今年のホンダは、パワーと信頼性でメルセデスAMGに並ぶ。

 数日後に迫った2020年シーズンの開幕に向けて、ホンダは自分たちの作りあげたパワーユニットRA620Hに自信を見せている。


3カ月半でレッドブル・ホンダはどれほど進化したのか

 昨年、ホンダはレッドブルとともに3勝を挙げた。だが、後半戦に投入したスペック4でトップに追いつくことを目標としていたものの、パワーユニットはまだメルセデスAMGに追いついていない。

 F1パワーユニット開発総責任者の浅木泰昭は、こう振り返る。

「去年1年間でメルセデスAMGに追いつくのが目標でした。ただ、ターボの効率もあって標高が高いところではけっこういいところにいけた一方、低いところではまだ負けているのが分析した結果でした」

 ホンダ自身の伸びとしては、計画どおりだった。しかし、ライバルの伸びは想定以上だった。だから結果として、平地では追いつくことができなかった。

 だが、そこから2020年に向けて開発してきたRA620Hでは、今度こそライバルに並ぶことを想定している。


「平地でもメルセデスAMGに追いつくことを目標に開発してきました。今年こそはなんとか追いついて、3強チームのどこが勝ってもおかしくないという形で1年を通して戦い、結果としてチャンピオンを獲れれば。それが今の目標です」

 浅木が開発責任者に就き、トロロッソと組んだ2018年の後半戦に投入した新燃焼コンセプトは、2019年型でもこの2020年型RA620Hでも継承されている。

 開発を進めていくと開発領域はどんどん少なくなり、重箱の隅を突っつくような開発になりがちになる。だが、ホンダはまだこの燃焼コンセプトに伸びしろがあるという。

「この燃焼コンセプトをしゃぶり尽くす。やってみて初めて、ここに余力があるとか改善の余地があるとかがわかりますし、改善するとまたここに(性能を引き出す)やりようがあることがわかったり……。そういうのを可能なかぎりスピードアップして、いかに速く最終到達点に辿り着くかの戦いです。

 そういう意味で、まだ余力がある。ずっとそう言ってきましたけど、今もまだ最終到達点まで行っていません。今年のスペック3までには、そこに辿り着けると思っていました」


 だが、今年は開幕戦オーストリアGPの時点でパワーユニットの仕様が登録され、以降のアップグレードは禁止となる。

 ホンダは3月のメルボルンの時点で用意していた当初の開幕仕様スペック1に対し、この3カ月半でさらに開発を進めてきた。3月にシーズンが始まっていれば、今頃はすでにスペック2が投入されていたはずだ。

 しかし、新型コロナウイルスの感染拡大による開幕延期とヨーロッパでのロックダウンを受け、パワーユニットマニュファクチャラーも7週間のシャットダウン(操業停止)を余儀なくされた。結果、当初のスペック2まで完成させることはできなかった。

 そのなかで完成に漕ぎ着けたパワーユニットを、ホンダは「スペック1.1」と呼んでいる。

 だが、どうやらその伸びしろは「0.1」どころではなさそうだ。

「オーストラリアでの開幕の頃にはスペック2の開発はけっこう進んでいましたが、シャットダウンに入ったことで確認作業などが遅れ、取りこぼしもありました。でも、想定どおりの開発はできましたし、パーフェクトではないけれどやれることをやったのが、このオーストリア仕様のスペック1.1です。


 全部ではないにしても、一部はガラッと変わったところもあります。その一部には、ホンダジェットとのMGU-H(※)開発の進化やエクソンモービルとの燃料共同開発に続いて(他部門との)コラボレーションした技術もあります」

※MGU-H=Motor Generator Unit-Heatの略。排気ガスから熱エネルギーを回生する装置。

 2月のバルセロナ合同テストの時点では、パフォーマンスについてまずまずの手応えがあったようだ。もちろん、ライバルがいかに”三味線”を弾いているかわからないとはいえ、スペック1.1でホンダが注力してきたのは信頼性・耐久性を向上させることだ。

 これによって、実戦のなかでいかに攻めて使うことができるかが変わってくる。

 昨年のオーストリアGPで話題になった「エンジン11ポジション5」という無線のメッセージが、まさにそれだ。これは、いかにパワーユニットにダメージを負うことを許容しながらパワーを捻り出して走るか、という使い方の設定だった。


 1年前のオーストリアで勝利を手にした時は、「エンジン11ポジション2」から始まって「ポジション7」まで攻めていき、次戦以降の分のダメージ蓄積を前借りしてでもパワーを捻り出した。だからこそのオーバーテイク劇だった。

 それが今年は、もっと攻めて使えるようになる。耐久性を持たせておけば、そういうことができるようになるのだ。

「今回開発を進めたのは信頼性が一番大きいんですが、信頼性が高くなればよりパワーモードを使うことができます。燃焼系も若干上がっていて、燃焼系以外にもターボを変えています。HRD Sakuraでの耐久性確認の結果と合わせて、どういう使い方でどう攻める、どう守るということを考えています」

 開幕戦オーストリアGPに投入するスペックで、ホンダは2020年シーズンを最後まで戦わなければならない。信頼性対策のための変更は許されているとはいえ、その修正にはライバルメーカーの合意も必要となるため、パワーアップにつながるような変更は許されない。

 ぶっつけ本番のリスクを避けるため、アルファタウリは6月24日にイモラ・サーキットで、レッドブルはシルバーストン・サーキットで、2020年型マシンにスペック1.1のパワーユニットを搭載してシェイクダウン作業を行なった。


 ここで実走による基本システムチェックを行ない、細かな修正点を洗い出す。そして、完全版のスペック1.1をレッドブルリンクへと持ち込む予定だ。

 持ち込まれたRA620Hが本当にパワーと信頼性でメルセデスAMGに並んでいるのか、それはフタを開けてみるまでわからない。この3カ月半の間にメルセデスAMGも歩を進めているはずで、それはフェラーリやルノーにも言える。

 しかし、今年のホンダはもはや3年後れでこのパワーユニット開発を始めた「追走者」ではない。彼らと同じステージに立ち「ライバル」として争うことになる。

 これは2015年にF1に復帰してから、6年目にして初めてのことだ。

 かねてから浅木は「2020年が本当の勝負の年」と見据えて開発を続けてきた。

「今までは参戦するのが遅かったから(開発が後れを取っているという)”言い訳”をしてきましたけど、3年遅れて出発したというハンディキャップはもうない。これからは技術と技術の勝負です。どっちの技術力が高いか。勝てば技術力がある、負けたら技術力がない、という本当の勝負の年です」


 そして目標は、いよいよ頂点だ。レッドブル、マックス・フェルスタッペンとともに、ホンダは頂点へと挑戦する。

「ここに来て『2位が目標です』なんて言うことは有り得ませんから。当然チャンピオンが目標になります。ホンダとしては、最低でもメルセデスAMGと五分五分のパワーユニットになること。そこまでは持っていきたいと思っています」

著者:米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki