注文の多い女たち:久々に現れた”私を好きだ”という人。でも、一体私の何がウケた?

注文の多い女たち:久々に現れた”私を好きだ”という人。でも、一体私の何がウケた?

「最近、良い出会いがない」

未婚・美人の女性に限って、口を揃えて言う言葉である。

しかしよくよく話を聞いてみると、その言葉の真意はこうだ。

「理想通りの、素敵な男性がいない」

フリーランスでバイヤーをしている岡村亜希(32)も、そんな注文の多い女のひとり。

後輩の結婚式2次会で若いだけの女に惨敗した亜希は、友人・エミと一緒に良縁祈願に出かける。

京都・鈴虫寺の住職から「あれこれ条件をつけてはいけない」と諭されたふたりは、それぞれ「ふさわしい人」を探し始めるが...



人のことならわかるのに...


「乾杯!やっぱり、夏の京都は最高ね」

エミの弾む声で、女ふたり、シャンパングラスを重ねた。

夜風に乗って届く水音と、納涼床を楽しむ人々の語らう声が風流なBGMとなって聞こえてくる。

「さすがエミ、いいお店知ってるね」

せっかくこの時期に来たのだからと、鴨川沿いでフレンチの床ディナーを楽しめる『フナツル キョウト カモガワ リゾート』をエミが予約してくれた。

32歳、存分に遊んできた女は、並の男以上に完璧なデートプランを用意できる。だからどんどん、男性に対する要望も高くなっていくのだ。

「百合ちゃんも、一緒に来られたら良かったねぇ」

早くもシャンパンを飲み干したエミが、思い出したように呟いた。

百合ちゃん、というのは亜希の大学時代の友人である。高校まで白百合学園に通っていたお嬢様だが未だ独身。お食事会に参戦する時などに3人で集うことがよくあって、エミとも面識がある。

今日も声をかけたが、家族で父親のお誕生日をお祝いするの、と断られてしまった。

「百合ちゃんこそ、“ふさわしい人”探すの大変そうだよね。どう見ても金のかかる女なのに本人にその自覚ないからな...って、人のこと心配してる場合じゃないんだけどさ」

エミがひとり突っ込みをして舌を出すので、亜希も笑いながら大きく頷いた。

百合が未だ独身である原因は、亜希から見てもエミの言う通りだと思う。

...ふたりとも、人のことなら手に取るようにわかるのだ。


エミがまともな恋愛から遠ざかっている理由

エミが恋愛できない理由


日帰り京都旅から東京駅に戻ったのは、23時半だった。

「エミは山手線だね?」

こんな時間だからもちろん自宅に戻るだろうと、目黒に住むエミに問う。しかし彼女は予想に反して首を横に振った。

「私、待ち合わせがあって...」

「待ち合わせ?」

−深夜に、いったい誰と?

