"モンスター"のラスベガスデビューが間近に迫っている。10月31日(日本時間11月1日)、ラスベガスのMGMグランド・カンファレンスセンターで、WBA、IBF同級王者の井上尚弥(大橋ジム)がジェイソン・マロニー(オーストラリア)との防衛戦を行なう。

 井上は、今年4月にWBO同級王者ジョンリール・カシメロ(フィリピン)との統一戦が決まっていたが、新型コロナウイルス感染拡大で流れてしまった。しかしその後、ランキング上位の実力者であるマロニーとの対戦が決定。アメリカでも動画配信サービス「ESPN+」で生配信される試合を、本場のファンも楽しみにしているだろう。

 井上の約1年ぶりの一戦はどんな展開になるのか。多くのファンの予想どおり、井上が強さを誇示するのか、マロニーに番狂わせを起こすチャンスがあるのか。ボクシング事情に精通するアメリカの4人の記者に、4つの質問をぶつけて試合の行方を占ってみた。


激闘になった昨年11月のドネア戦以来、井上は約1年ぶりの試合となる

【パネリスト】

●ダグラス・フィッシャー(『リングマガジン』の編集長。ロサンゼルス在住で、ビッグファイトではリングサイドの常連)

●ディラン・ヘルナンデス(『ロサンゼルス・タイムズ』のコラムニスト。メキシコ系アメリカ人。語学に堪能で、英語、スペイン語、日本語を流暢に話す)

●ライアン・サンガリア(『リングマガジン』のライター。フィリピン系アメリカ人。アジアのボクシング事情に精通する)

●ショーン・ナム(『USA TODAY』などで活躍する韓国系アメリカ人ライター。精力的な取材で構築したネットワークによる、より深い部分まで切り込んだ情報に定評がある)

Q1.井上がマロニーに勝つためにやるべきことは?

フィッシャー 井上が早い段階からマロニーのボディを攻めれば、ボディ打ちでのKOもあり得る。あるいは相手のガードを下げさせ、顔面にパンチを決めてのクリーンなノックアウトも狙えるだろう。

ヘルナンデス 技術面では井上がかなり上で、レベルが違うと思う。マロニーも動きはきれいだが、井上のようにいいバランスで多様なパンチが繰り出せるわけではない。トップレベルのボクサーは攻防一体のボクシングができるものだが、マロニーは「攻める時」と「守る時」がはっきりしているので、井上は自信を持って攻め込めるはずだ。井上のような一流選手が快適に戦えるとしたら、相手にできることは少ない。その気になれば序盤ラウンドで試合を終わらせることも可能だろう。

サンガリア 井上はノニト・ドネア(フィリピン)戦で苦戦し、顔面を負傷したあとの試合だけに、心身両面で"モンスター"らしさを取り戻したことを示したいところ。井上はすばらしいジャブと破壊的なボディブローを持っていて、ディフェンスも上質。ジャブからコンビネーションにつなげれば、立ち向かえる相手はほとんどいない。

 スーパースターに必要なすべてを持っている選手だ。軽量級でスターと呼べる位置に到達できるボクサーは限られているが、井上はその中のひとり。自分らしく戦えば勝利を手にできるはずだ。

ナム マロニーは実力がある選手だが、井上の破壊的な攻撃を分断できるほどの武器は持っていない。井上はスピードでも上回っており、マロニーが入ってこようとするところを捕まえられるだろう。ドネアのような強烈な左フックはマロニーにはないため、井上はカウンターを恐れることなくディフェンスの穴を見つけることができる。順当ならば、中盤のラウンドを迎える前に一方的な展開になるだろう。

Q2.劣勢が予想されるマロニーはどう戦うべき?

