WOWOWライブでは、アメリカ・ジャクソンビルのヴェテランズ・メモリアル・アリーナで開催される「UFC249」の模様を、5月10日(日)に生中継する。

当初4月19日に開催を予定していた今大会は、新型コロナウイルス感染拡大により延期に。そんな中、このほど十分な安全対策を講じ、必要最低限の関係者立会いの下で無観客試合として行われることとなった。

メインカードは、トニー・ファーガソン×ジャスティン・ゲイジーのライト級暫定王者決定戦。さらに、王者ヘンリー・セフード×挑戦者ドミニク・クルーズのバンタム級タイトルマッチも組まれている。この2試合の見どころについて、“世界のTK”こと高阪剛に語ってもらった。

■ ライト級暫定王者決定戦は“格闘技バカ”VSオールラウンダーのマッチアップ!

――新型コロナウイルスの影響で、UFCナンバーシリーズは2カ月ぶり、しかも無観客での開催となりましたが、 豪華なカードが揃いました。

高阪:そうですね。この状況下での開催にはいろんな意見もあると思います が、安全性を確保した上で何とか大会を成立させる方法を見出してくれたのは、 選手やファンにとってはうれしいことです。

――メインカードは、 ライト級王者ハビブ・ヌルマゴメドフがロシア国外に出られないことなどから、 トニー・ファーガソン×ジャスティン・ゲイジーの暫定王者決定戦になりましたが、 これも大注目のカードです。

高阪: これはこれで相当見応えがあるカードですよ。

――ヌルマゴメドフの代打ゲイジーは、UFC参戦後6試合全てでポストファイトボーナスを獲得している超名勝負男であり、現在3連続1ラウンドKO勝ちという最も勢いに乗っている選手の一人です。

高阪:今回、自分も改めてゲイジーのUFCでの試合を順を追って見たんですが 、清々しいまでの“格闘技バカ”ですね(笑)。いわゆる“ファイター”タイプで、相手の攻撃でもバックステップせずに、常に前に出て“倒しきる試合”をする選手。典型的なストライカータイプに見えますが、バックボーンは違うんですよね。

――幼少の頃からレスリングを始めて、大学時代はNCAAディヴィジョン1でオールアメリカンに選出された、根っからのレスラーです。試合では、レスラーにはとても見えませんが(笑)。

高阪:逆に言えば、 レスリング技術を全面に出さずに、いわゆる懐刀を忍ばせながら接近戦でバンバン打ち合って い るんでしょうね。だから対戦相手にしたら、レスリングを警戒しながらトップレベルのストライカーと相対さなきゃいけない。

――だから気が抜けないし、嫌な相手なんですね。

高阪:また、ローキックで崩してから右のオーバーハンドという必勝パターンがあるのも彼の強さで す。その右のオーバーハンドは、しっかり当たらなくても倒せるだけのリストの強さを持っているのでは、と思うんですよ。

変な角度でパンチが当たると、普通の選手だと手首が折れてしまったりするんですが、 ゲイジーの場合は、「この角度では倒れないだろうな」っていう角度でも倒しているので、尋常じゃなくリストが強いんだと思うんです。

――かつてのエメリヤーエンコ・ヒョードルや、イゴール・ボブチャンチンのようなタイプですか。

高阪:ライト級ながら、そういう強さを持ってますね。また、あの打ち方のフックはちょっと遅れて手が出てくるので見えにくいんですよ。それが相手にとっては脅威だと思います。

ただ、ファーガソンとしては戦略は立てやすいはず。必勝パターンは決まっているし、これまでの試合でゲイジーのクセも研究できていると思うので。だからポイントとなるのは、ゲイジーが隠し持っているレスリング力かもしれない。

――その武器はあくまで懐刀として、これまであまり使ってこなかっただけに、と。

高阪:ファーガソンは、長い手足を利した打撃だけではなく、グラウンドの極めも強いし、いわゆる“今成ロール”みたいな、トリッキーな動きから寝技に持ち込むこともできる。

でも、ゲイジー相手にきれいにテイクダウンを奪って、上のポジションになるのはなかなか難しいと思うんです。だから上を取るとしたらゲイジーだと思いますが、その時にトップキープがどれぐらいできるのか。それも興味があるところです。

――ファーガソンは下からの極めも強いですからね。

高阪:ゲイジーがそれを回避するだけのコントロール能力を持っているとしたら、ファーガソンにとってかなり厄介な相手になるし、その“まだ見えてない部分”が不気味なポイントでもある。

だからこの試合は、すべてがハイレベルのオールラウンダーであるファーガソン相手に、ゲイジーがどんな戦略を立ててくるのか。さらなる引き出しを開けてくるのかを注目したいですね。

■ 3年ぶりの復帰戦でドミニク・クルーズがアッと言わせる!?

