超歌手・大森靖子が自身初となるベスト・アルバム「大森靖子」をリリースした。2019年にメジャーデビュー5周年を迎えた彼女は「超歌手5周年ハンドメイドミラクル5!」と題した5つの企画を発表。敬愛する道重さゆみと「絶対彼女 feat. 道重さゆみ」、峯田和伸(銀杏BOYZ)と、内田理央主演ドラマ「来世ではちゃんとします」(毎週水曜深夜1:35ほか、テレビ東京系)のオープニングテーマにもなっている「Re: Re: Love」をリリースするなど精力的に活動を行ってきた。

そんなメジャーデビュー5周年を締めくくる第5弾企画としてリリースされた本作には、これまでの100曲を超える発表曲の中から厳選した44曲を収録。さらに、インディーズ時代の「ハンドメイドホーム」、「魔法が使えないなら」、「音楽を捨てよ、そして音楽へ」を本作のために再録したほか、「絶対絶望絶好調」を東京スカパラダイスオーケストラと新たにレコーディング、さらに大沢伸一によってRemixされた「PINK」がメジャー以降初収録されている。今回、本作に込めた思いやメジャーデビューからの5年間について語ってもらった。

■ 自分だけの恋の話が、誰かの話になっていくのがゾワゾワする

――5周年おめでとうございます。

ありがとうございます。

――ベストアルバムにも収録されている「Re: Re: Love」がオープニングテーマのドラマ「来世ではちゃんとします」が現在放送中です。ご覧になっていかがでしたか?

「Re: Re: Love」は私が高校生の頃から大好きだった峯田和伸さんに作曲していただいて、私が作詞してできた曲なんですけど。妄想したりとか、実在があったりとか、相手にぶつけてしまう恐怖があったりとか、そういうのがいっぱいある中で成立している、それでも愛を届け合う関係みたいなものについて考えながら作った曲が、こういうドラマに選ばれるのが面白いなって思いました。自分だけの恋の話が、誰かの話になっていくのがすごくゾワゾワするというか。お客さんに曲を聴いてもらう中で、そういったことはあるんだろうと思うんですけど、1個の作品としてまざまざと見せつけられると「うわー!」って思いました(笑)。

――主演の内田理央さんやプロデューサーの祖父江里奈さんが「大森靖子さんの世界観が『来世ではちゃんとします』の世界観にマッチしている」とコメントを出されていましたが、ご自身としてはどう感じましたか?

メジャーデビュー曲の「きゅるきゅる」のミュージックビデオで偽マジックミラー号みたいなものを“自発的女子堕落部屋”みたいなイメージで作っていて、「来世ちゃん」のポスターにそれに近しいものを感じたので、マッチしているのかなって思いました。

■ 「大森靖子」っていうものを作っている意識

――初のベストアルバムの手応えはいかがですか?

曲を作りすぎているタイプなので、3枚組で44曲入れられたのが満足ポイントです。「これを入れないとベストじゃない」っていうのが人それぞれ違うじゃないですか。それを全部入れなきゃ!と思っていたので、44曲になった時点で、結構入れられたなと。あと、本当は全部の曲にミュージックビデオもジャケットもつけたいなっていう気持ちがあったので、ベスト盤の機会に1曲1枚のジャケットをつけられたのが嬉しかったです。

――アルバムのタイトルが「大森靖子」ですが、どのように決めましたか?

他に候補はなく決まったんですけど、「大森靖子」っていうものを作っている意識が結果的に高いですね。自分が作っていくものが「大森靖子」になっていくと感じているし、出したものしか受け取ってもらえない世界だと思うので。自分っていうものは自分でしか作っていけない、それが「大森靖子」だという思いがタイトルに入っているのかなって思います。

――自分の人格とはまた別に、作品としての「大森靖子」を作っている感覚でしょうか?