フィッシャー 後半勝負に持ち込む必要がある。スタミナ勝負になるような展開に持ち込み、ドネア戦でケガを負った箇所を集中的に攻めるべきだ。それをやり遂げるためには左右への動きを止めてはいけない。同時に、前半にハードパンチを打ち込み、井上に脅威を感じさせておかなければならないだろう。

ヘルナンデス 何か大きなアクシデントがない限り、チャンスを見出すのは難しいと思う。井上を苦しめたドネアは攻防一体のボクシングができ、カウンターが打てて、強烈な左フックという武器も持っていた。一方、ハードパンチャーとは言えないマロニーには一発逆転のチャンスもなく、井上を苦しめるだけのものを備えているようには見えない。

サンガリア マロニーは最高にタフネスで、意志の強さで相手を崩していくことができる。よく鍛えていて基本がしっかりしており、特にボディ打ちがうまい。そんな挑戦者が勝機を見出すには、井上を疲弊させなければいけない。マロニーが唯一の敗北を喫したエマニュエル・ロドリゲス(プエルトリコ)戦でもそうだったが、彼はややスロースターターで、回を追うごとにペースを上げていく傾向がある。フィジカルの強さを生かし、致命的なダメージを負わずに後半勝負に持ち込むことが、善戦の絶対条件になる。

ナム 最近の写真を見る限りでは、ドネア戦で負傷した井上の右まぶたは以前とは少し違って見える。何の問題もない可能性もあるが、もし古傷として残っているなら、マロニーはつけ入るスキを見出せるかもしれない。注意深く、巧みにプレッシャーをかける必要があるが、井上の能力を考えると非常に難しい作業だ。マロニーが勝機を掴むためには完璧な戦いが求められるだろう。

Q3.試合は何ラウンドくらいに決まりそうか。

フィッシャー 序盤、井上は1年のブランクを多少は感じさせるかもしれない。ただ、3回くらいまでにはリズムを掴み、ボディ打ちと顔面へのフックでマロニーにダメージを与えるはずだ。中盤のラウンドで井上がTKO勝ちすると見ている。

ヘルナンデス 2、3ラウンドで井上がKO勝ちする。

サンガリア 井上の"トップランク社デビュー"はエキサイティングなものになるだろう。王者の引き出しの多さとパワーを考えれば、マロニーの勝利を想像するのは難しい。マロニーは抵抗をやめないだろうが、厳しい戦いになるだろう。

ナム 井上の7回TKO勝ち。

Q4.井上が勝った場合、その後に誰と戦うことになると思うか。あるいは誰と戦ってほしいか。

フィッシャー 井上にはバンタム級統一路線を歩んでほしい。WBO王者のカシメロ、12月に行なわれるWBC王者ノルディーヌ・ウバーリ(フランス)vsドネア戦の勝者が次戦の候補になる。井上が4団体統一し、パウンド・フォー・パウンドでもナンバーワンと認められるかどうかを見てみたい。

ヘルナンデス マニー・パッキャオ(フィリピン)がそうだったが、アメリカでスターになるにはメキシコ人のライバルを見つけられるかがカギになる。ただ、井上のライバル探しは簡単ではない。個人的にはルイス・ネリ(メキシコ)との対戦が面白いと思うが、実現は難しそうだ。

 スーパーフライ級のフアン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)は知名度がある選手だが、予定されているローマン・ゴンサレス(ニカラグア)との再戦に勝ったとしても、バンタム級まで上がってくるかどうかはわからない。メキシコ人以外ではギジェルモ・リゴンドー(キューバ)もいるが、もう40歳。トップランク社はスター選手の売り出しが得意ではあるものの、今後はどれだけの相手を探し出せるか、どんなストーリーを作れるかがポイントになる。

サンガリア 答えはただひとり。カシメロだ。井上とカシメロはスタイル的にも、これ以上ないほど噛み合うと思う。カシメロは、バンタム級屈指の実力者と目されていたゾラニ・テテ(南アフリカ)をKOで下し、WBO王座を奪って実力を証明した。ハードパンチャーでカリスマ性があり、誰が相手でも恐れを知らない。井上を売り出すことを考えても完璧な相手だっただけに、対戦が実現しなかったことは残念だったが、今後に期待したい。

ナム マロニー戦に勝ったら、一度は流れてしまったカシメロとの試合に真っ直ぐに向かってほしい。ただ、カシメロは、トップランク社のライバルプロモーターであるプレミア・ボクシング・チャンピオンズと関係を深めているだけに、早い段階での井上戦は難しくなったかもしれない。そうだとしたら残念なことだ。

著者:杉浦大介●文 text by Sugiura Daisuke