7月22日(日本時間23日、日付は以下同)に行なわれたワシントン・ウィザーズとデンバー・ナゲッツのスクリメージ。結果は89−82、八村塁がチームの中心となったウィザーズは残念ながら勝利を逃したが、この日のナゲッツが驚くべき戦術を試みたのが、リーグのコーチ陣の間で話題となった。

 なんとナゲッツは、ニコラ・ヨキッチをポイントガード(PG)に抜擢。本来はセンターとしてプレーするヨキッチのPG起用に、多くのメディアが食いついたのは言うまでもない。

 ヨキッチの優れたボールハンドリングと高いパスセンスを考えればあり得ない話ではないが、213cmの超大型PGが今後ナゲッツのスタンダードとなれば、リーグでも相当の革新的戦術となる。

 ほかの先発メンバーも、ジェレミー・グラント(203cm)、ポール・ミルサップ(201cm)、メイソン・プライムリー(211cm)、ボル・ボル(218cm)と超高身長のラインナップを組んだことについて、マイケル・マローン・ヘッドコーチ(HC)はこう話す。

「想定していたガード陣のコンディション調整がつかず、だったらこれが今のベストだというスターティングラインナップを組んだ。時代はどんどんポジションレスに向かっているからね」
  確かにマローンHCの言うように、NBAはポジションレスの時代に進んでいる。ビッグマンも本来の主戦場だったペイントエリアに縛られることなく、ゴールから離れ3ポイントを決めるのが当然になった。ストレッチ4がトレンドと言われた時代はもう古臭く、“ストレッチ5”が当たり前となったのが今のリーグだ。

「高さがあって、フルコートをスプリントし、アウトサイドシュートも難なく沈める。試合に出るすべての選手が究極のオールラウンダーになる時代もそう遠くはない」とマローンHCは言う。

 ダラス・マーベリックスのリック・カーライルHCも、ポジションレスへの進化を提唱するコーチのひとりだ。

「(クリスタプス)ポルジンギスを3ポイントラインの外に配置することに対する反論も多いが、それは正しくない。今のリーグのトレンドをなぞってみれば、ポルジンギスのようなビッグマンを外に配置し、ゴール付近に密集を作らないようにオフェンスを仕掛けることこそ有効なオフェンスだ」
  とにかくコートを広く使うこと。すでにNBAのシューターたちは、日常的に3ポイントラインの2、3mは後ろから、高確率でシュートを決めている。ならば、5人のプレー位置をとにかく広げ、スペースの空いたところで1対1、あるいは2対2でオフェンスを完結できるようにすればいい、というのがカーライルHCの考えだ。

「シュートレンジの広い選手を揃えたこと、そして(ルカ)ドンチッチがいることで、我々のバスケットボールはサッカーのようにコートを広く使い、有利に試合を展開できる。ドンチッチはハーフコートを越える前からオフェンスをセット可能な、リーグでも唯一の才能の持ち主。サッカーでいう、バスを前線にコントロールするミッドフィルダーの感性を持っているんだ」

 そしてマローンHCは、過去の概念でバスケットボールをする時代は終わったと話す。

「ファーストブレイクでの戦術とか、ハーフコートオフェンスの戦術とか、そういう時代じゃなくなっている。オールコートでオフェンスする方向へどんどん進化していて、ディフェンスでもフルコートでどう守るかを会得しなければならない。まだどれだけのコーチがそう認識して試合へアプローチしているかはわからないが、少なくとも若くて才能のある選手を多く抱えたチームは、新しい概念で戦術を取り組み始めている」
  かつてアトランタ・ホークスなどで活躍し、現在は解説者を務めるスティーブ・スミスは「ゴールデンステイト・ウォリアーズのもたらした、ハーフコートでの3ポイント狙いのスタイルはもう時代遅れになるだろう。今季の低迷期間を経て、あのシステムのまま来季カムバックしてきても、通用するか疑問が残る」と話す。

 現時点では、ポジションレスでオールコートを縦横無尽に使って攻めるオフェンスを採用しているチームは少ないが、今後はウォリアーズやヒューストン・ロケッツのような“ハーフコート3ポイント型”か、ナゲッツやマブズの“ポジションレス型”か、どちらが本流になるかがNBAのひとつの見どころになるだろう。

 ちなみに、ロサンゼルス・レイカーズやロサンゼルス・クリッパーズは、“ポジションレス型”のスタイルに移行中ではないかと思わせる試合展開を始めた。オールラウンダーの頂点に立つレブロン・ジェームズとカワイ・レナードを擁する2球団は、どちらのスタイルになっても対応できるだけの引き出しをすでに持っている。はたして今季の優勝候補両筆頭は、新たなシステムでリーグを席巻し、チャンピオンシップを勝ち取ることができるか。

文●北舘洋一郎

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