うーん。あんまり自分に人格があるような感じがしてなくて、それを知ってほしいという欲求も、肯定してほしいという欲求もあまりないんですよ。でも自分の人生の仕事っていうものはたくさんあって、例えば「感情の貧富の差を無くす」とか、「まだ歌われていない感情を歌いつくす」とか、そういうことが仕事だなと思っていて。「こういう風になったら世の中ちょっとよくなるのにな」とか、「人も生きやすくなるのにな」とか、そういうことをしているのが「大森靖子」。その「大森靖子」という媒介をもって自己肯定しているならば、それは聴いている人によって作り出している自己肯定でしかないので、本当は私は何も携わってなくて、その人が「大森靖子」を作ってくれていると思っています。それをまた私が預かって上に運んでいくっていう感覚ですね。

――聴いた人が「大森靖子」をさらに作っていっていると。

聴いた人が違う装備品を付けてくれて返してくれた「大森靖子」に対して、さらに「これを付けたらいいんじゃない?」とか、「それはいらないよ!」とかを返していくのが私っていう感じの捉え方をしています。聴いた人が「そういうこと考えて作ってなかったのに」っていう感想を書いてくれることってあるじゃないですか。アーティストはみんなあると思うし、そう言われてから「最初からそう考えて作った」って言っている人も多いはずなんですよ(笑)。でも、それって結構いいなって思っています。聴く創造をさせる創造もこちら側にあって、その余白を消したり、書いたりするバランスっていうのもものづくりだと思うので。

■ 「PINK」のリミックスは「超カッコいい」

――今回のアルバムでは「魔法が使えないなら」、「音楽を捨てよ、そして音楽へ 」などが再録されています。2012年、2013年当時の空気感を歌詞から感じますが、改めてレコーディングして解釈が変わってきた点などありますか?

うーん、ずっとライブで歌っている曲ではあるので、変わったなというのはあまりないですね。でも、時間がたって意味が変化していくことはあると思います。メアドで自分の人格を出すみたいなことはもうなくて、今はアイコンになっていると思うし。「@YouTube さんからあの娘の端っこかじって知ったかぶりさ」っていう「YouTubeを見てないでライブに来い」っていう歌詞を書いていたんですけど、今はYouTubeでさえも見るのが面倒くさいというか、ネットに動画を貼られたら、再生するのも面倒じゃないですか。私もテレビはだいたい倍速で見たいと思っちゃっていたりしていて。情報の消費スタイルとかスピード感とか、そういう環境の変化による受けとられ方の違いみたいなものはあるかもしれないです。

――東京スカパラダイスオーケストラとコラボした「絶対絶望絶好調」の仕上がりはいかがでしたか?

「絶対絶望絶好調」はスカパラさんのツアーでやらせていただいて、ライブですごく楽しかったので、「録音したいです」ってお願いしたらやってくださいました。再現するだけじゃなくて、自分たちのグルーヴとか、生きてきた人生観みたいなものを入れてくださっています。スカパラさんの明るい感じって、ただ明るいだけじゃなくって、やっぱり憂いを帯びた説得力みたいなのも持っているなって思っていて、それが「絶対絶望絶好調」っていうタイトルにぴったりだなと思いました。

フェスで人に「手をあげろ」とか言われて「絶対あげたくないな」って思っちゃうタイプなんですけど、スカパラのライブを見ていて、谷中(敦)さんに「手をあげろ!」って言われたら、勝手に手が上がるんですよ。その力ってすごいなって思って、そういうパワーを感じました。

――大沢伸一さんが「PINK」をリミックスした「PINK -MONDO GROSSO Remix-」も収録されています。

「PINK」のリミックスは本当に超カッコいいです。一番気に入ってます! エイベックスに入ってから5年間ずっと大沢さんにお願いしたいなって思っていて。でも、大沢さんにアレンジしてもらいたいと思う曲がずっと書けなくて、どうしようって思ってたんですけど。

大沢さんはとがっている時に作る音が一番カッコいいし、いつも一番新しいとがったものをやろうとしている人だと思っているので、このベスト盤を作るに当たって、「PINK」っていう一番シャウトな曲というか、一番とがったものを提示することで、いい音を出してもらえるんじゃないかと思って。出してみらたらすごくかっこいいアレンジが返ってきたので、「やったー!」って思いました。

