4人組ロックバンド、SHE‘Sの4枚目のアルバム『Tragicomedy』は、アイリッシュに挑んだ『Masquerade』や、艶やかなファンク『Ugly』等、これまでになかった音楽性の楽曲が次々と展開される。

井上竜馬(Key&Vo)「今回のアルバムは、心について書こうと思ったんです。でもサウンドの方向性は一切決めなくて。制作ミーティングで担当ディレクターが、『締め切りなしに、とにかく竜馬が書きたいと思う濃い曲をいっぱい書いてほしい。それでいつかアルバムがリリースできたらいいね』って言ってくれたところから始まったんです。だから、メンタル的に自由度が高かったのが一番大きいです」

広瀬臣吾(Ba)「今まではアルバムの間にもいつシングル を出してってプランがあったんですけど、それもなかったな」

井上「曲を書いていく中で、みんながハマったいい曲があれば配信で出してもいいなあくらいでした。何も考えず、純粋にその時々の自分のブームやサウンド感が曲に反映されていきましたね」

広瀬「1曲ごとに全然違う曲ができていったので、常に新鮮な気持ちで取り組めましたね。初心に返ったような、何もないところからスタートしたような気分というか」

服部栞汰(Gt)「一旦竜馬がデモを作って、それに対して僕らがアレンジをする作り方は変わらないんですが、自然と曲に寄り添えるようになってきた手応えはありました。あと単純に、新しいサウンドに取り組めて、すごく楽しかった」

木村雅人(Dr)「今までは、アルバム全体のバランスを考えながら、次はこういう曲を作るのかなとか予想してたところもあったんですが、それもなくて。本当に竜馬が今書きたい曲をどんどん書いていったんで、次どんな曲くるんかなってワクワク感もあった」

これまでは、情景を繊細に描写するような美しい歌詞のイメージが強かったが、今作はむき出しの心をストレートに書いた歌詞が胸に刺さる。 

井上「心とどう向き合おうっていう観点から作ったので、より真っすぐな言葉の方が伝わりやすいと思ったんです。自分の身近な人が心の病気になっちゃったのが一番大きくて。自分がコントロールできない部分で、どう心を受け入れたり、諦めたり、利用していけばいいんかなってすごく考えて。その身近な人のためでもあるし、それを考えることは自分のためでもありました」

広瀬「今までよりもシンプルになって、メッセージ性がはっきりしたと感じました。その分、曲のアレンジも、全員が同じ方向を向けた。素直に曲を聴いて、全員が出した答えが一致した感じがあります」

アルバム中盤、雄大でドラマティックに展開される「Your Song」には、強靭な決意が込められている。

井上「 “辿り着くことが全てか/刻んだ時間が全てか/どちらでもない世界で/僕らの選び方で 寄り道しよう”という歌詞の部分が、自分としてはこの曲の核の部分なんです。その時その時で正解は違うけど、自分で選ぶことが大事というか。こういう考え方って、以前から自分の中でぼんやりとはあったんですが、なかなか言葉にできなくて。でも、今回ようやく見えたところがあって。しっかり意志を持って選択できてるなら、そこに間違いは存在しないんじゃないのかなと思ったときにこの曲を作ろうと思ったんです。ずっと自分の中で、バンドにおける“成功”って何なのか分からなかったんです。どこまで結果を出せば成功なのかも、どんな道のりを辿れば正解なのかも分からない。夢を追いかけてる人はみんなそう思うこともあると思うんですけど。今回、自分なりにすごく楽しく楽曲制作ができて、ピュアに楽しむことの大事さを痛感して。それって、これまでにそうじゃない道を歩んだこともあったから感じられたことでもあって。だから、今までのことどれもが正解やったのかなって思えたのも、この曲を書くきっかけになったと思います」

続く『Be Here』はダークで重厚。深い海の底に沈んでしまった心に対し、救いの手を差し伸べるようなメッセージは、今作の随所に感じられる。

井上「心が無理やり沈んじゃうときって、悲しいというより、無でしかないっていうか。何も聞こえないし、暗いし、ただただ怖い。そういうときに無理やり強い光量のライトで照らされてもびっくりするし、光が正義ではないというか。それで“光の毛布をそっとかけるよ”っていう歌詞を書いたんです。“そこにいるよ”っていう安心感だけ渡して、あとは自分の足で立ち上がってもらうしかないというか。無理やり引っ張った方が良いときもあるかもしれないですけど、前に進むのは自分の意志だと思うんで、それを待ってるっていう」

