漫画家、木城ゆきとの代表作『銃夢』を、ジェームズ・キャメロン製作&脚本、ロバート・ロドリゲス監督という胸躍るタッグで映画化した『アリータ:バトル・エンジェル(2019)』(2月22日[土]よる8:00 WOWOWシネマほか)。地球と火星連邦共和国(URM)が覇権を競った没落戦争“ザ・フォール”から300年後の2563年。地球最後の空中都市ザレムの直下に広がる混沌としたアイアンシティを舞台に、サイボーグ少女アリータ(ローサ・サラザール)の奮闘を描いたSFアクション大作だ。

見どころはもちろん、最新VFXを駆使した痛快なアクションの数々。アイアンシティで流行する格闘スポーツ、モーターボールのシーンをはじめ、敵対する賞金稼ぎのハンター・ウォリアー(彼らは体の一部をサイボーグ化している)との戦いでアリータが繰り出すキレキレのアクションは必見だ。

また、アリータと、ザレムに行くことを夢見る青年ヒューゴ(キーアン・ジョンソン)の初々しい恋模様も物語に彩りを添える。

アリータのビジュアルを見てまず目を引くのが、一見すると不自然にも思える目の大きさだろう。だが、これは取りも直さず、キャメロンの原作愛の表出にほかならない。

そもそも本作の端緒は、今からおよそ20年前の1999年にさかのぼる。押井守作品をはじめとする日本の漫画やアニメーション、映像作品に大きな影響を受けてきたと公言する、いわば“日本オタク”のギレルモ・デル・トロが友人であるキャメロンにOVA版の『銃夢』を薦めたのがきっかけだった。デル・トロいわく「これはぜひとも君(キャメロン)が実写化すべきじゃないか?」。

OVA版『銃夢』はデル・トロのもくろみ通り、すぐさまキャメロンを魅了した。木城が創出した未来のユニークな世界観、卓越したストーリーテリングはもちろん、何よりキャメロンの心を捉えたのはヒロイン、アリータ(原作ではガリィ)のキャラクターだった。

キャメロンといえば、『ターミネーター』(1984)のサラ・コナー、『エイリアン2』(1986)のリプリーという映画史に残る最強ヒロインを描き出したことでも知られる。ただし、2人は最初から最強だったわけではない。ターミネーターとエイリアンの脅威にさらされ、生き延びるために否応なく強さを身に付けていったのだ。

一方、サイボーグであるアリータは、デフォルトは最強ながら、目覚めた時には心(自我)も記憶もなく、そこから自身が歴戦の戦士であったことを自覚していく。その両者の対比にキャメロンは強く惹かれたという。

加えて、強くたくましく成長していくアリータと、その頃ティーンエージャーだったまな娘の成長が重なったともキャメロンは述懐している。

木城のもとには映画化のオファーが複数寄せられていた。そんな中、キャメロンは日本へ飛び、木城に面会して直談判。「原作漫画は斬新で想像力に富み、最先端を行っている。ぜひ映画化させてほしい」と熱い思いを伝えた。

片や木城も「何回観たかわからない」と語るほどの『ターミネーター』&『ターミネーター2』(1991)の大ファン。相思相愛で映画化権はキャメロンに渡った。ちなみに、木城はロドリゲス監督も大好きで、お気に入りは『デスペラード』(1995)、『プラネット・テラー in グラインドハウス』(2007)、『マチェーテ』(2010)だとか。

キャメロンは脚本のほかに600Pにも及ぶ撮影用の覚書を準備するほどの熱の入れようだった。だが、折しも10年来温めてきた『アバター』の製作が現実味を帯び、最終的に彼は『アバター』(2009)を選択。本作はいったん宙に浮くこととなる。

2010年代に入っても、キャメロンは映画化を諦めたわけではなかった。

しかし、相変わらず多忙を極め、今度は『アバター』の続編の話が浮上する。ここに来てキャメロンは、信頼できる監督に『アリータ〜』を譲ろうと、旧知のロバート・ロドリゲスに打診。快諾を得たことで、自身の脚本と覚書を彼に託した。

常々キャメロンを敬愛していたロドリゲスは、監督をするに当たって、「僕が観たいのはキャメロンが撮るはずだった『アリータ〜』だ」と考えるようになった。

ロドリゲスは自身のスタイルには固執せず、キャメロンの手法に倣い、可能な限り彼が撮るであろう映像づくりに心血を注いだ。また、劇中のアリータは、キャメロンの構想に従い、全てCGで描かれている。サラザールの演技をパフォーマンスキャプチャーで撮影し、顔の表情も彼女の筋肉の動きをリアルに再現。

先述した大きな目は、サラザールの目を1.25倍に拡大した上で、瞳孔や虹彩などを描き込んでいる。もちろんこれも、原作漫画のテイストを極力打ち出そうという意図の表れである。

日本の漫画やゲームがハリウッドで映画化されたり、映画やアニメーションがリメイクされるのは、もはや珍しいことではなくなってきた。オリジナルのファンは、ひとまずは歓喜し、スタッフやキャストの決定、変更、降板などの速報に一喜一憂、製作遅延や延期のニュースにやきもきしながらも作品の完成を待ちわびる。

公開された作品にキャラクターやストーリー、設定の改変があったとしても、ファンは意外に寛容だったりする。国が違えば諸々変わって当たり前で、しかも映画は最初から世界展開を前提にしているのだから。とはいえ、ファンの怒りを買うケースもあり、彼らが最も我慢ならないのはオリジナルへのリスペクトが欠落していることである。

翻って本作『アリータ:バトル・エンジェル』は、オリジナルへのリスペクトはもちろんのこと、クリエーター同士のリスペクト、さらにはオリジナルを愛するファンへのリスペクトと、多様なリスペクトであふれている。

かように幸せな状況で誕生した作品は、そう多くはない。事実、実際に作品を見れば、そんなリスペクトが画面の至るところに確認できるはずだ。

■ 文=佐々木優

映像エンタメ誌やweb媒体を中心に執筆する映画ライター。編集プロダクション、出版社、ピンク映画などを経てフリー。1964年生まれ。(ザテレビジョン)