2020年度前期の“朝ドラ”こと連続テレビ小説「エール」(毎週月〜土曜朝8:00-8:15ほか、NHK総合ほか)。本日5月12日放送の第32回より“東京帝国音楽学校のプリンス”役の山崎育三郎が本格的に登場。劇中で披露された歌声には、SNSなどで「さすが本格的…!」「これは山崎育三郎にしかできない役!!」「朝からこんな歌声を聞けるなんて幸せ」などのコメントが寄せられている。そんな山崎について、フリーライターでドラマ・映画などエンタメ作品に関する記事を多数執筆する木俣冬が解説する。(以下、第32回までのネタバレが含まれます)

第7週あらすじ――裕一(窪田正孝)は音(二階堂ふみ)との新婚生活をスタート。同時にレコード会社の専属作曲家としての仕事も始まる。一方、音は歌手を目指して音楽学校に入学。そして上級生の佐藤久志(山崎育三郎)と急接近。久志は裕一の幼なじみだった。

■ 現実でもミュージカル界の“プリンス”

朝ドラ「エール」第7週・32回に、音の通う“東京帝国音楽学校のプリンス”として登場、美声を聞かせた山崎育三郎。

5月5日放送の第6週・27回では久志であることは伏せられ、音に歌のアドバイスをする“謎の男”として登場していた。

しかし、7日放送の「あさイチ」へのリモート出演で、「“プリンス久志”から」と自ら役柄をネタバレしハッピーバースデーの歌を披露。(※ドラマ本編外では事前に役柄も公表)

博多華丸・大吉にそれぞれ「まだあまり出てきてない」「まだ『エール』のイメージが固まってなかった」と突っ込まれたていた山崎だったが、これで正式に“主人公・裕一の幼馴染・佐藤久志”として「エール」のイメージも固まるであろう。

東京帝国音楽学校のプリンスとして女生徒たちの憧れの的という設定の久志は“ミュージカル界のプリンス”と呼ばれる山崎育三郎にぴったりの役である。32回でも、ミュージカル俳優だからこそ、吹き替えなしで完璧な歌を聞かせてくれた。

■ 窪田正孝&唐沢寿明とは「THE LAST COP」で共演

先輩“プリンス”には井上芳雄がいるが、山崎は新世代のプリンスとして「レ・ミゼラブル」「モーツァルト!」「ミス・サイゴン」「嵐が丘」「エリザベート」などの数々の名作ミュージカルに出演してきた。

1986年生まれの山崎は、子供のときにミュージカル「アニー」を見て、歌のレッスンをはじめ、12歳でミュージカルデビューを果たす。東京音楽大学在学中に「レ・ミゼラブル」(2007年、20周年記念公演)のオーディションでマリウス役に抜擢され、本格的にミュージカル俳優として活躍し、栄えある演劇賞なども受賞している。そのビジュアルと歌は甘く華やかである。

いま、新型コロナウイルスの感染予防のために多くの舞台が中止や延期になっているなかでミュージカル俳優40人がリモートで「戦え それが自由の道♪」と歌い上げる「レ・ミゼラブル」の代表的な曲「民衆の歌」を配信(企画、製作Shows at Home)していて、そこでも山崎の歌を聞くことができる。ちなみに「嵐が丘」(2011年)では安倍なつみと共演し、それが結婚につながった。

山崎のエッセイ集「シラナイヨ」によると、ミュージカル俳優として活動してきた山崎がミュージカルをもっとたくさんの人に知ってほしいと思って出たドラマが、唐沢寿明と窪田正孝の「THE LAST COP/ラストコップ」(2015年、日本テレビ系)。

いま思えば、ここで未来の「エール」出演が宿命づけられていたかのようである。そのとき、大きな声を出し過ぎて、ミュージカル「エリザベート」につぶれた声で出ることになってしまったと書いている。

舞台と映像の違いに苦労した山崎はその後、日曜劇場「下町ロケット」(2015年、TBS 系)に出演。このときは「エリザベート」の役のために生やしていた髭を、監督にそれがいいと言われ、そのままにすることで、甘めのルックスのイメージと少し違った印象を残すことに成功した。

■ 歌や王子様のイメージとは離れた役でも活躍

ミュージカルとテレビドラマの仕事が山崎のなかでいい感じに融合しはじめていくなかで、逆にミュージカル俳優であることを生かしたのが、初主演ドラマ「あいの結婚相談所」(2017年、テレビ朝日系)。

劇中、海で、山で、森で、山崎が歌い踊るミュージカルコーナーのようなところが話題になった。本物のミュージカル俳優がやっているのだから本格的でとても見応えがあり、最終回はミュージカル俳優の大先輩・鹿賀丈史まで参加して大人数のミュージカルシーンが作られた。

このときの脚本家に「エール」第7週から登板している清水友佳子がいる(最終回でメインライターの徳尾浩司と共作になっている)。ここでもまた「エール」との縁を感じるような出会いがあったのである。

同年、NHKでは「おやすみ王子」(NHK Eテレ)という“王子”キャラを全面的にアピールした番組で朗読もやっていた。

このように得意ジャンルを生かし、テレビドラマファンにも山崎育三郎の存在感をどんどん浸透させていきながら、その一方でミュージカルや王子様のイメージとは離れた役にも挑む。

ドラマ10「昭和元禄落語心中」(2018年、NHK 総合)で演じた型破りな落語家役は、口跡がよく落語の内容がよくわかるうえ、放蕩な人物の色気も漂わせ、俳優として前進した。

舞台出身の俳優の演技は濃すぎると敬遠されることもあるものだが、山崎の場合、プリンスキャラという甘いムードが程よいのと、もって生まれた華やかさはやっぱりテレビで見ていても愛されるのである。

キラキラプリンスキャラだけでなく、ユーモラスなこともできるところも最近は注目されている。

バラエティー番組「その他の人に会ってみた」(TBS 系)では好きな野球の形態模写を披露。私は野球選手に詳しくないので完コピ!とは断言できないが、野球好きな人にはたまらないであろう、しっかり特徴を真似ているように見えた。ひとつひとつのポーズが鮮やかで面白く才能を感じた。

この笑いの才能も、コント演出も多い「エール」には生かされていくのだろうと感じる。

意味深なことを言ってすぐに消えてしまうちょっととぼけた久志は、裕一と鉄男(中村蒼)で「福島三羽ガラス」として音楽の道を突き進んでいくという。これからの活躍を楽しみにしたい。歌もたくさん歌ってほしい。(文・木俣冬)(ザテレビジョン)