終盤に置かれたアルバムタイトル曲『Tragicomedy』は、しっとりとしたピアノが響く。

井上「心を病んでしまったその人に向けて書いたところがありつつ、心っていう漠然としたテーマに対して、ある種の答えをちゃんと描きたいなって思って。『よく分からんけど、いっつも引っ張られる心ってなんやねん』みたいな。『どう受け入れてどう付き合っていきたいねん』みたいな問いのアンサーになればいいなって思って書きました」

■ メンバー4人それぞれルーツが違うからこそ、想像できないところに到達できるおもしろさがあります

1曲1曲、とても強い存在感がある曲ばかりだが、メンバーそれぞれの聴きどころというと?

広瀬「『Blowing in the Wind』で、初めてフルでシンセベースを弾いて、すごく新鮮で楽しかった。こういうタッチの曲がアルバムの後半にあることによって、良い軽さが出る効果もあるなって」

服部「僕は『Be Here』です。今までの自分のギターと違った感じで、曲に寄り添ったアレンジができました。最初デモを聴いたとき、結構、スってアレンジが出てきたんですよ。でも一箇所ポップになり過ぎて、竜馬に指摘されて。レコーディングの前日にジョン・メイヤーのライブを見たんですけど、それでテンションが高まり過ぎちゃって(笑)」

井上「陽気さがあふれてたな(笑)」

服部「(笑)そこは変えたんですけど、全体的には今までなかったような渋さがギターで出せました」

井上「結果的に僕には全然思いつかないよう仕上がりになりましたね。どうしてもこういうプレイをしてほしいってところは自分で作るんですけど、そうじゃないところは自分たちの個性を出してほしいなって思ってますね。メンバー4人それぞれルーツが違うからこそ、想像できないところに到達できるおもしろさがあります」

木村「僕は『Unforgive』です。前作からエレクトロとバンドの融合に挑戦していて。それがうまい具合にハマりましたし、後半にかけて盛り上がっていくバンドのドライブ感もすごい感じますし。ドラムも色々遊んでるので、一番やりがいがありました」

井上「『One』はいい具合に、洋楽のダイナミックな感じを出しつつポップスにできたなって思いました。サビでこんなに転調したことは今までなかったんで。(NHK)Eテレのアニメ『メジャーセカンド』のエンディングテーマなんですけど、原作を読んで曲を書き下ろして。作品に寄り添うだけでなく、自分との共通点ってなんなんやろって考えて、ちゃんと自分の物語にもできた。いろんな人に伝わってくれるといいなって思います」

『One』には“ただ一つしかない道で ただ一人の君に逢えた 運命でも奇跡でもない 僕らが掴んだ未来”という確信的なフレーズがある。

井上「“運命”と“奇跡”っていうポップスでよく使われるそのふたつの言葉全否定みたいなテンションで歌ってしまいました(笑)。前からそういうことは歌いたかったんですけど、じゃあ運命とか奇跡の感覚に近いものをどう理解しようっていうのが自分の中で見えてなくて。漠然と、『なんか神任せな感じ腹立つな』としか思ってなかった(笑)。今回自分の中で、どう歌えばいいかっていう手応えを感じられたから書いたんです。ただ希望だけ歌ってても、僕自身あまり『ええな』って思わないっていうか。夢物語感はやっぱ出ちゃう。いかに自分たちがリアルなものを求めてて、リアルに生きてるかっていう。現実の出勤や登校の中で耳に入ってくる音楽でありたい、その力になるものでありたいって思うから、こういう歌詞を書きましたね」

2021年は結成10周年の年にあたる。

井上「今回の制作がめちゃくちゃ楽しかったので、このモードは絶対になくしたくなくて。僕らは、曲をこう受け取ってほしいっていうのは特になくて、受け手が自由に昇華してほしいと思っていて。でも、曲を聴いて安心するアーティストでいたいとは思っています」(ザテレビジョン・取材・文=小松香里)