保育・教育現場での性被害ゼロを訴える会見。被害者の保護者はついたての後ろから話した=14日午後、東京・霞が関の厚生労働省記者クラブで


 ベビーシッターとして保育中の子どもの体を触るなどのわいせつ行為をしたとしてシッターの男2人が、強制わいせつなどの疑いで相次いで警視庁に逮捕された。いずれも大手マッチングサイト「キッズライン」に登録していたシッターで、子どもへの性虐待を繰り返していたとみられる。逮捕された男の1人から被害を受けた子どもの保護者らが14日、都内で会見し、性犯罪歴のある人が保育や教育の現場に入ることができないよう就職の際に示す「無犯罪証明書」を政府が発行する仕組みの創設などを訴えた。

1人でできるのに、多目的トイレに連れていかれ

 「娘はトイレもすべて1人でできるはずなのに、『トイレに行きたい』と言ったら、多目的トイレに連れていかれ、下着を着けていない状態で、直接性器を触られた。おしっこを拭くのに普通はトイレットペーパーで拭くけど、手で拭くのかな、残っていないか確認しているのかな、と思ったそう。痛い、やめて、と言ってもやめてくれなかったと言っていました」

 5歳の長女が逮捕された30代の男から被害を受けたAさんは、会見で娘から聞きとった被害についてこう説明した。Aさんは新型コロナウイルス感染症の拡大により在宅勤務となり、4月下旬から仕事の間、長女と1歳の次女を自宅や公園で見てもらうため、シッターを利用していた。

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自宅で母親が仕事中の時も、別室でわいせつ行為

 キッズラインは、利用者とシッターがそれぞれ登録し、条件が合う人を探して結びつけるサービスだ。Aさんは以前からこのサービスを利用。在宅勤務の時期は、シッターを使いたい家庭が多く、これまで来てもらっていたシッターの予約が取れなかったため、初めて親の方から募集する機能を使った。

 子どもたちをなかなか外で遊ばせられていないことが気にかかっていたAさんは、掲示板に「公園で遊ばせてもらえる人に来てもらいたい」と希望を書き込んだ。

 応募してきたのが男性シッターだったため当初は「女の子2人のシッターに男性?」と少し悩んだが、「4歳差の子どもたちをつれて行くのに、体力面でもいいのかな」と思い直した。他の親子も遊んでいる公園で大人の目があることも安心材料になっていた。だが、男は多目的トイレという人目に付かない場所でわいせつ行為に及んでいた。

 別の日には、Aさんが自宅で仕事をするため、男に別室で2人の世話を依頼したが、男はこの時も長女にわいせつ行為に及んだという。長女がAさんに伝えにいこうとしたところ、男から「ママはお仕事してるから入っちゃだめだよ」と言われたという。

キッズラインから連絡「理由はお伝えできません」

 被害に気づいたのは、キッズライン社からの電話連絡だった。「今後サポート(保育)できなくなりました。理由は個人情報のためお伝えできません」とだけ伝えられた。Aさんはすでに8回保育を頼んだシッターが来られなくなると伝えれば、長女が残念がるだろうと思った。だが、「よかった〜」と表情を明るくしたことを不審に思った。

 「まさか」と思いながら、長女から話を聞きとるうちに、被害の様子が徐々にわかってきた。「子どもの性被害に親はこんなにも気づけないんだと痛感した。(キッズラインに登録するシッターは)子ども思いの保育士さんが多い印象だったので、性犯罪者が紛れている可能性に考えが及ばなかった」

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キッズラインのサイト


 シッターの男も毎回、保育中の子どもたちの様子をにこやかに報告するなど、重大な罪を犯している認識があったようには思えなかったという。

 「子どもは性に関する知識がなく、むしろ加害者に寄り添ってしまうこともある。シッターの先生が『ママはお仕事しているから…』と言われれば、その言葉しか頭に残らない。そもそも自分がされたことが親に言うほどのことなのかと思ったり、恥ずかしいという気持ちもあって言えなかったということでした」。すぐに被害を訴えられなかった娘を気遣った。

 この男は6月12日、別の家庭での女児への強制わいせつの疑いで警視庁に逮捕された。

英国では政府機関への登録と「証明書」提出が義務

 ベビーシッターは、子どもたちが施設に通う保育所などとは違い、シッターが依頼家庭などで子どもを保育する「認可外保育施設」(訪問型)に分類される。保育士または看護師の資格があることが推奨されるが、資格がなくても、研修を受けるなど一定の要件を満たせば、都道府県への届け出で始められる。

 マッチングサイトに関しては、厚生労働省が2015年にガイドラインを提示。シッターの登録受け付けの際に証明書類などの提出を求めることや、シッターと利用者双方から相談を受ける窓口を設けることなどを求めているが、具体的な選考や研修方法は各企業任せ。性犯罪の恐れがある保育者を排除できる公的な仕組みがないのが現状だ。

 こうした現状を変えたいとAさんらはこの日、保育や教育など子どもに接する仕事に就く人に対し、国が「無犯罪証明書」を発行する仕組みを作るよう強く求めた。英国では、一定の年齢以下の子どもに関わる仕事をするすべての人は、政府機関への登録が義務付けられ、政府が発行する犯罪歴の証明書を提出しなくてはならない。

別のシッターは4回逮捕 多数の子どもに加害行為

 キッズラインの登録シッターによるわいせつ事件が最初に発覚したのは今年4月。Aさんの長女が被害を受けた男とは別の20代のシッターの男が昨年11月、都内のマンションで保育していた5歳の男の子の下半身を触ったとして、強制わいせつの疑いで逮捕されたことが報じられた。この男は子どもへの性犯罪を繰り返していたとみられ、7月までに計4回逮捕され、うち2件について強制性交罪などで起訴された。

 Aさんは「小児性犯罪者の多くは1人で多数の子どもに加害行為をしている。大人が思っている以上に子どもの性被害は多い」と指摘。

 「5歳の娘の心の傷はいかばかりか、不安な気持ちが正直ある。娘が思春期になった時に精神的な問題を抱えたらと思うと恐ろしい気持ちでいっぱい。1人の犯罪者のために多くの子どもたちの未来がつぶされることのないよう、事件のことを広く知ってもらい、社会問題にしていく一歩として、無犯罪証明書を求めていきたい」と訴えた。

キッズライン「利用者から高評価。見抜くのは困難」

 登録シッターによる性犯罪が相次いだことについて、キッズライン社は本紙の取材に「事件の該当サポーターをご家庭に訪問させてしまったこと、また未然に防ぐことができなかったことを重く受け止めている」とコメント。2人のシッターについて「利用者からの評価も高く、クレームなどもなかった。選考の際は、過去の報道などで可能な限りの情報を収集して確認しているが、過去に逮捕歴や有罪判決がない場合は、危険性を見抜くことは難しい」と説明している。

 事件後、保育中の監視カメラなどでの録画・録音を試行したり、シッターの登録時に資質などを見る診断テストを検証導入などを始めているという。

[元記事:東京新聞 TOKYO Web 2020年7月15日]