アリソン欠場をよくカバーした

ユヴェントス、ACミラン、チェルシーのオーナーが、私財を投げ打って新型コロナウイルスに立ち向かっている。各クラブも食品をフードバンクに寄付し、ボルシア・メンヘングラードバッハの選手たちは、「クラブと職員を守れるのなら減給も受け入れる」と、上層部に直訴したという。不安を煽るしか能のない日本のワイドショーが、是が非でも見習うべき姿勢だね。

30シーズンぶりのリーグ優勝が決まったといって差し支えないリヴァプールも、新型コロナウイルスと戦っている。サディオ・マネとアンドリュー・ロバートソンがそれぞれの母国に多額の寄付をし、多くの選手がSNSを通じてポジティブなメッセージを発信。フィルジル・ファン・ダイクは──。

「どうぞお気をつけて。You’ll never walk alone」

サポーターを勇気づけている。これまた素晴らしい姿勢だ。

そんなリヴァプールは開幕早々、アクシデントに見舞われた。GKアリソンがふくらはぎ痛。「やばいんじゃね」と頭を抱えたサポーターの皆さんも少なくないはずだ。アリソンは安定感があり、ポゼッションの起点にもなれるわけだから、ネガティブな反応は当然だと思うよ。

でも、アリソンが復帰する第8節まで、アドリアンがパーフェクトに埋めた。彼がいなければリヴァプールの開幕ダッシュはなかった、とも考えられるでしょ。


スターだらけの組織は崩壊する

いま、ヒーローが批判されている。「アトレティコ・マドリード戦の敗北はすべてアドリアンのせいだ」とか「もう必要ない」とか、心ない声も聞こえてきた。たしかにアドリアンはミスったさ。GKのエラーは失点に直結するからイメージも悪い。

しかも第二GKは、戦術的な選手交代のないポジションでしょ。出場機会はごくごく限られ、心身ともに調整が難しい。十分に準備していたとしても、会場の雰囲気にのまれることだってあると思うよ。しかも正GKアリソンは世界のベスト5に入る名手だ。アドリアンの気持ちにも寄り添ってあげなくちゃ。だいたい、負けた責任をひとりに押しつけること自体がアンフェアだ。

「彼は何度もわれわれを救ってくれた。リヴァプールに加入して以来、素晴らしいパフォーマンスをずっと続けている」

アトレティコとのホームゲーム終了後、クロップ監督もアドリアンをかばっていた。

第二GKは基本的に脇役で、ミスをしたときにスポットライトが当たる損な役まわりだ。だからこそ、リスペクトしなくちゃいけないポジションでもある。レギュラーのトレーニングに付き合い、愚痴を聞き、縁の下の力持ち的な要素もあるでしょ。

スターだらけだったら、ロッカールームは衝突が絶えない。選手全員の自己主張が強いと、あっという間に組織は崩壊する。アドリアンのように控え目なタイプも、チームのバランスをとるうえで必要不可欠だ。彼に対する不当な批判は慎むべきであり、むしろ序盤戦の活躍に感謝しなくちゃね。危なっかしい場面もあったとはいえ、グッドジョブだったよ。

文/粕谷秀樹

スポーツジャーナリスト。特にプレミアリーグ関連情報には精通している。試合中継やテレビ番組での解説者としてもお馴染みで、独特の視点で繰り出される選手、チームへの評価と切れ味鋭い意見は特筆ものである。