ステップ3 将来に生かす

(5)再発防止
――反省し、仕組みから変える

被害拡大の阻止と可能な修復が一段落したら、いよいよミスや失敗を生かすほうに目を向けます。

その際、何よりまず大切なのは、正しく反省することです。なぜそのミスが発現したか、なぜ周囲に迷惑をかけてしまう事態になったのか、客観的な視点で振り返ってください。

同じ作業をしている人が何人もいたのに、自分がそのミスや失敗をしてしまったなら、そこには何か、自分だけの原因はないでしょうか?

いつもはきちんとできているのに、その日だけミスや失敗になってしまったとしたら、その日に何か、問題があったのではないでしょうか?

ミスや失敗が発覚してからの動きに、もたつきや保身がなかったでしょうか?

これまで、「ミスは組織やグループのもの」と繰り返してきましたが、ここばかりは、個人の視点で振り返ることが大切です。

そして、改めて迷惑をかけた人には謝って、手助けしてくれた人にはお礼をしておきましょう。


そして、その反省を踏まえて、再発防止策を考えるのです。

この再発防止策づくりは大きなテーマではありますが、ここで簡単にそのポイントをまとめておきましょう。

再発防止策をつくるときは、徹底して、「精神論は排除」することです。具体的には、

・「もう、このミスはやらないぞ」「次からは気を付けよう」という決心
・「私の不注意でした」という、不注意への責任転嫁
・「よい方法、正しい方法を教えてもらおう」という教育への依存
・「気合を入れよう」という意識鼓舞
・「周知徹底します」「管理強化します」という建前やスローガン

は、ミスや失敗から成長するためには、まったく意味がありません。それどころか、このような精神論はそれを言ってしまったところで思考が停止してしまうため、失敗学にとっては害をなすとさえ、考えられています。

こういった精神論は、そのときの気持ちを高揚させる効果があるので、日本には好きな方はけっこう多いようです。しかし、一時的な盛り上がりは、やがて冷めるもの。次の失敗の温床でしかないのです。

ちなみに、ここで

・「よい方法、正しい方法を教えてもらおう」という教育への依存

が入っていたことに疑問を持った方もいるかもしれません。師匠のやり方を見てまねることは、仕事に熟達するためには必須です。ですから、ミスや失敗をやらかしてしまった人を教育するという意味では、効果があるのは事実です。

しかし、教育によって改善するミスや失敗の陰には、必ず、「そもそもなぜ、十分な教育がなされていない人が、その業務を1人で進めていたのか」

という、組織の仕組みにおけるミスが隠れています。つまり、「未熟な人に、能力以上の作業をさせた」ということが、そもそものミスなのです。

その仕組みを変えないと、次もまた別の新人が同じ作業に当たり、またミスを繰り返すことになりかねません。ですから、教育だけで解決できるミスや失敗はほとんどない、と考えたほうがよいでしょう。



■再発防止策を考えるポイント
さて、精神論ではなく再発防止策をつくるためには、

「次に同じミスをしようとしても、もうできない」

という仕組みを考えることです。それが、ミスや失敗を成功に昇華させる最大のポイントであり、ミスや失敗からかえって評価を上げることにつながります。

「次に同じミスをしようとしても、もうできない」という仕組みは、たとえば次のようなものです。

【NG】発注のメールは3人にCCするようにして、皆が見るようにする。

(NGの理由:メールのCCのこのような利用法は、責任感を喚起せず、結局誰も見なくなる)



【OK】発注数が普段と大きく異なるときはアラートが出て、それを解除する手順を踏まないと発注を確定できないようにする。

【OK】発注数を、過去のものも含めてグラフ化する。成績管理としては意味がなくても、入力ミスがあればグラフが突出するので視覚的にミスに気付ける。

◇ ◇ ◇

【NG】異物混入を防ぐために、チェック要員を増やす。

(NGの理由:マンパワーでは結局見落とす可能性が高い)



【OK】工場のラインに異物が混ざらないように、カバーで覆って何も入れないようにする(ペヤングの例)。

◇ ◇ ◇

【NG】情報保持に関する社員教育を徹底する。

(NGの理由:教育では100%防ぐことができない)



【OK】情報漏洩を防ぐために、重要なエリアには電波ガード装置をつけ、電子機器の持ち込みや持ち出しを制限する。

◇ ◇ ◇

【NG】賞味期限を定期的に確認する。

(NGの理由:確認漏れ、チェックミスを起こしかねない)



【OK】賞味期限の切れた商品は、バーコードをスキャンしたときにアラートが鳴るようにする(コンビニの例)。


ちなみに、先の私の失敗――実験室の共有鍵持ち去り事件に対しては、それ以降、ワイシャツの第三ボタンにカラビナを取りつけることにしました。鍵を持ち出した際はそのカラビナに鍵をぶら下げておくことで、返し忘れを防いでいます。

効果的な再発防止策は、適切な原因分析によって可能になります。


著=飯野 謙次