150年以上の歴史が紡がれるメジャーリーグにあって、シーズンMVPやサイ・ヤング賞に並ぶ栄誉とされる表彰がある。熱心に社会貢献活動を行なった選手を称える、ロベルト・クレメンテ賞だ。

 実働18年間で3000本安打を記録、中南米出身で初めてアメリカ野球殿堂入りを果たしたクレメンテは、貧しい家庭に生まれたこともあり、社会貢献活動に積極的だった。1972年12月末に中央アメリカのニカラグアで死者1万人以上と言われる大地震が発生すると、母国アメリカ自治領プエルトリコからチャーター機に大量の救援物資を乗せて旅立つ。しかし直後にカリブ海へ墜落し、帰らぬ人となった。

 メジャーリーガーが社会貢献活動に熱心なのは、先人たちによって歴史が積み重ねられてきた影響も大きい。プロスポーツという華やかな舞台でファンに支えられながら、自ら築き上げた価値を社会に還元する。そうして世の中が少しでも良くなり、人々の暮らしが前向きになれば、ひいては野球選手の価値も高まっていく。社会貢献活動は世の中にプラスの循環を生み出すものだ。

 日本でとりわけ熱心に取り組んでいる現役選手の一人が、昨季タンパベイ・レイズに移籍した筒香嘉智だろう。ベイスターズ在籍時から子供たちの野球やスポーツ、教育環境の改善を訴え、さまざまな活動を行なってきた。昨年から活躍の場をアメリカに移し、慈善活動に意欲的なメジャーリーガーと接しながらどんなことを感じただろうか。
 「スプリング・キャンプが終わった後にコロナの影響でシーズンが止まっている中、社会貢献活動をしている選手を多く目にしました。僕自身はコロナの影響もあってシーズン中はなかなか動けませんでしたが、自分のことだけでなく、周りの子供たちや社会の皆さんにいろんなメッセージを発信することや、自分自身を還元していくのはすごく大切なことだと変わらず思っています」

 筒香がそう話したのは、1月16日、生まれ故郷の和歌山県橋本市の小学生約60人を対象に「トークとエクササイズ体験会」を実施した際のことだ。昨年12月に2回、筒香の兄・裕史さんが講師を務め、ボールを投げたり打ったりする運動を実施。そして3回目のこの日、筒香が今も行なっているというブリッジや壁倒立などのエクササイズを、オンラインでつないで子供たちと一緒に実施した。

 トークコーナーでは小学生たちから興味深い質問が次々と寄せられた。例えばメジャーリーグのすごさを尋ねられると、筒香はこう答えている。

「日本と違うところは、動く時に体の芯が通っていて、強さがある。それとスピードです。動くスピード、ボールのスピード、打った打球のスピードは、日本の野球とはまったく違うと感じました。あとは日本にないような環境で育っている選手が多いので、すごくハングリー精神があり、心も強く、戦場のような雰囲気が球場の中に漂っていました」
  身体の強さという意味では、筒香が中学生の頃から現在まで続け、身体づくりの根幹にあるというエクササイズの意義についても伝えている。

「中学生の時は怪我をして1年弱くらい野球をしていない期間がありました。その期間をエクササイズ中心にすごすことができたから、今も身体のどこにも悪いところがなくプレーできています。その時にエクササイズの深いことを分かっていたわけではないのですが、今になって、小さい頃から続けてきて良かったと思うことがたくさんあります。

 皆さんも必ず将来、『あの時エクササイズを続けていて良かった』という日が来ると思います。毎日することに意味があると思うので、少ない時間でもいいので、毎日行なってほしいです」

 橋本市の少年少女にとって、自分たちの街から羽ばたいたメジャーリーガーの言葉に感じるところは多くあったはずだ。筒香は子供たちに向けてこうした社会貢献活動を行うのみならず、外国人特派員協会で指導者の意識改革を訴えたり、インスタグラムでユニセフの寄付を呼びかけたりするなど“発信”にも力を入れてきた。近年はSNSの浸透もありメッセージを伝える方法は多岐にわたる中、自らの活動を社会に広める意義についてどう考えているのだろうか。
 「社会で必要とされ、誰かが行動を起こしても、なかなか変わらないものは多々あると思います。発信力のあるスポーツ選手がそういう活動をすることによって、スポーツ全般や、スポーツに限らず、より良いものができていく。

 未来にすごく可能性のある子供たちのために動くことは、社会全体にとって非常に大事なことです。僕らがそういう活動をすることがきっかけになって、いろんなところにある良いものがひとつの方向に向かい、より良い社会をみんなで一緒に作り上げていくことができると思っています」

 筒香と同じように、社会貢献活動に熱心な選手は日本にも少なからずいる。そこで日本プロ野球選手会は昨年、「Player’s Plus」というオウンドメディアを立ち上げた。選手たちの活動を、世間にもっと発信していくためだ。

 こうした取り組みの意義が広く認知されることで、野球が生み出す価値も高まっていくはずだ。

取材・文●中島大輔

【著者プロフィール】 
なかじま・だいすけ/1979年生まれ。2005年から4年間、サッカーの中村俊輔を英国で密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に野球界の根深い構造問題を描いた『野球消滅』。『中南米野球はなぜ強いか』で2017年度ミズノスポーツライター賞の優秀賞。近著に『プロ野球FA宣言の闇』など。