもあっただろう。ともに守備を重視するチームであることも要因だったに違いない。千葉がややボールを保持したが、互いにゴールに迫れないもどかしい展開が続いた。

 ところが前半終了間際に、均衡が破れる。エリア手前で得たFKを、大宮のボランチ小野雅史が相手に当てながらも直接ゴールに蹴り込み、先制に成功。この1点を守り抜いたアウェーチームが、敵地で貴重な勝ち点3を手にした。


「長い中断期間があったなかで、若干硬さがあったかもしれないですけど、選手たちはアグレッシブにプレーしてくれた。敵地でもありますし、勝ち点3が取れたことはチームにとって大きい」

 大宮の高木琢也監督は、穏やかに試合を振り返った。

 決勝点を奪った小野だけでなく、フル出場を果たしたDF西村慧祐などプロ1、2年目の若手が躍動。シャドーの位置に入ったイッペイ・シノヅカも小気味よいドリブルで攻撃を活性化するなど、昨季からの上積みを感じられたのだから、指揮官としては満足だろう。

 大宮はこれで開幕2連勝。J1復帰に向けて、幸先のいいスタートを切っている。

 一方、千葉にとっては手痛い敗戦となった。とりわけ攻撃面に課題をのぞかせ、得点の匂いは最後まで感じられなかった。

 それでも指揮官は「久しぶりのゲーム再開ということで、難しい試合になると思っていたが、選手たちはよくがんばってくれた。守備の安定というところを中心に準備をしてきたなか、失点はしたが、ある程度安定していたと思っています」と、セットプレーからの1失点のみでしのいだ守備面に一定の評価を下した。


 好セーブを連発した新井だけでなく、キャプテンマークを巻いた田口泰士と、新戦力が存在感を放ったのもポジティブな材料だろう。

 かつてサガン鳥栖をJ1に導き、セレッソ大阪にふたつのタイトルをもたらした新監督が、これからこのチームをどのように立て直していくのか。今季のJ2における注目ポイントとなりそうだ。

 内容的にもスコア的にも”渋い”一戦となったが、やはり生で観るサッカーはいいものだと、あらためて感じられた。

 録音された声援が流れ続けていたとはいえ、バシバシと身体のぶつかり合う音や味方を叱咤激励する声ははっきりと聞こえたし、プレーのスピード感、力強いキックの弾道など、映像では感じられない迫力がそこにはあった。

 村井満チェアマンが明言しているように、Jリーグは7月10日に観客を入れての試合が再開される予定だ。

 ただし観戦においては、様々な禁止事項が設けられている。歌を歌う、タオルマフラーを振る、ハイタッチや肩を組んでの応援など、当たり前のようにやれていたことが、できなくなる。これまでとは異なる試合観戦を余儀なくされるのだ。


 取材する側の我々も、これまでとはずいぶん勝手が違った。問診票の提出や検温、あるいは取材時間の制限など。ソーシャルディスタンスが取られたことで記者席のスペースが広かったのは快適だったが、その分、取材にこられない人もいる。リモートによるコメント取りも大いにてこずった。

 ただ、そうした変化を嘆くのではなく、ウィズコロナの時代においては新たな様式にアジャストするほかない。不便も違和感も、いずれは当たり前のこととして受け入れられるようになるのだろう。

 Jリーグの新しい日常が、始まった。

著者:原山裕平●取材・文 text by Harayama Yuhei