映画の成功にはいくつかの条件があって、例えば“キャスティングの妙”もそのひとつ。で、「原作付きの実写映画化」だと一段と、それが如実となる。

では、『日日是好日』(5月6日(水)夜9:00、WOWOWシネマ  ※読み方は「にちにちこれこうじつ」)という作品の場合はどうだろう。

■ 主人公を生き切ってみせた黒木華

原作は今なおロングセラーを記録中、「日日是好日-『お茶』が教えてくれた15のしあわせ‐」。エッセイストの森下典子が約25年間、通い続けた茶道教室での日々を滋味深くつづったものだ。

自伝的なエッセイであるから主人公の名も“典子”で、これを黒木華が演じている。まずこの配役がピッタリ! 本当にやりたいことを見つけられぬまま、漫然と大学生活を送っていた彼女が何となく茶道の世界へと足を踏み入れる20代、それから就職、失恋、大切な人の死…などを経験してゆく40代までをいみじくも生き切ってみせたのだ。

つまり、あくまでも茶道は映画の一要素であり、主眼は“人生の一コマ一コマ”を丁寧に描くこと。脚本を自ら手掛けた大森立嗣監督もこう述べている。「ひとりの女性が大人になっていく過程で、(略)胸の奥にずっと、でもひそかにある大切なものにお茶を通して気付き、触れていくお話」と。

■ 茶道教室の先生役に樹木希林

さて――。ここでさらに重要となるのが典子の師、茶道教室の先生役である。「ただ者ではない」と噂される、その武田先生には樹木希林が。こちらも有無を言わさぬハマり具合で、「ただ者ではない」希林さんしか考えられないキャスティング。茶道の経験はなかったが、映画のために所作や手順を習い、身に付けて、着物姿もお似合いの、どこから眺めても和の神髄を極めた“お茶マスター”なのであった。

■ 黒木華と樹木希林の共演シーン

観ていて、心に刻まれる場面は数多(あまた)あるが、ともに大森組に初参加、黒木華と希林さんとの共演シーンが中でもぜいたくに感じられるだろう。人生の局面で立ち止まりながら、典子は武田先生の待つ茶道教室へと通い、自分自身を見つめる。縁側に並んで座って静かに、感情をにじませるシークエンスがとりわけ白眉だと思う。武田先生は特別なことは何もせず、ただポンと典子の膝に手を置くだけ。だが、黒木華は撮影現場で心を動かされ、自然と涙が流れてしまったという。

さながら「スター・ウォーズ」シリーズのグランド・マスター、ヨーダのような師匠感あり! 本作には己を貫き、荒波を越え渡ってきた“樹木希林”という女優、いや、人間自体のたたずまいや生き方の美しさも同時にあふれている。そして最初にして最後の共演となってしまったものの、最高の役者から黒木華が、得難い何かを授けてもらったフィクション内ドキュメントにも見える。

■ 「こんなふうに何でもないことを…」

劇中、典子に向かって「こんなふうに何でもないことを、来年もまた毎年同じことができるということが本当に幸せなんですねぇ」と語り掛ける武田先生。このセリフは沁みる。希林さんが言うからいっそう沁みる。まさしく映画の成功を証明した、“キャスティングの妙”をたんと味わっていただきたい。

■ 文=轟夕起夫

ライター。『キネマ旬報』『クイック・ジャパン』『シネマトゥデイ』『シネマスクエア』『DVD&動画配信でーた』などで執筆。モデルとなった書籍『夫が脳で倒れたら』が発売中。(ザテレビジョン)