――続いてセミ・メインイベントのバンタム級タイトルマッチ。こちらも当初は王者セフードにジョゼ・アルドが挑戦予定だったのが欠場となったため、代わりに元王者ドミニク・クルーズが3年ぶりの復帰戦で、いきなりタイトル挑戦のチャンスをつかみました。

高阪:ドミニクは何度か復帰戦をけがで棒に振っています。だから彼が今回、どれだけのコンディションを作り上げてきたのかがまずポイントとなる。

いい状態でオクタゴンに上がる前提の話になりますが、そもそもドミニク・クルーズというのは、変幻自在のステップとそこから何が飛び出すかわからない打撃やタックル、さらに相手に空振りをさせる高いディフェンス能力も持っている。そういう選手が、今絶好調の王者セフードと対戦するのは、非常に興味深いです。

――ドミニクは10年前のWECバンタム級王者時代から、常にMMAの進化の最前線にいた選手ですよね。一方、対する王者セフードは“絶対王者”と呼ばれたデメトリアス・ジョンソンを下して王者になってから、さらに覚醒した感があります。

高阪:セフードはレスリングで北京五輪の金メダリストですが、レスラーがMMAに転向する場合はボクシングに力を入れて、それをレスリングに溶け込ませるパターンが多いんです。でもセフードは違っていて、伝統派空手のような構えで傾姿勢を取らずにまっすぐ立つ。そこが特徴的かなと思います。

――スタンス的には、 堀口恭司やリョート・マチダのような。

高阪:そうですね。彼の中でいろんな打撃の打ち方を試行錯誤しているうちに、強い打撃をしっかり打てる形としてこの構えに行き着いたんだと思うんです。それでデメトリアス・ジョンソンやマルロン・モラエスを翻弄していますからね。

その形を見つけてから、覚醒した感があります。また、普通ならあの構えからスパーンと両足タックルには行けないのですが、そこはそもそもの才能なんでしょう。

――レスリングと空手の融合に成功していると。

高阪:対するドミニクは構えがあってないような状態なので、すごく対照的です。しっかり構えて、力を溜めて打つセフードに対し、ドミニクはステップの中で最短距離で打撃を当てることをやるので。

そしてドミニクは、局面ごとにあらゆる動きができるので、相手からすると動きが読めないというか、試合を作れなくなることが起こっているんです。

でも、セフードは基本“待ち”のスタイル。だからドミニクに変に合わせることをしないと思うし、惑わされない気もするんです。だからセフードがどう仕掛けていくかでしょうね。それでドミニクの翻弄するような動きさえも巻き込んでしまうような強さがセフードにあれば、これはもう本物です。

――ものすごいポテンシャルを持っている人が、それを見つけてしまったという。

高阪:セフードは元フライ級でも、体格差を苦にしないでしょうしね。本人は「バンタムどころか、フェザーでもライトでも大丈夫だ」みたいなことを言っていますが、実際練習で上の階級の選手とやっても組み負けていないんだと思います。そんなセフードに、故障明けの35歳、ドミニクが勝ったら大変なことです。

――でも、ドミニクなら何かやってくれそうな気もします。

「けがを乗り越えて、気持ちがしっかり作れていれば、もともと才能で言えば飛び抜けていますから。才能が体を超えてしまっているから、故障が多いのかもしれない。

ハードパンチャーが拳をけがしやすいのと同じで、溢れ出る才能が体の機能を超えてしまっている。彼のトレーニング映像なんかを見ると、美しいですからね。流れるような、絵に描いたような総合格闘技ができる選手なので。

――MMAファイターとして覚醒した金メダリストと、MMAの申し子の戦い。これは楽しみです。

高阪:それがこういう大変な時期に見られるわけですからね。また、練習するのも大変なこの時期にしっかり心と体を仕上げてくることに、見る立場として拍手を送りたいですね。今回はいろんな意味で、ファイターの強さ、すごさを見せてくれることを期待したいと思います!(ザテレビジョン)