コロナ禍における生活の中で、子ども(0歳〜17歳)の72%に何らかのストレス反応がみられた――。国立成育医療研究センターの「コロナ×こども本部」が、多くの学校が再開した6月中旬から7月下旬の間に実施したアンケートの結果です。
感染症対策が中心となる新しい生活様式は、子どもたちの心にどのような影響を及ぼしているのでしょうか。国立成育医療研究センター・こころの診療部・診療部長の田中恭子先生に聞きました。

すべてを自分ごとと考えるがゆえのストレス反応

子どもが癇癪(かんしゃく)を起こすようになった、おもらしが増えた、思いどおりにいかないと泣き出すようになったなど、国立成育医療研究センターの「コロナ×こども本部」には、保護者からもさまざまな報告が寄せられました。いったい子どもたちに、どのような変化が起こっているのでしょうか。この調査に携わった田中先生は、コロナ禍における子どもの心理をこう読み解きます。

「未就学の子どもには『自己中心性』という発達の特徴があるため、まわりで起きていることすべてが自分に関係しているんじゃないかという誤解が生じやすいといわれます。『コロナが自分の体の中で悪さをするんじゃないか』とか、『大事なママ・パパがコロナにかかるんじゃないか』といったような不安のために、お母さんから離れられない、登園するときに寂しがって泣いてしまうといった分離不安などの退行が起こる可能性が考えられます」(田中先生)

これまで一人でできていたことが、できなくなってしまう。コロナ禍において、そんな子どもは少なくなかったようですが、このような精神的退行の原因はどこにあるのでしょうか?

「コロナが直接的な原因となって精神疾患を発症することは考えにくく、もともと何かしらの不安を抱えやすい性格であったり、まじめで少し神経質で敏感であったりするお子さんなどが生じやすいといわれています。いろいろな報道や両親の過度な不安を子どもなりに感じ取ることで、子どもも不安な気持ちになります。その不安を自分の中で抑圧したり、ストレスが積み重なったりすることで、精神的な退行が起こりえます」(田中先生)

イライラを落ち着かせる「タイムアウト」とは?

前出の「コロナ×こども本部」のアンケートによると、「すぐにイライラしたり、怒るような場面ではないのに感情を爆発させたり、激しい癇癪(かんしゃく)をおこしたりする」子どもが多かったようです。
3歳から5歳では、「ほとんどずっとあった(毎日)」が5%、「かなりあった(毎週3、4回)」が9%、「ときどきあった(週に1、2回)」が18%。「ごくたまにあった(月に2回くらい)」が24%といった回答結果が出ました。子どもたちがイライラしがちだと思ったら、親は何をすべきでしょうか。

「イライラの程度にもよりますが、癇癪を起こしてじだんだを踏んでいるときは、なだめてもあまり効果がないことがあります。そのような場合は、『タイムアウト』という手法で子どもの感情を整えて、その様子を見守ることをおすすめします。タイムアウトとは、癇癪を起こしているその場所から子どもを違う場所に移動させる、あるいは大人がその場から離れることで、子どもと親が一人で落ち着くのを待つこと。上手にタイムアウトができれば、子どもの自律にもつながるといわれています」(田中先生)

タイムアウトをする際の注意点は、まずは子どもの安全確保。危険なものは、あらかじめその場から取り除いておきましょう。また暗い場所などへの閉じ込めはよくありません。子どもが恐怖に感じる可能性がある場所は避けましょう。タイムアウトをする場所は、子ども自身が一人で落ち着ける場所であることがベスト。お気に入りの椅子の上や、ソファの上、机の下など、子ども自身がそういった場所を持っていることもありますが、そうでない場合は、大人が今いる場所から離れて子どもを1人にしてもいいでしょう。子どもがうまく落ち着けたら、『よく落ち着けたね』『もう大丈夫だよ』といった言葉をかけることもポイントです。また、感情は否定せず癇癪の理由も聞いてあげてください。
タイムアウトの推奨時間は、年齢プラス1分。2歳なら3分、3歳なら4分といった具合です。それでも子どもが落ち着いていなければ、もう少し延長してみましょう。

こういったメリハリのある対応が子どもを落ち着かせることにつながるといわれますが、タイムアウトは日本ではあまりなじみがありません。なぜでしょうか。

「ある心理学の研究によると、アメリカでは迷子になった子ども本人が迷惑をかけた人たちに謝る傾向があるのに対し、日本では親が『私の不注意でこんなことになってすみませんでした』と謝る傾向があったようです。日本では『子どもがやったことはすべて親の責任である』『子どもは親が守るべき』といった意識がとても強い可能性があり、タイムアウトのようなことも『やってはいけないんじゃないか』という抵抗感がある人も多いと思います。ただ、昨今は子どもの自律を促すことや、児童虐待防止の観点からも親子の上手なかかわり方が必要とされていることから、これから日本でも広がってくると思います」(田中先生)

できないなかで「できること」を一緒に考える

子どもたちは保育園や幼稚園、自宅で、以前とは異なる生活を続けています。長期的に見た場合、こうした状況は子どもたちの成長にどのような影響を与えるのでしょうか?

「長期的な影響についてはまだ判明していません。ただ、予防的な対策を考え、これから長く見守っていかないといけません。では今何をすべきかと考えた場合に、大切なのは、どうすればこの体験を心のバネにできるかという観点で、できないことばかりでなく、大人が積極的にできることを見つけていくことだと思います。日常生活であれば、食事や睡眠をしっかり取るなどの基本的なことをしっかりとやる。園の行事でも、みんなそろってお昼ごはんを食べられないという理由で遠足を取りやめたのであれば、午前中だけで行けるような場所を探すなど、制限があるなかでもできそうなことを考えていくといいと思います」

まだまだ医学的には不明なことも多いなか、最適な答えが見つからないこともあるでしょう。しかし重要なのは、大人だけで無理に答えを出すことではないようです。

「いつなら元通りになるのかはだれにもわからないことですが、『いつごろなら回復するかな』とか、『それまでできることを一緒に考えていこうね』といったように、子どもと一緒に考えてみるのがいいと思います。そのうえで、共感していく。時には、子どもが『嫌だ』『つまんない』と言うこともあると思いますが、『そうだよね。嫌だよね。でも本当によくやっているよ』といったように、共感を言葉にすることも大切です」(田中先生)

お話・監修/田中恭子先生 取材・文/香川 誠、ひよこクラブ編集部

子どものストレスにはさまざまな原因が考えられますが、その対処法は、コロナ禍でも普段と大きく変わらないようです。子どもの自律を促していく。子どもの気持ちに共感する。そういった基本をもう一度確認したいところです。


田中恭子(たなかきょうこ)先生
Profile
医師。国立研究開発法人国立成育医療研究センターこころの診療部児童・思春期リエゾン診療科診療部長。小児科学会専門医、子どものこころ専門医、日本臨床心理士、英国ホスピタルスペシャリストなど国内外のさまざまな資格を持つ。専門はコンサルテーション・リエゾン、小児心身症、発達心理学。

参考/国立成育医療研究センター「コロナ×こども本部」