言いかけて、亜希は言葉を飲み込んだ。

エミが気まずそうに逸らす目を見て、予想がついたからだ。

相手は、エミが昔付き合っていたテレビ局勤務の元カレだろう。



付き合っていたと言っても、当時...エミが25歳の時だからもう7年も前の話になるが、ふたりの関係は不倫だったらしい。

「妻とは別れ話をしている」などと常套句を言っていたようだが、関係を持つようになって1年が経っても離婚せず、不信感を募らせたエミは暴挙に出た。

なんと、彼の携帯からこっそり番号を盗み出し、自宅に電話をかけたのだ(若かったとはいえ、その考えなしの行動には驚く)。

そうして暴かれたのは「彼と妻の間に離婚話など出ていない」という真実。それで目が覚めたエミは彼と縁を切ったはずだったのだが...。

そういう男は妙に嗅覚が長けているもので、タイミング良くというか、悪くというか、エミに彼氏が途切れた隙を狙うようにして連絡してくるのだという。

「人肌恋しいときに、懐かしい声で誘われるとつい...ね」

以前、エミはそんな弱音を漏らしたこともあった。

未来のない男と、ずるずる関係を続けてもしょうがない。

そんなことは、きっとエミもわかっているのだ。それでも流されてしまう弱さを、亜希も責めることなどできない。

表ではどんなに明るく振舞っていたって、強がっていたって、東京で、女ひとり生きる過酷さ、淋しさに耐えきれない夜があるから。

だから、何も言えない。言うべきではない、とも思う。

「そっか。私は丸の内線で霞ヶ関に出るから...じゃ、またね」

深く追及せずにひらひらと手を振ると、エミはホッとしたように笑った。その表情から、亜希はエミの心の叫びを聞いた気がした。

エミがこれから会いにいく男は、彼女に“ふさわしい人”ではない。しかしきっとエミは、元カレなしには立っていられないのだ。今は、まだ。

しかし同時に救いの顔をしたその元カレこそが、彼女の幸せを邪魔している。不倫という、無責任で楽な逃げ場所を維持したまま、新しい恋愛などできるわけがないのだから。

遠ざかっていく友人を眺めながら、亜希は再び祈った。

−早く“ふさわしい人”が現れますように。


亜希にさっそく鈴虫寺のご利益が!?

新しい恋の予感?


ー翌週ー

「ああ、暑くて溶ける...」

代官山にある某セレクトショップ。秋冬小物の商談を終えて外に出た亜希は、灼熱の太陽に目眩を覚えた。

こんな猛暑の中、ファーだのニットだのを大量に抱えているものだから、余計に体温が上がる気がする。

次のアポイントは、20分後に恵比寿。普段なら歩くところだが、この暑さではさすがに厳しい。

取引も決まったことだし...とUberのアプリを起動したところで、LINEのポップアップが表示された。



差出人は、広告代理店時代の後輩で、先日結婚式を挙げたばかりのマミちゃんだった。

彼女の結婚式二次会では、32歳の亜希が誰からも声をかけられずにいる目の前で、20代半ばの若いだけの女にひっきりなしに男が群がるという悲劇が起きた。

苦々しい気持ちが思い出され、無意識に眉間にシワを寄せながらトークルームを開く。

“亜希さん、先日は結婚式二次会に参加してくださりありがとうございました♡”

当たり障りのない挨拶、そして「マミ感謝♡」というゆるキャラのネーム入りスタンプを挟んで...その次のコメントに目を通し、亜希は思わず一人で「え!」と叫んだ。

“二次会で、主人の同僚が亜希さんに一目惚れしたみたいで。連絡先を聞かれたのですが、教えて良いですか?♡”

−ひ、一目惚れ?!

亜希は、頭をフル回転させて一生懸命思い出す。

二次会の会場風景を、記憶から必死に呼び起こしてみる。

あの夜、亜希に声をかけてきた男性は一人もいなかった。よって亜希に一目惚れをしたという男性に、すぐ思い当たる人はいない。しかし...。

−もしかしたら、あの人かも?

唯一脳裏に浮かんだのは、エントランスで参加者を撮影する係をしていた男性だ。懐かしのチェキで皆を撮り、一言メッセージを書くように案内していた人。

亜希の写真を撮った後、出来上がりのポラロイドを手渡してくれたその一瞬...今注意深く思い返してみれば、目が合った時、言葉にならない何かを感じた気もしなくもない。

韓流アイドルにいそうな、精悍だが穏やかそうな優しい笑顔の男だった。

すごく好みのルックスというわけではないが...それでも好意を寄せられて悪い気はしない。

“それ、本当に私かな?(笑)私で良いのなら、もちろん教えてもらって構わないよ”

本心では、何よりもまずチェキ担当の彼なのかどうなのかを確かめたいところであるが、落ち着いた大人の女性らしくそこはぐっと堪え、謙遜も交えた返信に留める。

−これってもしかして、さっそく鈴虫寺のご利益?!

まだ彼から連絡があったわけでもないのに、亜希はさっそく、初デートに着ていく洋服はどうしようか、などと考え始める。

32歳女にとっては、ひとつひとつの出会いが真剣勝負なのだ。


▶NEXT:8月29日 火曜更新予定
チェキ担当の彼との初デート、その行方は...


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