■ 「私はこういう人間で」っていうのを書いてくださっているのが嬉しい

――ベストアルバム発売を記念した特設サイトでは、橋本愛さん、朝井リョウさんなど大森さんと親睦の深い方々からの熱量の高いお祝いコメントがたくさん掲載されています。

たぶん他のアーティストさんのお祝いコメントよりもだいぶ長いなって思ったんですよ(笑)。こんなにみなさん文字数多く書いてくださると思っていなくて、それだけで嬉しかったです。最初に私がインディーズの時に名前が世の中に出ていった時に、耳の早い音楽評論家たちの中で語ったら負け扱いだったんですよ。それってたぶん自分の人生観を語らないと語れない音楽だったからなんだと思うんです。音楽評論においてそれをしたくないじゃないですか。

――自分の内面をさらけ出さないと語ることができないと。

そうです。自分の生きてきた歴史的背景を語らないと語れないような存在というか、そういう活動の仕方を私がしてきてしまっているので、「コメントください」ってお願いした時点で、そういうことをさせてしまっているんだろうなって思って。そこまでの文章の書き方をさせたのに自分が返さないのはよくないなって思って返事を書いています。みなさんが「私はこういう人間で」っていうのを書いてくださっているのが嬉しいですね。でも、こんなにコメントをもらえると思っていなくて、まだ返せきれてないです......。

――ピエール中野さんからの素敵なコメントもありました。旦那さんから改めてこのようなコメントをもらうのはどんなお気持ちですか?

ぶっちゃけ、考えていることとか、気持ちみたいなものは、いつも一緒にいて知ってはいるので「こういうところに、こういうアプローチで、こう出して、こう見せるんだ、ふーん」みたいな気持ちです(笑)。

――そこまでの思考のプロセスが見えてしまうんですね(笑)。ファンの方から反響はありましたか?

良いように言ってくれて「わーい」みたいな。こういうの見たいんだなって思いました。でも、バンドマンだとそういうところを見たくない人が多い夫婦もいるじゃないですか。でも「そうじゃないんだー」っていう。もう他人事のような気持ちです(笑)。

■ 5年でできる全部はやった

――メジャーデビューから約5年半ですが、振り返っていかがですか?

そうですね、5年でできる全部はやったかなという感じです。これ以上何かできたとは思わないくらい、フルフルでやれたと思います。

――そんなメジャーでの活動の5年間で、ライブ活動や制作のスタイルで変わったことはありますか?

レコーディングの仕方はインディーズからメジャーになった時にすごく変わりました。インディーズの時はライブをひたすらやっていて、売るものないからCDでも作るか、ぐらいな感じで作っていて。録音のやり方が分からなくて、ライブでやっていることをそのまま録音していたんですよ。

メジャーデビューした時に、レコーディングってそうじゃないって知ってびっくりしました。物の作り方が全然違っていて、こういう声の出し方がこのレコーディングだと生かせるとか、マイクによって声を変えようとか、そういう楽しさに気づけてから、レコーディングが楽しみになりました。

あとは、レコーディング作業にハマりすぎずに、詞、曲の弾き語りのデモでとどめておく方がいいなと思いました。曲をアレンジする人には大変な思いをさせてしまうんですけど、今のライブのペースも保ているし、ZOCもそうですけど、いろいろな活動に手を伸ばせるので。完璧なデモを仕上げてっていうタイプよりは、詞と曲のメロディーを作れば曲を量産できる状態の方が、自分の活動ペースにあっていると思ったので、自分なりの活動の仕方ができてきたなという感じです。

――ありがとうございました。では、最後に10周年に向けて一言お願いします。

同じボリューム感のベストアルバムが10周年に出るくらいに、あとエイベックスに見捨てられないように張ろうって思います(笑)。(ザテレビジョン・取材・文=岩本侑也)